ウクライナの原子力

ウクライナでは親西側の政府とそれに対抗する親ロシア勢力の抗争が続き、ロシアが天然ガスの供給を停止したとのニュースも伝えられている。ウクライナのエネルギーは歴史的にも旧ソ連時代から原子力発電にも強く依存してきた。ウクライナ問題を考える上で、ウクライナの原子力を知ることは役に立つと思うので、その概要を紹介する。

 

旧ソ連時代の原子力政策

ウクライナ、原子力といわれると大抵の方はチェルノビル事故を思い起すと思う。しかし、ウクライナと原子力、核兵器との付き合いは1950年代にさかのぼる。以前の投稿でも述べたが、原子力の始まりの時代には米国、ソ連などは同盟国へ研究炉を共有し、固い同盟関係の証しとした。こうした技術協力が核拡散の危険とならないように進められた点に注目する必要がある。ソ連の場合には衛星国への技術協力は研究炉と発電炉の建設に限られ、核燃料はソ連から提供され、使用済み燃料はソ連に変換されることが契約に含まれていた。核燃料転換加工工場や、濃縮施設など核燃料サイクルに関わる技術移転は行われなかった。連邦内の共和国に対しては若干の柔軟性があったようで、カザフスタンなどには核燃料加工工場や高速炉が置かれたりしたが、ひとつの共和国内におかれる施設は核燃料サイクルのごく一部に限られていた。

ソ連から供給された研究炉の多くは軽水を減速材、冷却材とするプールタイプで、燃料は高濃縮ウラン(濃縮度36%)が用いられていたが、1990年ごろから低濃縮ウランに切り替えられ、高濃縮ウランのロシアへの返還が行われた。

ソ連から供給された発電炉には、チェルノビル事故で広く知られるようになった黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉(RBMK)と西側のPWRに似た設計のロシア型加圧水型原子炉(WWER)の二種類がある。RBMKはソ連外には提供されなかったが、プルトニウム生産に適した炉型なので核拡散を恐れての措置と思われる。WWERは初期には出力400-440 MWeであったが、1980年代以降は出力1000MWeが標準となっている。

ソ連時代、ウクライナは連邦内でも一段格の高い共和国で、国連の加盟国のひとつでもあった。地理的にも西欧に近く、鉱工業が進んでいたので、1950年代からの冷戦の中で、軍需産業、特に航空機、兵器、の分野でソ連に貢献し、核兵器も配備されており、ソ連にとって西の要衝であった。こうした背景から、ウクライナは放射線照射の原材料物質に対する影響の研究などを通じ、1960年代からソ連崩壊まで、ソ連の原子力研究、核兵器開発、軍需産業に組み込まれ、重要な役割を果たしていた。

ウクライナの原子力研究

2012年3月、ウクライナからロシアへの高濃縮ウランの返還が完了されたことが発表された。1991年にウクライナがソ連をから独立するまでに三箇所の原子力研究機関に研究用原子炉が供給され、これら研究機関にあった高濃縮ウランが供給国ロシアへ返還されたわけである。この高濃縮ウランの返還自体ウクライナに限ったことでなく、核拡散防止の観点から核サミットでも取り上げられ、国際的に進められている。

物理工学ハルコフ研究所(Kharkov Institute of Physics and Technology):1950年代以降ソ連の原子力エネルギーの利用に貢献し、加速器を用い、中性子計測など原子炉、核兵器、熱核融合などに役立つ研究を行い、新しい物質の開発などで成果を挙げる。ソ連崩壊後この研究所の研究者とその知見の拡散を防ぐために西側が多額の支援を行った。核拡散上の危険の高い研究が行われていたためである。また高濃縮ウランを保有していたや研究内容から原子炉を運転していたと思われるが、IAEAのデータベースに登録されておらず、研究所のホームページも原子炉に触れていないのは不思議である。ソ連、ウクライナの機密管理により、今も公表がはばかられているのかもしれない。ウクライナ独立後、1990年代には核兵器関連の研究をはじめ多くの研究が中止され、ロシアとの協力、情報交換も途絶え、研究所は厳しい時代に面していたが、最近では高速炉や高エネルギー粒子の研究などの方向性が整ってきているようである。

