白血病と放射線被曝

福島原発で作業中に被曝(年間15.7mSv)した男性が白血病を発症し、このほど労災が認められた。労災の認定基準は5mSv以上である。放射線被曝との因果関係が証明されれば、労災認定を受けることができる。5mSvをわずかに上回った被曝量で労災認定を受けた過去の例もある。下の写真で染色された細胞が白血病細胞。

 

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Photo: American Society of Hematology

 

年間2.4mSv(注1)の自然放射線の2倍程度の放射線を浴びて白血病を含む癌を発症し得るというのは何故か。放射線効果の個人差や放射線の種類、エネルギー、など被曝の仕方によって影響が大きく異なるとすれば、被曝を数値でかたずけることが難しいことを物語っているのではないだろうか。

(注1)世界平均。日本では年間1.4mSv。

白血病(Leukemia)とは骨髄の造血細胞の遺伝子異常により白血病幹細胞が発生し白血病細胞が増殖して骨髄を埋め尽くす病気。遺伝子異常が起こる外的要因は放射線によるものだけではなく、リスクファクターはその他の癌と同じように化学物質、ウイルス、活性酸素などがあるが、実は白血病幹細胞の突然変異が起きる本当の原因は不明なのである。

白血病は後天性であるが人種で統計上の発症率が異なり、男女間でも異なる。最新の資料では2015年の発症者は54,270人で癌患者の3.3%、癌死亡原因の4.1%である。白人は男性が10万人あたり16.8人、女性が10.1人であるのに対しアジア人では男性が8.8人、女性は6.3人と少ない。

 

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Photo: belimanastir.net

 

白血病幹細胞でも他の癌細胞と同様に免疫細胞の破壊を免れることにより、細胞死(アポトシス)を逃れ、増殖を繰り返す。詳細にみると白血病には骨髄系の細胞かリンパ系の細胞か、また急性か慢性かによって細く分類される。決定的な治療法がなく、骨髄移植をしても生存率が低く骨髄移植そのものが過酷な治療法でそのために死亡することも多いので、白血病発症は生命活動の終焉を意味するほど深刻な病気である。

 

放射線被曝が直接的に引き起こした白血病のデータは広島・長崎の被爆者の記録がよく知られている。1945年8月の放射線被曝の5-10年後、白血病のひとつである慢性骨髄性白血病の発症が増加した。0.1Gy以下の被曝者30,000人の白血病死亡者は69人であった。被曝量が増えれば死亡率も高くなる。その他の例ではチェルノブイリでは子供の甲状腺癌発症が報告されているが、有意の白血病発症の確証はない。ただし公式報告書が認定していないだけで住民による訴えはある。ロシアの核兵器施設(マヤーク)では93人の白血病発症が報告されや米国のプルトニウム工場(ハンフォード)でも住民の癌発症率が増えている。ただし被曝者の訴えを管理責任団体(最終的な所管は国)が認めることは残念ながら非常に少ない。労災の認定を行う機関を発足させて迅速な認定を行う必要がある。

 

CT撮影やPETではそれぞれ一回で30mSv、20mSvの被曝があるとされるので、今回の福島原発作業員の労災認定時の被曝量15.7mSvというのは、衝撃的である。我が国の放射線被曝の労災基準では被曝線量が年5mSv以上、作業開始から1年間以上経過した発症で他の要因(ウイルス感染など)がなければ認定される。福島原発では申請された8件の中での労災認定は初めて。

 

論文によればモデルにより放射線治療による被曝で白血病を発症することもあるため、化学療法も含めて癌治療で別の癌(白血病)を引き起こすことも注意しなければならない。ちなみに癌発症率と死亡者数は年々増加の一途だが、高齢化補正をすると変動はあるもののほぼ横ばいで、死亡率は下がる傾向にある。後者は治療法の発達と早期発見の相乗効果とみられる。ただし放射線の影響は特定の業種や地域に偏るので、原発労働者や付近の住民など被曝量が大きいと考えられる母体に対しては、特別な注意と統計が必要となる。

 

なお自然放射線が年間2.4mSv(注1)としたが1,500m上昇するごとに2倍となる。高高度では飽和しても~8.7Svなので放射線防御なしには生命を維持できないレベルとなる。なお成層圏を日常的に飛行するパイロットの年間被曝量は5mSv以下である。労災認定閾値に近いが認定基準にならない。癌発生の閾値の議論は難しいが個々の状態を規定する(科学用語ではWell-Defined)ことでの因果関係のデータの蓄積が必要であろう。そういう用途でビッグデータ活用が生かされることは間違いない。

今回の労災認定では「放射線と白血病の因果関係が否定できない」、という消極的な結論で認定されたことの意味は大きい。

 

福島第1原発事故の際、原発周辺で住民の救援活動などに従事した自衛隊員や警察官、消防隊員約3000人のうち、4割弱が約20間で一般住民の線量上限(年1mSv)以上被ばくしていた。100mSvを超える被曝はなかったとされる。

 

 

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