国連科学委(UNSCEAR)国連総会への報告 (2013年10月)

1年ほど前に、放射線の影響に関する国連科学委員会United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation: UNSCEAR)の福島原発事故に関する活動を紹介した。昨年の秋、国連総会へUNSCEARの報告が提出された際に、紹介しようと思っていたのだが、イランの投稿などで遅れてしまった。UNSCEARの定期会議は例年5月に開かれるのにあわせて投稿した。

昨年10月、UNSCEARは国連総会にその活動を報告した*1。科学的評価を依頼されていた次の2件について詳細な添付文書が公開された。

A: 2011年の東日本大震災と津波の後の原子力事故による放射線被曝のレベルと影響*2

B: 子供の放射線被曝の影響*3

*1:http://www.unscear.org/docs/GAreports/A-68-46_e_V1385727.pdf

*2:http://www.unscear.org/docs/reports/2013/13-85418_Report_2013_Annex_A.pdf

*3:http://www.unscear.org/docs/reports/2013/UNSCEAR_2013_Report_Annex_B_Children.pdf

専門外なので、報告された内容を評価はできないが、簡単に紹介したい。

A: 2011年の東日本大震災と津波の後の原子力事故による放射線被曝のレベルと影響

 環境に放出された放射性物質の線量評価を行なった。I-131Cs-137を評価のための主要な核種と認めた。一般公衆、福島第一原始力発電所(以下、F1と略す)職員などの放射線作業従事者、緊急作業従事者に分けて評価をした。天然起源の放射線による日本人の平均被ばく線量2.1mSv/年、170mSv/生涯 を評価の目安とした。

指定された避難区域の一般成人の避難中の被曝は10mSv以下で、甲状腺被曝は30mGy以下と推定された。一歳の乳幼児では避難中の被曝はこの2倍程度、甲状腺被曝は70mGy以下と推定した。福島市民では事故後最初の一年で4mSv、乳幼児ではこの2倍程度と推定された。生涯線量は多めに見積もって10mSvである。しかし様々な原因で評価はばらつき、たとえば、乳幼児の甲状腺被曝はモデル計算では100mGyを超える場合もありうる。

F1では201210月の間に(19ヶ月)25000人が除染などで働いたが、平均実効線量は12mSvであった。約35%が10mSv以上被曝し、0.7%が100mSv以上被曝した。高線量を被曝した12人については内部被曝の評価を行った。甲状腺被曝で2-12Gyと評価された。

健康への影響については次の所見が得られた。事故で被曝した公衆、労働者では、放射線による死者は確認されていない。公衆の初年度、および生涯の被曝線量は低い。放射線による健康への影響の増加は認められないであろう。最大の影響は心理的で、社会厚生に関わるもので、見えない放射線被曝に対する不安、汚辱感などによるものである。福島県民の生涯被曝線量の増加は10mSv以下で癌などの増加は認められないであろう。乳幼児の甲状腺被曝による癌の増加は心配されるが、100mGyを超える高い甲状腺被曝を受けた乳幼児は確認されていない。被曝線量の多い12人については今後の観察が重要である。20116月以来、福島県民の健康調査が進められているが、こうした調査では高い検出能力のため、異常の検知率が高まる傾向がある。条件の近い事故に影響されていない集団との比較が重要である。

いくつかの人以外の生物の放射線被曝も評価した。陸上、水中の人以外の生物の放射線による線量とその影響はUNSCEARの経験を基に評価した。低線量のため影響を確認することは出来ないであろう。海水中の生物による放射線効果は放出源の近くに限定されるであろうし、地上の哺乳類などによる拡散も限定的である。

UNSCEARの役割には含まれないが、人の被曝を減らすために農業、林業、漁業、観光などの環境と施設、また宗教、文化、娯楽施設に対し防護、予防的措置を講じることは重要である。

B: 子供の放射線被曝の影響

UNSCEARが子供の放射線被曝の影響を評価する際には「子供」は「成人」に対する意味で用い、乳幼児、子供、未成年者を含む。胎児への影響は他の多くの文献があるので、特に評価しなかった。医療診断や治療など子供に対する放射線照射には多くの有用な利用があるが、UNSCEARの任務外なので、これらは報告に含めなかった。

子供の被曝の要因を考える上で、事故による被曝、自然バックグラウンド放射線の高い地域、医療診断や治療の方法手順がとりわけ興味深い。UNSCEARの評価したデータは多様であり、広範な被曝線量、被曝線量率、全身また局部被曝、様々な年齢の子供が含まれる。