キエフ原子力研究室(Kiev Institute of Nuclear Energy, National Academy of Science):放射性同位体製造や教育用の原子炉で、10MWthの出力のIRT型炉である。ハルコフ研究所に比べ地味な存在であるが、民生面(医療用同位体製造)やチェルノビル事故での貢献が知られている。

セバストポル原子力工学工業大学(Sevastopol University of Nuclear Engineering and Industry):出力100kW の教育用原子炉。ソ連時代海軍の士官学校であった。

ウクライナの原子力発電

チェルノビル:  1977年以降、事故を起こした4号機を含め4基のRBMK-1000が設置された。現在は停止。直径30kmの立ち入り禁止区域が設置されている。

ロフノ:1980年以降、2基のWWER-400と2基のWWER-1000が設置された。

フメリヌィツィキー:1987年以降、2基のWWER-1000が設置された。

ユージュノウクラインスク:  1980年以降、3基のWWER-1000が設置された。

ザポロジェ:  1984年以降、6基のWWER-1000が設置された。

これから分かるようにウクライナでは16基の原子炉が運転中で、その発電は原子力に大きく依存(約50%)している。ウクライナはロシアからの原子炉燃料の輸入に頼ってきたが、現在の両国の関係をみれば、天然ガスの例からも分かるように、将来の原子炉燃料の安定保証が問題となるかもしれない。ロシアはWWER炉の燃料の一元供給を行ってきたが、東欧の国々でも西側の原子力会社への移行が進んでいるので可能性の無い話ではないと思われる。

ウクライナの核兵器

1991年の独立を前後して、ウクライナには大量の核兵器、ミサイル発射施設が残され、ウクライナがべラルーシ、カザフスタンなどとともに核兵器国となる懸念が生じた。当初ウクライナは非核兵器国となる旨を表明していたが、独立後は国内でのナショナリズムの高揚などにより、NPTへの加盟も遅れ、ロシアへの核兵器返還に対する抵抗も見られた。こうした状況を解決すべく1994年12月に米国、ロシア、イギリスはブダペストで、ウクライナが核兵器を放棄することと引き換えに、米国、ロシア、イギリスの3カ国がウクライナに対し、軍事力を行使しないことを約束し、ウクライナは非核国となって核拡散防止条約(NPT)に加盟することを求めた(ブダペスト宣言)。これを受けウクライナは核兵器を放棄しNPTに加盟した。こうした歴史的背景を見ても核兵器に対するウクライナ国民の思いが入り組んでることが見て取れよう。このブダペスト宣言は最近のロシアによるクリミア併合への批判の根拠とされている。

最近のニュースから

以上見たとおりウクライナは旧ソ連時代には核兵器開発や軍事産業でソ連経済、国防に多大な貢献をしていたのに、1991年の独立とともにある意味ではロシアに見放され、経済的にも厳しい状況におかれたといえよう。特に原子力世軍需産業に関わる先進科学に携わる技術者、科学者は雇用の危機が生じ、西側は彼らの知見が拡散することを恐れ資金援助を行ってきた。ハルコフの例にも見られるが研究の方向性が定まりつつあることが期待される。

