福島第一の線量評価とメルトダウンの関係

福島原発事故から5年目を迎えるいま「福島の甲状腺癌発生率が30倍となった」という論文(Tsuda et al. Epidemiology, 2015)に対して、「みつかった甲状腺癌の起源は原発事故による汚染にない」とする意見や「癌発生はさらに増えて(311前の)100倍規模となる」とする悲観的な警告にいたるまで様々な意見が存在する。このような状況で一番苦しんでいるのは子供が被曝したかもしれないと思い込んでいる親たちだろう。体内被曝が少ないという(早野教授の開発したBaby Scanも含め)福島のフルボデイカウンター計測結果に、希望を託す状況が続いている。

 

現在の混乱が解決するには時間がかかると思われるが、ここでもう一度、福島から放出された線量とメルトダウンの関係を考察しておくことにする。(線量の計測値については過去の報告と重複する。)

 

UNSCEAR(国連科学委員会)の線量評価(UNSCEAR2013 Report)

I131の総放出量の推定値は約100-500PBq、Cs137は6-20PBq。)P(Peta)は1015)これらは1-3号機の核燃料の2-8%にあたる。それぞれチェルノブイリの推定放出量の(それぞれ)10%と20%にあたる。

2011年のNatureの報告ではCs137の放出量は15PBq(チェルノブイリの1/5)、総放出量は14EBq(E: Exaは103Peta=1018)でチェルノブイリの5.5%としていた。I131の総放出量の推定値がCs137の約20倍ということが福島の甲状腺癌発生が増大するという考えのの根拠となっているようだ。しかし体内被曝は少ないことがわかっており、チェルノブイリの顕著な癌発生率の増加と異なる事情(注1)があると考えられる。

 

(注1)早野教授は主食である米が(いくつかの因子の相乗効果で)汚染されなかったことを理由にあげている。さらに筆者はチェルノブイリの主食である小麦は粉砕時に静電気を帯び、表面積が増大したことと相まって汚染物質の吸着量が多かったと考えている。(放出総量と放出形態の差が大きく影響したことはいうまでもない。)

 

JAEAのSPEEDIによる汚染シミュレーション

汚染源となった2号機からの放出

3月15日の2号機からの放射性物質の放出の寄与が大きい。15日は21時までプルームは太平洋に流れ、降雨帯と重なりが少なかったため、地表へのフォールアウトが少なかった。21時以降に風向きが内陸部に変化して降雨帯と重なることにより、16日6時までにフォールアウトの分布がほぼ決まる。

福島第一から北西に伸びる(飯館村を含む)高放射線量のベルトは3月15日午後の2号機からのプルームの降雨沈着によるもの。それ以外の広範囲の地表の放射線量は3月14日夜から15日未明の2号機のプルームによる。15日未明からのお汚染物質の飛散は継続し継続したが正門付近で高線量が計測された時間帯は住民の外出が少なかった。

 

メルトダウンとの関係

原子炉工学の専門家からみたメルトダウンにいたる経緯と放射性物質の大気への放出(原発付近で計測された線量)については2014年の石川迪夫著「考証 福島原子力事故 炉心溶融・水素爆発はどう起こったか」が詳しい。この本では米独日仏で行ったシビアアクシデント時の燃料棒の挙動に関する実験や米国スリーマイル島原発事故、チェルノブイリ原発事故の解析と、福島第一原子力発電所で何が起こったかを、1-4号機について個々に詳しく分析し、どのような経緯で炉心溶融・水素爆発に至ったのかが詳細に記されている。(データのない部分を推測に頼る部分もあるが、経験豊富な著者の推測に大きな誤りはないように思える。)

著者は溶融した燃料棒のメルトダウンが、たびたびメデイアが報道した「溶け落ちて圧力容器の底を突き破るメルトスルー」のイメージ動画と異なること、溶融熱源として崩壊熱以上に燃料棒の外側のジルコニウムと水の反応熱の重要性を強調している。さらに放射性物質の放出の大部分が15日以降の2号機の持続的な飛散によるものであるとする結論は、1-3号機のベントや水素爆発でなく(いまだに東電からの公式発表のない)圧力容器破損であることを裏ずける。

 

明らかにメルトダウンで炉心の黒鉛が燃焼して開放系となった原子炉から噴煙とともに吹き上げられたチェルノブイリと福島の差は大きい。福島の総線量がチェルノブイリの5/1以下であった福島の体内被曝が(チェルノブイリに比べて)少なかったとしたら納得できるのではないだろうか。甲状腺癌の発生率の調査を継続調査する重要性はいうまでもない。

 

 

You have no rights to post comments

hitachihightec

hitachihightec science

Copyright© 2013.   放射線ホライゾン rad-horizon.net   All Rights Reserved.