評価が分かれる福島の放射能汚染

アメリカのメデイアと動画サイトに頻繁に登場するフェアウインズ・エネルギー・エデュケーション(NPO)のアーニー・ガンダーセン氏は(ベント時ではなく)原子炉格納容器が破損した際に、大量の高レベル放射性物質が大気中に放出された結果、原発作業者と付近住民が吸い込み体内被ばくの影響で癌発生率が5年目を迎える2016年から、10倍から100倍(100万人規模)に増えると警告している。

 

大気中に放出された核種

放出された主な放射性物質はI131、Cs137、Cs134の3種でこのうちI131の半減期は8日なので、放出から4年になろうとしている今日、計測にかからないのは当然である。半減期2年のCs134も低下していることはあっても半減期30年のCs137は海に流れ込んだ分を除き消えることがないはずである。実際にSAFECASTの実測では放出時に風によって運ばれたフォールアウトの分布をきちんと反映した放射線レベルが観測される。核種の道程と核種ごとの精密な定量はCs137やCs134はゲルマニウム検出器を用いて周囲を鉛シールドで囲んだエネルギー分析により下記のように計測される。検出限界はおおむね10Bq/kgとなる。

 

Gammaspektrum 22041101 Cs-134 Cs-137

Source: uni-oldenburg

 

Cs計測値の混乱

フォールアウトのCs初期計測値はしばしば大気圏核実験の影響と比較されるが、詳細に見ると食い違った値がみられ混乱を呼んだ。一例をあげると、

(1) 1945年以降で大気圏核実験は2,379回行なわれた。高崎の137Cs濃度は,1966年の大気核実験時の3500倍、そしてチェルノブイリ事故の84倍高い。

(文献1)米澤、山本 ぶんせき2011 8 451

(2) 「大気圏核実験時代の放射能は気象研究所の観測によれば、セシウム137の降下量はピーク だった1963年6月(1ヶ月間)で550ベクレル/㎡、1963年(1年間)では1,924ベクレル/㎡を記録しました。一年間で1924ベクレルなの で、福島の一ヶ月で1399ベクレルという値は、核実験を何百回もしていた時代よりも大量の放射能が降り注いでいるということになります。」

(文献2)

 

 

現在のCs放射線レベル

Cs放射線レベル計測が広域にわたって行われ地域的な分布と時間変化が行われるようになると、次第に収束していった。

対応するように農工大研究グループの調査では、2012-2014年の3年間、阿武隈川の堆積物を分析しCs137が1kg中に600-2700Bq(最大28,900Bq)とばらつきがあるもののフォールアウトが堆積していることを示した。河川の魚では汚染された食物を摂取して濃縮される恐れもあり、除染地域でのCsの量も依然として無視できない。

一方で東大研究グループが中心となった南相馬市内の小・中学性の体内外被ばく量が平均で年間0.7mSvで基準値(1mSv)を下回った。実際には自然放射線6.4mSvを考慮すると、被ばく量よりX線レントゲンやCTの方が大幅に大きい。ただし児童のI131の被ばくについてはこの限りではないので、ガンダーセン氏の主張は主にI131被ばくによる甲状腺発生率の増加を意味しているととれる。実際、甲状腺癌発生率が50-60倍増加したという報告もあるので、アンダーセン氏が最大230倍という話をきくと、安心できるCs137の被ばくの問題はどこかに消えてしまい、親たちは疑心暗鬼に陥るのも不思議ではない。

 

Csの内部被曝は驚異的に少ない 

東大の早野龍五教授は福島の(Cs137による)体内被ばくが少ない理由として、体内被ばくの主要な原因である主食(米)への汚染が少なかったことをあげている。またCsが水田の粘土質の土壌に取り込まれてトラップされて稲を汚染しなかったとしている。同氏によれば福島産の米の全量全袋検査でもはねられる割合は減少して、ほとんどの米が安心して主食とすることができるレベルだという。また福島沖でのCs137の海産物への汚染も実測されているが、検出限界以下であることが複数の計測により明らかになっている。Cs137はシミュレーションによれば福島から太平洋全域に拡散して福島沖の魚介類の汚染が少ないことを裏付ける結果となっている。希釈すれば基準値を下回るから廃棄してもかまわない、という意見もあるだろう。しかしこれまで(規制がないため)ドラム缶に詰められて海中に投棄された大量の核廃棄物が腐食によりやがて漏れ出すことを含めて考えれば、海中投棄と同類である。

早野教授の開発した3台の幼児用フルボデイカウンターでは基準値を越える福島の幼児はひとりもでなかったという。結論としてCs137汚染は地表(厳密には浅い地中)で食品と人体への汚染は無視できるほど低い現在の状況は多くの人々を安心させた。しかし汚染地域の山菜ではいまなお基準値を大幅に越える数値が計測されていることも事実である。

 

原発事故当時のI131の被ばくに関する情報がないものの現在までの人体への影響と食品の汚染はCs137については、非常に少ないといえる。下の図に示す雨水中のCs137は2011年後もフォールアウトが続いていることを示している。(1986年のピークはチェルノブイリ)おおざっぱにいえば大気圏核実験を上回る程度のフォールアウトが続いている、といえる。

3-JP-Govs-data-shows-Sr-90-and-Cs-137-density-in-rain-and-dust-went-over-1000-percent-of-Chernobyl-accident-after-311

Source: 環境放射能

 

