年間許容線量の根拠

「上から目線」の丸川議員の失言、「年間1mSv以下に何の根拠もない」が波紋を投げかけている。周りを見渡せば北方担当大臣が「歯舞」が読めないのと同等な気がするし、福島問題では多くの大臣・官僚の失言が相次いだことも記憶に新しい。

 

東電の公式見解によれば「100-150mSv未満では発癌の確率が増すかどうか、はっきりした証拠はありません」。一方で政府が放射線障害の労災認定基準は被爆量が5mSv以上で、原発作業員や原子炉周辺で保安活動に携わる作業者は年間100mSvである。一体本当のところどのくらいの被爆量から健康被害が出るのか気になるのは自然である。

 

根拠はICRP

丸川議員が後に訂正したように一般人の許容量1mSvの根拠はICRPの勧告にある。そもそもICRPとは何か。ICRPはInternational Commission on Radiation Protection)の略で日本語表記は国際放射線防護委員会となる。その正体はオタワに事務局を持つ英国のNPOである。放射線防護の有識者会議のようなもので1924年に「放射線医学国際会議」を開催した際に「国際放射線単位及び測定委員会」を設立して以来、1950年に国際的許容基準を作成した。

「年間1mSv」についてはICRPの2007年の勧告による。1年間の被爆限度の放射線量を平常時は1mSv未満、緊急時には20-100mSvとしている。よく知られているように福島第一の事故においてはICRPが日本政府に被爆放射線量の許容値を20-100mSvに引き上げることを提案し、実際に政府が変更した。政府が上限を引き上げた際にICRPが提案してきたことは触れられていないのなら、タレント議員が知らないのも不思議ではないのかもしれない。

 

確率的影響と確定的影響

放射線による影響は主に発癌確率の上昇を意味する「確率的影響」と放射線による白血球減少などの健康被害を言う「確定的影響」がある。前者にはしきい値がなく連続的に線量に発癌確率が比例とする考え方やしきい値が20-100mSvの間にあるとする考え方がある。一方確定的影響については250mSvにしきい値がありそれ以下では健康被害が出ることはないとされている。

国の基準は福島事故以前はICRP1990年勧告(Pub.60)に基づいて、法令で実効線量が5年間で100mSv、年間50mSv(女子は3カ月で5mSv)以下と定められていた。緊急時の実効線量を100mSvから250mSvに引き上げたが、その根拠はICRP1990年(Pub.60)で緊急救助活動に(任意で)従事する者の規制値である(注1)。

(注1)ICRP2007年勧告では炉心融解により原子炉から周辺に壊滅的放射能漏れなどが予想される場合その予防などの緊急救助活動においては1000mSvまたは500mSvの実効線量が防護基準とされる。

 

250mSvの根拠

ICRPの250mSvの根拠も確定的(及び確率的)影響のしきい値250mSvも同じデータに起因するとみてよいだろう。放射線生物学の研究発表に見られる250mSvの根拠は1958年オークリッジ国立研究所Y12エリア臨界事故(注2)報告書(1958)とされている(日本保健物理学会第48回研究発表会 若手研究会セッション資料)。広島・長崎の被爆者のデータからは200mSv以上では被爆線量と発癌確率が比例する。200mSv以下の癌発生率と放射線量の関係は明確でない。

(注2)1958年6月にオークリッジ国立研究所(ORNL)のY-12エリアで濃縮ウラン溶液の取り扱い不備で臨界事故を起こし作業員8名が被曝。5名は2グレイ以上の大量被曝、3名は0.7グレイ以下の被曝であった。この8名の追跡調査が行われ2名が肺癌で死亡した。軽微な被曝の3名にはリンパ球数減少などの症状が見られた。ICRPはリンパ球数減少のしきい値(250-600mGy)を下回ることが確実で安全な値として250mSvを暫定的に採用したと取れる。

最新のICRPの見解はIRCP Pub.118(2012)にまとめられている。それによると成人の組織・臓器の1%が急性機能損傷を受けるしきい値は0.5Gyである。

 

年間1mSvは緊急時の年間250mSvに比べれば少ない線量であるし、事実自然放射線で2.4mSv、医療診断でそれ以上の被曝を受けていることを考慮すれば、丸川議員の失言もわからないではないが、重要なことは人体には個人差があることで、免疫力にも造血能力にも個人差がある。電磁波過敏症の人は携帯基地局のマイクロ波でも健康被害が出る。ICRPの勧告は余裕を見ての基準であるが個人差を考慮すれば、「年間1mSv以下に何の根拠もない」というのは暴言だと言わざるを得ない、と言いたいところだが...

 

年間1mSvという基準は法令にはないし、(より深刻な確定的影響の出ると考えられている250mSvならともかく)「根拠が薄い」ことも確かだ。ICRPの韓国はあくまで被爆を極力避けるための防護の目安であり、健康被害(確率的、確定的)の出る、出ないの境界を示すものではない。環境省が決めた除染基準が1mSvの根拠もここにある。(ただし年間1mSvに相当する積算値を毎時に換算する時に任意性があるため、しばしば議論の対象になるが深刻なものとは思えない。)

 

年間250mSvも(もし3名の被爆とその後の健康被害を基に評価されたしきい値だとすれば)、母体数が少なくて誤差が大きいことも頭に置く必要がある。ちなみにオークリッジ国立研究所の被爆者8名はその後に一時的な放射線障害は見られたが回復している。むしろ被爆を恐れストレスを抱えていくとそのための健康被害が出るかもしれない。年間1mSvの呪縛にとらわれるべきでない。

 

 

 

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