ハイコントラスト陽子線イメージング〜陽子線治療の新展開

ドレスデン工科大学の研究チームは、磁気共鳴映像法(MRI)と陽子線を組み合わせることで、正常細胞への影響が少ない粒子線癌治療法を開発した(Schellhammer et al., Phys. in Medicine & Biol. online Nov. 22, 2018)。

 

電離能力を持つ放射を腫瘍組織に照射して癌細胞の遺伝物質に損傷を与え分裂を防ぎ、細胞全体を死滅させる。今日最も一般的に使用される放射線療法(光子療法)放射線療法は、長い間、標準的な腫瘍治療のひとつであった。低コストで汎用のX線照射装置が広く普及しているが、ビームが幹部に届くまで患者の身体を透過し、腫瘍を取り囲む健康な組織にも影響を及ぼす。いわゆる「被爆」の影響が無視できない(注1)。

(注1)病院用語では放射線治療の「副作用」となる。その症状は被爆による障害そのものであるが、病院やオンコロジストは「被爆」という言葉を使うことはない

 

放射線治療は被爆を避けられない現実

放射線の代替案は、陽子のような荷電粒子を用いる粒子線療法である。これらの粒子の到達深さは、それらの初期エネルギーに依存する。最大線量を放出するいわゆる「ブラッグピーク(Bragg peak)」を超えての線量は無視できる。粒子線治療の課題は、陽子線を腫瘍組織の形状と正確に一致させるように制御することであり、できるだけ多くの周りの正常組織を守ることである。このために治療前に、X線ベースのコンピュータ断層撮影(CT)スキャンを実施して、標的体積を精密に選択する。

しかしこれにはさまざまな欠点がある。まず第一に、CTスキャンでの軟組織のコントラストが悪く、次に、標的体積外の健康な組織に線量が蓄積されることである。これに加えて、陽子線療法は、X線による放射線療法よりも器官運動および解剖学的変化の影響を受けやすく、動いて位置が固定されない消化器系や心臓などの悪性腫瘍を治療する際には照射の精度を低下させる。現在、粒子線照射中に腫瘍の動きを視覚化する直接的な方法はない。つまり陽子ビームが予定どおりに腫瘍に当たるかどうかを正確に知ることができないのである。したがって、腫瘍の周りに大きな安全マージンを確保しなければならないが、それでは健康な組織に損害を与えてしまう。

 

粒子線治療とMRIイメージングの組み合わせ

研究チームはベルギーの陽子線治療装置メーカーIBA(Ion Beam Applications SA)と共同で、陽子線治療とリアルタイムMRIを統合する試みを行っている。 MRIは、X線またはCTイメージングとは異なり、優れた軟組織コントラストを提供し、照射中の連続イメージングを可能にする。MRIガイド光子療法には臨床用途向けにすでに装置が開発されているが、粒子治療ではこれまで応用がなかった。

これは、MRIスキャナと陽子線治療装置との間の電磁相互作用に起因する。MRIスキャナは、幾何学的に正確な画像を生成するために、高度に均一な磁場を必要とする一方、陽子ビームは、電磁場が荷電粒子を円形の軌道に押し付けて加速させる円形加速器(サイクロトロン)で生成される。陽子線は、磁場がMRIスキャナの均一磁場に干渉する磁石によっても影響を受けてしまう。 

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Credit: Phys. in Medicine & Biol.

 

これまで電磁気障害のために陽子線治療時にでMRIスキャナを動作させることは不可能だと考えられていたが、研究チームはビーム補正により、MRIスキャナーが実際に陽子線治療で動作できることを実証した(上図)。高コントラストのリアルタイム画像と正確な陽子線の組み合わせが実用化できる見通しが得られたのである。荷電粒子がMRIスキャナの磁場内を移動するとき、ローレンツ力はその直線軌道からビームを偏向させるが、研究チームは、特殊な構造でビームの歪みを修正した(下図)。

 

Schematic sagittal view a and photograph b of the experimental setup The proton beam Q320

Credit: Phys. in Medicine & Biol.

 

ハイコントラストイメージングの実験結果を下図に示す。

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Credit: Phys. in Medicine & Biol.

 

プロジェクトの次の目標は、臨床用途に適用可能なMRIガイド粒子治療のための世界初のプロトタイプを開発することである。近い将来MRIガイド粒子線治療が一般化して、照射による健康被害が低減されると期待されている。貴方は自分が癌治療を受けるとき、オンコロジストから「放射線治療は副作用があるだけで、個人差があるだけなので心配いりません」、といわれたとき、それを真に受けるだろうか。

病院用語の「副作用」というのは「被爆による健康被害」なのである。一回の照射が300万円の粒子線治療には癌保険の特約が不可欠だと公言するオンコロジストさえいる。このような悲惨な現実を打破する技術のひとつであるMRIガイド陽子線治療が、誰でも受けられる安全な治療となることを願いたい。

 

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