光ピンセットが書き換える量子力学

Optical Tweezer(光ピンセット)と呼ばれる微小粒子を操作ができる集束レーザービームは、1970年にアーサーアシュキンによって考案され、その仕事でアシュキンは2018年ノーベル物理学賞を受賞した。しかしそれでも光ピンセットの真の意味は一般にはよく知られていない。光ピンセットは粒子操作ツールだけではなく、量子力学の理解を深め、原子を構成する粒子の観点から自然を説明する理論としての意味を持つからである。

 

tweezers1 1024x832

Credit: maillardlab

以下にスタンフォードグループ(Blocklabo)の光ピンセットの実験システムを模式的に示した。光ピンセット実験装置は、通常、市販の光学顕微鏡を利用するが、大幅な変更が加えられ、複数のレーザーが顕微鏡に接続されている。 高出力の赤外線レーザービームは、生体試料への光損傷を最小限に抑えるために使用される。 光トラップの正確な制御は、レンズ、ミラー、およびコンピュータを介して制御する音響/電気光学デバイスによって行われる。

 

optical trap schematic

Credit: blocklab

 

量子論の矛盾〜シュレーディンガーの猫

量子力学は、単一の物体が現実世界で2つの異なる状態に同時に存在することを可能にする。例えば、量子物理学は、「シュレーディンガーの猫」の有名な思考実験のように、身体を同時に2つの異なる場所に置くことができるのではといった具合だ。

もちろん日々の生活の中で身体や物体が重ね合わせで同時に異なる場所に存在することは体験できない。理論物理学者はこの矛盾を説明するために、物体が、2つの重ね合わさった状態から一方の状態に瞬時に崩壊すると考える。より大きな対象の場合、崩壊の速度はより速くなり、崩壊は瞬時に起こるため一方しか観測できないことになる。

最近まで、重畳した状態を持つ物体を作成することは困難で、この「崩壊理論」は検証することができなかった。これは、より大きな対象では原子や原子を個性する粒子とよりも、周囲との相互作用が大きくなり、発熱して量子状態が破壊されるからである。

 

光ピンセット理論と崩壊理論

量子物理学と重力の統一理論が近代科学の偉大な目標のひとつとなっている。ここで光ピンセット理論が重要なヒントを与える。光ピンセットは、光が物質に圧力をかけるという原理に基づいている。強力なレーザービームからの放射圧は非常に小さいが、アシュキンは重力に対抗して効果的に浮上するナノ粒子を保持するのに十分な大きさであることを示した。

 

images copy

Credit: arxiv.org

 

上図の(a)は重畳した状態間の最大距離Dmをトラップ周波数ωm2の関数としてプロットしたもの。磁場勾配は105T / m。(b)はDmを磁場勾配Gの関数としてプロット。トラップ周波数は1kHz。 粒子のサイズより大きな距離にある巨視的な重ね合わせは適切な磁場勾配で達成できることを示している(arXiv:1308.4503v1)。

 

2010年、光ピンセットによって保持されたナノ粒子は、物質と接触していないことが確認された。このアイデアに従って、いくつかのグループは、2つの異なる空間的位置でナノ粒子の重ね合わせを作成し、観察する方法を提案した。

2013年の実験では、ナノダイヤモンド結晶ピンセットに固定されず、それは2つの場所の間の振り子のように振動した。その復元力はレーザによる放射圧である。さらに窒素欠陥を有するダイヤモンドナノ結晶は磁性を持つ。

ここでナノ粒子の運動を基底状態に冷却することが考えられた。この状態では粒子は動きを止め、まったく振動しないことが予想されたからである。その場合、粒子がどこにあるのか、どのくらい速く動いているのかを知ることができる。しかし、量子物理学ではハイゼンベルグの不確定性の原理によって、位置と速度の両方を同時に完全に知ることはできない。したがって、最も低いエネルギー状態で粒子は少しだけ動いても、量子力学の法則に矛盾しない。

浮上したダイヤモンドナノ結晶に磁場で窒素原子を結合させることで、原子の磁気的重ね合わせをナノ結晶の重ね合わせを実現する(磁場によるエンタングルメント)。これは、崩壊した状態と崩壊していない放射性試料の重ね合わせのような状態に似ている。

 2012年に別の研究チームは、光ピンセットの強度を変調することによって、光学的浮揚ナノ粒子を理論的に可能な絶対温度ゼロの1/100K以内に冷却することが可能であることを示した。2016年には、同じ研究チームが絶対温度より1万分の1度K以内に冷却している。この頃、2つのナノ粒子の量子基底状態に達するのに必要な温度が、絶対零度よりも約100万分の1K以内であることを証明する論文が発表された。

 

getImage copy copy copy

Credit: Optica

 

上図は(a)トラップされたナノ粒子の画像および(b)実験装置の模式図。電気光学変調器(EOM)、偏光ビームスプリッタ(PBS1およびPBS2)、高開口数レンズ(L1およびL2)、検出器(D)、ビームダンプ(BD)およびフィードバック回路ゲイン (G)が示されている。

 

2014年に窒素欠陥を持つナノダイヤモンドの実験で、磁場を利用して窒素原子と結晶運動の物理的結合を達成した(下図)。2つの場所のオブジェクトが単一場所の実体に崩壊するのを観察することができた場合、すなわち重ね合わせが崩壊理論(注1)によって予測される速度で破壊されることが検証されれば、量子力学は書き換えが必要になる。

 

nphoton.2015.162 f1

Credit; Nature Photonics

 

(注1)初めはいくつかの固有状態の重ね合わせであった量子状態が、「観測」によってある1つの固有状態に収縮すること。

You have no rights to post comments

スポンサーサイト

Copyright© 2013.   放射線ホライゾン rad-horizon.net   All Rights Reserved.