宇宙空間で生育が助長される菌

福島第一事故以来、放射性物質の汚染の人体への影響をめぐり、児童への影響があるとする子を持つ親たちの悲壮な叫びは収束する気配が見えない。一方では人体に影響を及ぼす放射線量ではなかった、すなわち健康被害や癌発生は福島第一の事故とは関連性が薄い、として健康被害はなかったとする意見に分かれたまま、両者の隔たりは益々増大し、5年後の節目にあたる今年、「無毛の議論」が再燃しつつある。

 

宇宙線や太陽フレアによる放射線量は大気やバンアレン帯の遮蔽のない宇宙空間では、宇宙飛行士が生命に関わる被曝を受けるとされてきた。データが集るに連れて宇宙飛行中のγシールドなどで健康被害が顕著化するほどの被曝を防げると考えられている。実際にISSで長期滞在を終えた宇宙飛行士に被曝の影響は報告されていない。

このほど地上400kmの軌道上にあるISSでの実験で宇宙空間の方が(地上より)成長しやすいバクテリアが存在することがわかった。研究によるとBacillus safensisという菌株(注1)は、宇宙空間で地上に比べて60%生育が向上した。

 

(注1)2004年にMars Exploration Roversが打ち上げられる前にケネデイ宇宙センターで発見されたJPL-MERTA-8-2。

 

耐放射線の生物としてはクマムシが知られているが、放射線量が高い(重力の影響も含めて)環境下で生育が助長されるという結果は初めてのことである。研究チームは重力の影響は菌の質量がわずかなので無視できるとしている。

研究チームの推測では菌自体に重力の影響はなくても生育に関連する何らかの因子に無重力が影響を与えるのではないかと考えているが、原因は現在のところ不明である。興味深いことに実験で用いられた48株のうち成長が助長されたものはBacillus safensisのみであったが、他は宇宙空間での生育不良は認められなかった(下の図は論文から)。

 

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研究結果(上図の生データ)は全て公開されていて解析の追試は自由である。

 

今後、系統的な研究が継続されることとなったが、研究グループは放射線の影響に関して触れていない。地球上で(医療機器を含まない)自然放射線による被曝は平均で年間2.4mSvである。一方、ISSの放射線量は1日あたり0.5-1mSvとなる。仮に1年ISSに滞在すると最大365mSvととなり、引き上げられた非常時の基準値200mSvを越える。

日常の150倍に相当する放射線(低線量被曝)が菌に影響を与えた可能性は(他の菌が影響を受けていないため)低いと考えられるが、宇宙空間は少なくとも菌にとっては生育を妨げないことが明らかになった。

 

参考記事

 生物への放射線の影響

 

 

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