ウクライナは原子力発電大国であるが、その技術、機材、燃料はロシアに依存してきた。エネルギーの問題でロシアとの軋轢が増しているが、現在運転する原子炉の保守運転に必要なロシアからの援助が滞る危険があると思われる。事実今月(200年7月)にはいり、いくつかの原子力関連のニュースが目にとまったので紹介する。第一はウクライナがロフノ、ユージュノウクラインスクからの使用済み燃料の貯蔵施設の建設を考えているとの報道である。ロシアは原子炉を提供した国に、使用済み燃料を返還することを求めているが、ロシアでの貯蔵などの費用を請求するが、その費用が高いことが表向きの理由のようである。これはロシアの核不拡散対策への挑戦となっている。第二は、ウクライナの首相ヤツェニゥクをふくむ複数の閣僚がロシア以外からの援助を受けて原子力発電を継続する必要性を認め、運転機関(Energoatom)への監督、サポートを強めているとの報道である。当然ながら、これに対しては短い期間で西側がロシアの核燃料を製造するのは難しいとの見方もあるが長期的にはウクライナが選ぶべき方向であろう。

最後に

ロシアが天然ガスの停止を決めたように、また、7月16日深夜(ウイーン時間)にオバマ大統領がロシアのエネルギーセクターへの制裁強化を打ち出だしたように、ウクライナ問題の焦点はエネルギー問題である。ウクライナの今後の動向を考える上で役に立つかと思い、ウクライナの原子力の概要を紹介してみた。いずれにせよ秋から冬に向けウクライナのエネルギー事情が厳しくなるので注目しておく必要があると思う。なお、施設名などは本来ウクライナ語表記すべきと思われるが、筆者の慣れ親しんだロシア語からの表記を用いた。

参考サイトは次の通り(順不同):

http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2012/03/27/fact-sheet-ukraine-highly-enriched-uranium-removal

http://www.kipt.kharkov.ua/en/bhr.html

http://www.insc.gov.ua/plants/kyiv/

http://www.stcu.int/documents/reports/distribution/tpf/ipf/nuclear/ua/pdf/KINR.pdf

http://www.kinr.kiev.ua/index_en.html

http://www.sre.gob.mx/en/images/stories/cih/ucrania.pdf

http://en.wikipedia.org/wiki/Sevastopol_National_University_of_Nuclear_Energy_and_Industry

http://en.wikipedia.org/wiki/Energoatom

http://www.energoatom.kiev.ua/en/about_nngc/nngc

http://en.wikipedia.org/wiki/Chernobyl_Nuclear_Power_Plant

http://www.iaea.org/NuclearPower/Downloadable/Meetings/2013/2013-05-21-05-24-TWG-NPTD/19.ukraine.pdf

http://www.world-nuclear-news.org/WR-Ukraine-expects-own-used-fuel-facility-in-2017-02071401.html

http://www.world-nuclear-news.org/NP-Energoatom-welcomes-choice-of-vendor-14071401.html

http://en.ria.ru/world/20140523/190080207/Simple-Switch-to-US-Nuclear-Fuel-for-Ukraine-Plants-Impossible--.html

http://m-words.jp/w/E38396E38380E3839AE382B9E38388E8A69AE69BB8.html

http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/publictn/68/68-1.pdf

 

コメント   

# 羊飼い男 2014年07月19日 15:09
ウクライナって原子力に総発電電力量の40~50%を依存してる。そのためには相当な核燃料の供給と廃棄物の処理が必要。

廃棄物はチェルノに中間処理施設をつくっても住民がいなければ文句はない。

でも原料はどうするのか。

それと核兵器の廃棄もやり遂げる財源がない。

困ったものだ。ロシアにとってもお荷物だろうな。
# Hideo 2014年07月23日 08:14
ウクライナは不幸な国である。他にも不幸な歴史を持つ国も多々あるが、ソ連の核武装の中心であったにもかかわらず、独立して負の遺産を背負い込み、ロシアの目の敵になった。

米国はソ連の崩壊を棚ぼたで喜んだが、モチベーションを失った政府は機能不全に陥り、金融に目がくらんだ結果、ソ連よりひどい低迷に。

ウクライナはロシアと縁を戻さないとBRICSに対向できる勢力がなくなる。再びロシアーBRICSの冷戦構造に戻ると、安定が訪れるのではないか。

You have no rights to post comments

hitachihightec

hitachihightec science

Copyright© 2013.   放射線ホライゾン rad-horizon.net   All Rights Reserved.