赤外光を可視光に変換する光子アップコンバージョン技術

コロンビア大学とハーバード大学の研究チームは、可視光を赤外線エネルギーに変換する化学プロセス(触媒)の開発に成功し、高強度の光照射による損傷なしに生体組織や他の物質に侵入できるアップコンバージョン技術の開発に成功した(Ravetz et al., Nature 565, 343, 2019)。

 

三重項フュージョンアップコンバージョン

赤外線光源を使用して可視光を作り出すことで、光線力学療法(注1)への応用など広範囲の応用が期待されている。研究チームは「三重項フュージョンアップコンバージョン」として知られる現象(下図)は、2個の赤外光子を1個の可視光光子に変換するものである。

(注1)生体内に光感受性物質(光増感剤)を注入し、標的となる生体組織にある波長の光を照射して光感受性物質から活性酸素を生じ、これによって癌や感染症などの病巣を治療する療法。国内に専門学会が設立されてい先端医療分野。

 

Simplified energy schematic of the triplet triplet annihilation TTA photon energy

Credit: researchgate

 

光線力学療法

太陽光利用のほとんどは可視光のみを取り込むため、残りの太陽スペクトルは無駄になる。三重項フュージョンアップコンバージョンは、低エネルギーの赤外光を吸収して、それを可視光に変換してエネルギー変換効率を上げる。

この技術により、紙、プラスチックの型、血液、組織など、さまざまな障壁を非侵襲的に通過させることができることがポイントである。内臓や健康な組織を傷つけることなく、可視光を皮膚や血液に浸透させる光線力学療法(Photodynamic therapy, PDT)では、癌細胞の死滅または増殖を抑制することができる酸素を作り出す光によって引き起こされる光増感剤を使用する。 

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Credit: Nature

 

現在の光療法は限局性癌または表面癌の治療に限定されているが、この新しい技術は、以前は適用できなかった身体の領域に光線力学療法が使えるようになる。悪性細胞を死滅させるために化学療法を使うと正常細胞にも影響を及ぼす。が、赤外光と組み合わせた光線力学療法薬は腫瘍部位を選択的に標的にし、癌細胞を照射することができる。また赤外線療法は、外傷性脳損傷、損傷を受けた神経や脊髄、難聴、さらには癌など、さまざまな病気や症状の治療に役立つ。

 

光子アップコンバージョン技術の応用分野

光線力学療法の応用以外にも、光子アップコンバージョン技術は太陽エネルギーの化学的貯蔵、薬物開発、センサー、食品安全方法、成形可能な骨模倣複合材料および加工マイクロ電子部品が期待できる。癌治療の標準療法はいわば副作用で寿命を逆に縮める力まかせの荒っぽい治療だが、免疫療法や光線力学療法は体に優しい、生体との親和性の高い療法である。これらが現在の標準療法に取って代わる日も遠くない。ちなみにオンコロジストの言う「副作用」とは放射線被曝に他ならない。

日本の癌発症率の高さは異常なほど増加しており、大腸癌がトップでそのため、内科医は何かと内視鏡検査を勧めてくる。理由は大腸癌の早期発見だが、説明とは裏腹にこれが相当な苦難の検査である。苦痛のない検査法と体に優しい治療法の開発の必要性は、検査される側になれば否応無しに認識させられることになる。

 

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