日本型放射線利用で成功したガンマフイールド

 普段放射線から遠い存在にある人でも、福島第一の原発事故の際には、放射線関連の書物を読みあさり計測装置を購入して放射線の知識を身につけた。騒ぎが落ち着くとまた放射線への興味は失われてしまった。

Oakridge-Atomic-Industries

Photo: edible geography

 

「放射線は人間に害ばかり及ぼす悪の権化」のようないっときの風潮が風化したかもしれない。医学応用への貢献など忘れて「放射線で何か人間の役に立っているものあるの?」という質問がいまだにきかれる。

ここで紹介するのは間違いなく人間社会に貢献した放射線応用のひとつ、ガンマフイールドである。最初は軍事研究で建設されたガンマフイールドが放射線照射による突然変異を利用して、植物の品種改良に利用して成功を収めた。

1959年3月、ロンドンのロイヤルコモンウエルス学会(注1)の夕食会に風変わりな科学者と役人の一団が顔を合わせた。夕食会のメニューの中にアメリカ製のピーナッツ "NC 4x, ノースカロライナ第四世代X線ピーナッツ"とかかれたナッツがあった。

(注1)Royal Commonwealth Society(RCS)

 

このナッツが18,500レントゲンの照射でミューテーションを起こしたピーナッツの種からできた放射線品種改良によるものであった。驚いたことに放射線照射を受けたピーナッツは普通のものより大きくまるでアーモンドのようだったという。

品種改良のための放射線照射を行ったのはノースカロライナ大学のウオルター・グレゴリー教授。彼は原子力に興味のあったマリエル・ハウワース夫人に貴重な実験の成果であるピーナッツを贈ったのである。周囲の無関心な友人たちを尻目に夫人は砂地で栽培できないか、試すよう提案した。実際に育ててみると4日で発芽し60cmの高さに成長したので、夫人はこのピーナッツにマリエル・ハウワースという名前をつけて新聞発表を行った。

 

その後アメリカでは放射線照射による植物の種は"Atomic Seeds"として市場に出回った。(上の写真)Atomic Seedsやそれを使った"Atomic Garden"は"Atoms for peace"プログラムに含まれる研究成果である。しかしこれらが世界初の放射線照射による品種改良ではない。(注2)。

(注2)世界初の放射線照射による品種改良ミズーリ大学のスタットラー教授が、トウモロコシやコムギの発芽種子にX線を照射した実験とされる。一方、実用的なガンマフイールドの応用は日本が先駆者であった。

 

ガンマフイールドは円形状(半径100m)の畑が中心にある放射線源を囲んだ簡単な構造(下の写真)で、日本の常陸宮の農業生物資源研究所にあるものは現在も稼働中であり中心には88.8TBqのCo60同位体が置かれている。

 

Gamma-Garden-1

Photo: edible geography

 

1957年にアメリカの原子力委員会から、日本の原子力委員会にコバルト線源と照射装置一式を寄贈する申し出がり、上記のガンマーフイールドが茨城県大宮町に1962年に設置され、本格的な照射試験が開始された。

Co60はベータ崩壊を起こしてNi60になる。このときに放出されるベ^―タ線のエネルギーは0.318 MeVである。Ni60はさらにガンマ崩壊を行うがここで放出される1.17 MeVと1.33 MeVのガンマ線が放射線照射に使われる。半減期は5.27年。

世界初のガンマフイールドは1948年にブルックヘブン国立研究所につくられたものだったが、その目的は放射線による植物への影響を調べる軍事研究のためであった。1957年に日本が寄贈を受けた目的はそれと異なる品種改良目的であり、グレゴリー教授の品種改良されたピーナッツの発表(1959年)の2年前のことである。最初から平和利用を考えた日本は地道に品種改良に取り組みこの分野で世界をリードすることになったのである。

 

You have no rights to post comments

hitachihightec

hitachihightec science

Copyright© 2013.   放射線ホライゾン rad-horizon.net   All Rights Reserved.