癌発生率が増加するという警告

人間はしかし「安心できる話」より「危険だ、恐ろしい」という話に耳を傾ける。ガンダーセン氏のように「専門家」がたびたびメデイアに登場して、眉をひそめ福島の恐ろしい現実と未来を語ることで、誤った認識が全米に流れ、そして動画サイトを通じて世界中に発信されていく。

 

ガンダーセン氏は講演の最後に「福島は米国で最近健康被害が話題になっている核廃棄物処理場(彼の表現ではDumping Ground)と同じだ」という表現は福島の人々には衝撃的だ。実際、ガンダーセン氏に影響されて、「数年したら日本には住めなくなる」などという人までいる。

しかしガンダーセン氏が癌発生率の上昇と結びつけているのはI131で、Cs137より事故当時は数100倍高い放射性物質となって待機中に飛散したが、原発の作業員が当時個人線量計を持たなかったため、被ばく量データがないこと、モニタリングポストのほとんどが停電で機能していなかったため、認識されていないだけだという。I131による被ばくで福島の甲状腺癌発生率が4年で30倍になったとする論文(Tsuda et al., Epidemiology, 2015)はガンダーセン氏の主張を裏付けることになるのだろうか。現時点でこの論文から類推して、結論を出すことは難しいが、Csの内部被曝と食品汚染が無視できることで安心するのはまだ早い。

 

Cs137についても除染に直接関わる人たちや、SAFECASTをはじめ汚染地域を計測してまわる人の立場ではCs137の脅威は依然として残っているということになる。Cs137の食品と人体への影響が少なかったことは事実としても、池面近くにあるCs層や粘土層にトラップされたCsは、そのままである。粘土質の土が乾けば風に飛ばされるし、大雨で流され下流に退席する。体内被曝が奇跡的に少ないのと食品汚染がないことは喜ぶべきことだが、除染、廃炉、そして高レベル放射性廃棄物の中間保存と最終処理への長い道のりを歩き始めたばかりである。

ガンダーセン氏が主張している

(1) 情報の欠如しているI131の被ばくによる甲状腺癌発生率の推移

(2) 圧力容器から外に出た核燃料の場所(地下水汚染源の把握)

について、我々はこれまで以上に注意して見守らなければならない。

  

補足

福島原発から放出された放射性物質

原子力安全・保安院の評価(2011.6.6)によれば131Iと137Csの放出量は、それぞれ1.6x1017Bq、1.5x1016Bq。全体の比率と放出量は

137Cs 1.5x1016 Bq, 70%

133Xe 1.1x1019Bq, 24%

134Cs 1.8x1016Bq, 5.6%

131I 1.6x1017Bq, 0.52%

90Sr 1.4x1014Bq, 0.42%

132Te 8.8x1016Bq, 0.11%

 

ウインズケールの原子炉事故で放出された131Iは7.0x1014Bq、チェルノブイリでは3.0x1017Bq(原子力資料情報室)となる。

チェルノブイリと同程度の131Iが放出されたことから、チェルノブイリで報告された甲状腺癌発生率の増加と同様な影響が福島でも起こる可能性は否定できないといえるが、131Iの放出量が137Csより100倍高いという根拠はない。

 

福島の内部が少なかった理由

福島の(137Csによる)体内被ばくが少ない(逆にチェルノブイリで多い)理由には複数の因子がある。早野教授によれば、体内被ばくは主食によるものが大部分であるという。チェルノブイリでは小麦、福島では米である。同氏によればまず土壌中の粘土にCsがトラップされたことと、Csが作物に取り込まれないようにK肥料を大量に撒いたためという。(K/Csが同時に取り込まれるためKの存在比が多くなればCsが少なくなる。)

さらに幸運なことは、米は殻に覆われている上に、炊飯前に「とぐ」ことで大量の水で洗浄するため、表面のCsは殻の表面に存在し、浸透して米に付着したCsはとぐ時に、イオン化して洗い流されたた目と考えられないだろうか。こうして考えると、実に幸運に恵まれたといえるが、最後の砦は全品・全袋検査でこのために開発された 検査装置が効果的に使われたことで、安全性が保たれたと考えられる。

一方、チェルノブイリでは小麦は粉砕されて粉になると、表面積が増加するので付着する汚染物質が増える。また131Iについていえば牧草に含まれた131Iは牛から牛乳に移動し食物連鎖により人々(特に牛乳を摂取することの多かった幼児)に取り込まれた。

 

 UNSCEAR(国連科学委員会)の線量評価(UNSCEAR2013 Report)

I131の総放出量の推定値は約100-500PBq、Cs137は6-20PBq。これらは1-3号機の核燃料の2-8%にあたる。チェルノブイリの推定放出量の(それぞれ)10%と20%にあたる。

JAEAのSPEEDIによる汚染シミュレーション

3月15日の2号機からの放射性物質の放出の寄与が大きい。15日は21時までプルームは太平洋に流れ、降雨帯と重なりが少なかったため、地表へのフォールアウトが少なかった。21時以降に風向きが内陸部に変化して降雨帯と重なることにより、16日6時までにフォールアウトの分布がほぼ決まる。

福島第一から北西に伸びる(飯館村を含む)高放射線量のベルトは3月15日午後の2号機からのプルームの降雨沈着によるもの。それ以外の広範囲の地表の放射線量は3月14日よるから15日未明の2号機のプルームによるもの。

3月15日の2号機のプルームが汚染に占める割合が大きい。放出総量がチェルノブイリに比べて少なかったことと、放出が夜間であったため外でフォールアウトを吸い込んだ人が少なかったこと、プルームの大半が降雨帯を避けて太平洋に抜けたことが、体内被曝が少なかったことにつながったと思われる。

 

 

 

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