被曝に備える新治療法について

原子力規制委員会が被曝に備えるSPEEDI予想の信頼性に対して、政府と異なる見解、「信頼性なし」としたことで、住民の不安を煽っている。福島第一事故では海外のシミュレーションがネット上に出回り、SPEEDIも結果があったにもかかわらず避難経路策定に生かされず、結果的に住民の被曝につながったが、それでもシミュレーションを軽視する傾向は変わらない。そのため汚染中心から5km以上離れた地点の空間線量が500μSv/h以上で避難開始という規則が出来上がったが、ではどちらに向かって避難するかという指針が示されない恐れがある。一方、現場での事故後の作業や避難指示などで被曝する場合に備えて先進的な緊急医療もある。

 

造血幹細胞移植療法(骨髄移植療法)

造血幹細胞移植療法とはhematopoietic stem cell transplantation, HSCTと呼ばれる元々は白血病治療のためのものである。強度(数Sv)の放射線を浴びて骨髄中の造血細胞を、(一般的には)整合するドナーの骨髄を移植することにより血球数を回復させる治療法である。

骨髄中の造血細胞が放射線損傷を受けると死滅するが、この療法で白血病治療のために造血幹細胞を移植する、すなわち造血細胞を取り替える、ためには大量(合計12Svほど)の放射線を意図的に照射して、一旦その人の造血細胞を死滅させてからドナーの造血幹細胞を移植して血液細胞を増やす(以下の図)。

 

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Source: ENCYCLOPEDIA BRITANICA

 

幹細胞はドナー血液中から採取され患者の骨髄から取り出された幹細胞と一緒に抗体中で培養され、抗体と結合したものが取り出されて濃縮され低温保管される。使用時には幹細胞溶液を解凍して希釈した幹細胞が患者の血液に戻される。

実際には患者とドナーの整合性が高いことのほかに白血球を死滅させるという荒っぽい治療のためにそれに耐える体力を有するということで50歳以下の場合に限られるなど、様々な条件が揃わないとできない限定治療であった。しかし同一人の骨髄を使う場合は整合性は完全に保証されるので、万が一の場合に福島の医師が作業者に骨髄バンクに自分の骨髄を保存するように呼びかけた。

白血病の治療においては厳しい条件をクリアして白血球を意図的に放射線(注 1)で死滅させたのちに幹細胞を移植した患者は白血病を克服し社会復帰した例が多いという。

(注1)12Gy=12Sv

 

PLURISTEM THERAPEUTICS

Pluristemというイスラエルのハイテク医療企業が大量被曝患者に対する有効な治療法を開発した。下の写真でもわかるように医療企業というよりは半導体製造のクリーンルームを備えた電子デバイス製造企業のような、清浄環境の中で"Product is Process"という標語の新しい治療技術、幹細胞治療の企業である。

 

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Source: Pluristem

 

Pluristem社は2013年に韓国がライセンスを持つ幹細胞治療技術に基づいて様々なドナーの骨髄から幹細胞を得て、PLX-PAD(Placebo)(注2)を開発した(http://jewishbusinessnews.com/2015/12/31/fda-awards-israeli-stem-cell-co-pluristem-orphan-drug-status/)。PLX-PADは対象患者が5万人以下という希少疾病用医薬品として指定を受けている。例えば母親の生命に関わる希少疾病として知られる子癇前症では唯一の治療法となっている。

(注2)PLXはPLacental eXpandedの略。

同社の幹細胞は人間のプラセンタ(胎盤)から出産時に採取されたものを超クリーンルーム中で培養し液体窒素温度に保存される。PLXの保存温度はマイナス150度以下となる。

同社は最初の製品PLX-PADに続いて血液学的疾患と放射線被曝患者救済用のPLX-R18を開発した。被曝後48時間以内の処置で患者は造血細胞を回復できるとしている。PLXはいずれも生きた幹細胞なので製造から保存に至るまでクリーンルームで行い、保存と搬送は冷凍状態で行う必要がある。万が一のための被曝患者救済措置として注目されている。なるべく出番が来ないことを願うがいざという時の手段は確保しておくべきだろう。48時間以内で冷凍保存の状態のまま特殊なラックで保護されたPLXを現場に運ぶことは物流的には可能であるが、福島の事故ではヘリの運用ができなかった。

 

 

 

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