2013年の60回定期会議でUNSCAERは次の結論に達した。

  • 一定の照射線量に対して、子供は一般に腫瘍発生の危険が高い。照射で発生する癌の発生は数年後、数十年後まで続き、以前に(54回定期会議)で報告したように、生涯にわたる危険性は特定されておらず、23倍過小評価値されているかもしれない。
  • UNSCAERは最新の文献を検討した。腫瘍の種類、年齢、性別により子供の腫瘍は大人の場合より様々である。照射に由来する癌の発生率癌を、癌を発生させる「照射感度」と呼ぶ。UNSCAER23種類の癌を検討したが、白血病、甲状腺癌、皮膚癌、乳癌、脳癌を含む約25%の種類の癌では子供の照射感度は明らかに高く、実際の照射感度は推定される値はより高いかもしれない。

  • 15%の種類の癌(e.g. 大腸癌)では大人との照射感度の差は見られない。約10%の種類の癌(e.g. 肺癌)では大人より照射感度が小さい。そのほかの種類の癌(e.g. 食道癌、Hodkin病、前立腺癌、子宮癌、直腸癌)では結論付けられなかった。

  • 現在のところ、若いときに受けた照射による特定の癌発生の生涯危険の予測は統計的にはできない。
  • 子供にたいする高線量被曝後の影響と大人に対する影響の違いは複雑である。子供の被曝のほうが大人のそれより危険という例(e.g. 認識力欠陥、白内障、甲状腺)があるが、同等という例(e.g. 神経分泌物)や、子供の皮膚のほうが丈夫なので危険が少ないという例(e.g. 肺癌、卵巣)もある。
  • これらの検討に基き、UNSCEARは子供の照射被曝の影響による危険は避けることを勧める。
  • 2011年に検討したが、最近の研究でも照射被曝による遺伝的影響は確認されていない。
  • 子供の体は小さいので大人と比べ、遮蔽効果が少なく、内臓への線量が増える。この点は地中と地表の放射性核種密度の高い地域の住人の被曝を考える際に重要である。
  • 内部被曝に関しても子供、乳幼児は小さいので、内部器官は大人より高い被曝を受ける。放射性ヨウ素の内部被曝では89倍におよぶ。また放射性核種の医療利用の被爆を避けるうえで、子供の照射ための利用手順を別途定める必要がある。

UNSCEARは、電離放射線照射の及ぼす影響、その機構、その危険について、子供と大人に対する場合の違いの様相を特定していく上で将来の研究の必要性を認識した。生涯を通しての研究が特に重要である。原爆被爆者、チェルノビル被災者の生涯記録は不完全である。子供の照射の影響を生涯にわたり研究する上で、健康記録が利用されないこと、政治的行政的障壁、道徳倫理観、プライバシーなどの障害は多い。

将来の研究では、自然バックグラウンド、高線量医療、抗癌治療による予想される子供の被曝の障害における影響の評価を行う必要がある。UNSCEARは長期にわたる追跡を行うための子供の照射線量のデータベースの必要性を認めた。

2015年の活動計画

UNSCEARは次の課題についての検討を進めている。UNSCEARの定期会議は例年5月に開かれるが、今年の第61回定期会議では、次の課題が検討され、そのいくつかは国連総会への報告書としてまとめられ、提出される予定である。

  • 発電による放射線被曝と放射性放出による人の被曝の最新の評価方法
  • 体内にあるいくつかの放射放出物の生物学的影響
  • 天然および人工の起源の放射線による公衆の低線量率被曝の医学(epidemiology
  • 医療被曝の評価方法の発展

 

コメント   

# 恐怖体験者 2014年05月05日 10:48
安心したと同時に疑問は福島の小児の甲状腺がんでスクリーニングにかかった33名をどうみるのか、です。
# シューベルト 2014年05月09日 15:33
被爆による健康被害は認められない、という結果のようです。確かに松本の自動車修理工が集団で体調を崩して鼻血をだしたり、アラスカ航空乗務員が集団で体調を崩すのが被爆によるとは考えにくい。

しかし甲状腺スクリーニングで引っかかった33名の児童が偶然とは考えにくい。

これはどう説明するのでしょうか?
# PTA役員 2014年05月09日 15:37
結局、被爆の影響が認められない、というのは健康な成人であって子供への影響は考慮すべきと、読めます。

また高齢者や白血病患者のように免疫の弱い人への影響は別である、ということでしょうか。

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