核の代償:米国最大の環境破壊をもたらしたハンフォード

1942年にワシントン州のハンフォードにプルトニウム精製工場がつくられた。ハンフォードは3つの川が合流する自然に恵まれたインデイアンとゆかりの深い平和な土地であった。この土地にプルトニウム精製施設をつくるきっかけとなったのはマンハッタン計画である。ハンフォードはシアトルから350km離れているとはいえ環境汚染が進んだ結果、シアトルを含むワシントン州に暗い影を落としている。

 

130222-hanford-hmed-628p

Photo: NBC News

 

オークリッジとハンフォードの運命を分けた環境保護

同じく1942年にはテネシー州オークリッジにウラン235の分離工場を建設することが決まっていた。アパラチアンのふもと、テネシー州が選ばれたのはマンハッタン計画を取り仕切るグローヴス少将が水資源と電力の豊富さに目をつけたからだ。ポツダム会談に望んだトルーマン大統領に届けられた原爆実験成功の報告書のタイトルは「マンハッタンプロジェクト」でなく「グローヴスプロジェクト」とあることからわかるように、マンハッタン計画はグローヴスに全て委ねられていた。

さてテネシー州のオークリッジは工場立地で町ができ雇用が拡大して活気がでたが、近くには州都ノックスビルとスモーキー国立公園の敷地に風光明媚な山々がつらなる。公園内にはスモーキーベアーと呼ばれるおとなしいクマが生息するこの土地の自然保護は全米でも最も自然環境が保護された土地のひとつである。当時のテネシー州知事はプルトニウム製造施設を立地に強く反対したため、ハンフォードが代替地となった。

このことでオークリッジ周辺は環境汚染を最小限にできた。いまでもオークリッジの研究所には日本から原子力工学技術者が多数滞在している関係で、テネシー大学のあるノックスビルより多くの日本人居住者がいる。オークリッジ国立研究所の種編にはガンマ線計測メーカーも拠点を持ちオークリッジ周辺は、原子力産業が発展した。1985年までガス拡散法によるウラン濃縮工場が稼働していたが現在は閉鎖され敷地は除染された。当時の原子炉を中心としてできたのがオークリッジ国立研究所である。

一方、ハンフォードには1945年までに3基の原子炉と3箇所のプルトニウム処理施設がフル稼働し、プルトニウム原料はロスアラモス国立研究所に送られてプルトニウムコアとなった。デーモンコアと呼ばれるコアで原爆がつくられ、ニューメキシコ州のトリニテイ実験を経て長崎に投下された。

 

contaminant sources

Photo: ecy.wa.gov

 

ハンフォードの環境汚染

ここまでの規模であればハンフォードの環境破壊はそれほどではなかっただろう。しかし冷戦がハンフォードの運命を変えた。1946年から原子力委員会の管理下に置かれたものの、運用はGE社が行った。冷戦で核兵器配備を増強するために9基の原子炉と5箇所の処理工場が追加されることになった。

 

1964年から運用規模は縮小し1988年には4分割されて除染が開始されたが除染が完全に終了しているのは1/4である。主な問題点は以下の通りである。

・ 過去の運用で放射性物質を大気に放出し米国の主要な汚染源となる・ 全米で最悪の放射能汚染地区になる・ 地下タンクから放射性廃棄物が漏れ出している・ 放射性廃液をガラス固化するプラントの安全性に問題があることが発覚

しかし除染作業に関わるハイテク企業も周辺に育ち、汚染がうまくいった土地では農業が復興し福島のモデルとなると期待されるケースもある。Cs137は調査によると50年間で地下数mまで沈み込んだ。またハンフォードの研究所は1964年にPacific Northwest National Laboratory (PNNL)としてエネルギー関連の研究所として再スタートを切った。除染がうまくいった地域とそうでない地域の格差が大きいことが指摘されている。

ハンフォードが抱える高レベル放射性廃棄物は20億リットルに登る。一部の古いタンクは外部に漏れ出してしまう欠陥が最近、指摘され環境汚染が懸念されるが、実際にコロンビア川の汚染が進み家畜に出産時の奇形など染色体異常とみられる放射線障害の報告もある(注1)。

(注1) SPIEGEL ONLINEの記事。第三者機関の系統的な調査が望まれる。チェルノブイリでも断片的な奇形の報告がある。

 

1361785618019.cached

Photo: thedailybeast

 

世代に引き継がれるハンフォードの環境汚染

ハンフォードの残り3/4の除染作業は難航しており、年間20億ドルを投入しても2052年までかかるという。また除染のほか原子炉は色作業も進めなくてはならない。核の代償は財政難の米国にとっても、住民にとってもあまりにも高いものとなった。だからといって原爆投下で市民を殺傷した責任は逃れられないものだが、核兵器が爆発しなくても、製造することでさえ多くの人の犠牲が必要だということを忘れてはいけない。

 

結局、除染作業の経費は国民の税金で賄われる。除染企業やロボットメーカーなど一部に潤う産業もでてくるだろうが国民の負担ははかりしれない。

 

 

 

You have no rights to post comments

hitachihightec

hitachihightec science

Copyright© 2013.   放射線ホライゾン rad-horizon.net   All Rights Reserved.