Cs137の海洋汚染と海流の「ブロブ」

福島第一の事故から5年後の現在、太平洋に流れ込んだ放射性物資は海洋をどの程度に汚染したのだろうか。福島沖の海洋の線量測定や魚介類の全量検査などによって、数値化された放射線レベルは高いものではないとして汚染は事実上無視できるものと考える人が多い。一方では遠く離れた米国、カナダの太平洋岸の魚が汚染されて、健康被害が出ているして海洋が致命的に汚染されたとする声も上がっている。

  

バンクーバー水族館が主催した海洋汚染に関するセミナーで講演した海洋環境学の研究者(Ken Buesseler博士)によると、海洋を汚染したCs137の起源は1950-1960年代の核実験によるもの(1000PBq)、チェルノブイリ(85PBq)、福島は3-30PBqとなる。大雑把に言えば福島からの汚染規模はチェルノブイリに匹敵するが、太平洋の核実験で福島第一の30倍近くの線量の放射能汚染が支配的である。

海洋汚染は①原発から大気に意図的(ベント操作)あるいは圧力容器及び配管の破損で、大気中に放出されたプルームが海洋に運ばれて降雨によって海洋に溶け込む、②原子炉建物地下に流れ込んだ地下水が海洋に流れ込む、③プルームに含まれる粒子が地表を汚染し、山側から海洋に河川で流れ込む、ことで生じる。

 

福島第一から放出されたCs137による海洋汚染は事故後に急激に上昇し100x106Bq/m3のピークとなるが、その後は減少して2012年2月には1,000Bq/m3に落ち着く(東電発表データ)。この数値はチェルノブイリ後に起きた汚染としては最大である。この減少はCs137の半減期が30年であることと海流による拡散を考慮すると、海洋汚染の減少は海洋へ流れ込む量を減らすことができたためと考えられる。その意味では福島沖の海産物に対する致命的な汚染の危険は少なくなったと言える。

しかしこの減少した放射能汚染のレベルが米国では第一の問題になった。というのも日本の基準を下回っていても、米国の飲料水の汚染基準値を超えているからである。太平洋を挟む両国の規制値に1桁差があることが、福島第一による海洋汚染イメージにつながったのである。

 

海洋汚染が黒潮で北米の太平洋に運ばれるシミュレーションの結果(Rossiら)が第二の問題意識を引き起こすことになった。福島沿岸の汚染度が減少していくと同時に汚染の中心が北米に移動していき、2016年に北米沖合に汚染中心が定着することが予想されたためである。

北米沿岸地域に危機感が高まると安全性に危惧した市民たちが自主的に定点観測を行うようになった(http://OurRadioactiveOcean.org)。その結果は興味深い。Cs134が2Bq/m3以下の低線量の汚染が北米沖合(海温差の境界付近)を中心に観測されたが、Cs134は福島起源とは考えられない。しかし2014年に測定されたCs137の濃度がもっとも高い沖合は、シミュレーションの極大となる定点に一致した。このCs137はしたがって福島起源となる。

 

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Source: abc.ca

では何故、Cs137汚染は沖合に定点で分布するのかという問題は暖流の作る「ブロブ(blob)」と呼ばれる「海水の塊」(上図)が海岸付近の海水と混じり合わず、沖合に存在し続けるために起こる。「ブロブ」は近年、激しさを増す北米の異常気候にも関連する現象である。海上の気温マッピングにより可視化できる「ブロブ」とCs137の汚染度等高線(下の図)はほぼ一致する。

 

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Source: Birth of a new earth

 

独立に行われた北米海岸Cs汚染度の測定によれば太平洋海岸一帯でCs汚染が観測されたが福島起源のCs137ではなかった。すなわち福島起源のCsは北米海岸を汚染していない、ことが事実である。福島起源の核種の中で2015年に脅威が残るのは半減期の長いKr85、Cs137、Cs134、Sr90、Pu239、Pu240である。この中でKr85は気体で大気中の拡散で濃度は問題にならないほど希薄になるし、Puの存在比率は非常に低い(100万分の1スケール)のでこれらを除くと長期にわたり脅威となるのはCs137とSr90となる。(以上、Buesseler博士の講演から)

汚染水の除染がALPSで順調に進んだ結果、凍土壁が計画通り稼動すれば海側に流れ込む地下水をなくすことも視野に入ってきた。残る問題は除染できない唯一の核種であるトリチウムは希釈して海に放出することが検討されている。海洋は魚介類と資源の宝庫であると同時に放射性物資の廃棄場所でもあるということは認めざるを得ない。これを是とするかどうかは議論の分かれるところであるが、「ブロブ」の影響で汚染が局在化するとすれば、暖流を好む魚の食物連鎖に注意を払う必要があるだろう。

 

 

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