自然放射線で白血病が増える、と主張するKendall et.al論文批判ーーー元データに、相関は認められない

Toshihiroさんに紹介頂いた、数mSvの超低線量被ばくでがんが増えていると、触れ回っている、津田、という方のいくつかの「解説」(文献1,2,3)を読みましたが、津田氏の主張の根拠となる論文は、たった一つ、と理解しました。放射「脳」のバイブルになっている様に思われる、そのKendall et.alの論文(文献4)の、唯一の根拠とするデータ(文献5)を図示したところ、被ばく線量と白血病の罹患に相関は見られませんでした。

低線量率で子供の白血病が増えることを見出した、というKendall et.alの主張は、間違い、と言えます。

Kendall et alは、論文のタイトルにわざわざ”A record-based case-control study”と書きこんでいる様に、公的な記録を解析しているだけなので、恣意性はなく信頼できる、と主張しています。1980-2006年の間に、イギリスで、がんと診断された子供のデータを解析したところ、γ線の積算被ばく量と白血病の間に、「明確」な相関があった、と主張しています。

論文本体(文献4)を読みましたが、元データが示されておらず、主張の真偽が判断できませんでした。がんと診断されるまでの積算被ばく量を横軸に取っていることで、結論に怪しげの感が強いです。私が説明するように、DNA損傷修復能力との競合で発症するがんに於いて、超低線量率被ばくに於いては積算線量を横軸にとってはいけません。

膨大な数の参考資料(文献5)も発表されていることをToshihiroさんに、教えて頂きました。多くの表を参考資料として発表していることから、Kendall et alが、真面目に研究しようとしているらしいことは評価できます。23の表の中に、Kendallらが使った元データがあり、彼らの主張の真偽が評価できました。

その一つの第7表を下記に示します。行(縦軸)は、白血病と診断された子供(case)の年齢で、列(横軸)は、妊娠から診断時までに浴びたγ線の積分線量です。

白血病 case

例えば、2歳の時に白血病と診断され(縦軸2)、生まれてから診断時までに1mSvのγ線を浴びた(横軸1)人数は、604人でした。

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比較対照とする集団(Control)をどうやって選んだか、論文の説明は私には理解できませんでした。controlの選定に間違いがないと仮定して、彼らの表を使って、casecontrolに違いがあるかを、図示します。

上の表で、3歳の時に白血病と診断された子供(縦軸3の段)の内で、56人は、それまでに1mSvのγ線被ばくをしており、767人が2mSv564人が3mSv20人が4mSvの被ばくをしていたと見積もれるらしい(Kendallらの見積もりを信じて)ので、平均被ばく量は、2.39 mSvになります。3年間での被ばくなので、3歳の時に白血病と診断された子供が受けたγ線の量は、年平均は0.8 mSv、ということになります。

このような計算で、発症年齢ごとの年平均γ線被ばく量を求めると、次図になります。第8表には、すべてのがんに対する発症数のデータがありますので、その結果も図示しました。

 英国の子供のがんの発症年齢と被ばく線量

白血病と全がんの両方に関して、がんが発症したグループ(case)、と発症しなかったグループ(control)で、被ばく線量に、違いは認められません。

”白血病を発症したグループは、γ線の被ばく量が多かったから、白血病に罹った割合が若干増えた”、とKendallらは主張しましたが、少なくとも彼らが使ったデータに、相関は認められません。

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本記事を書くに至った経緯

Toshihiroさんの記事「放射線業務従事者はあまり被ばくしていない」へのFukushima Kidsさんのコメントに、Toshihiroさんが、年に1シーベルトもの被ばくを受ける宇宙ステーションで長期滞在する宇宙飛行士の健康に影響が出ているというニュースがないことに対して、「対象件数が少ないから」という返事をされたので、

“理解しやすいために、宇宙ステーションを例に出すが、低線量が問題にならない、を説明する真の根拠は、動物実験で、ほぼ確立されている”から、

と、私がコメントしました。

それに対しToshihiroさんが、“岡山大学の津田敏秀先生らは、5mSvの低線量でも発がんが増加するという見解を示しています”とコメントされましたので、

私は、「たかだか5mSv/年の被ばくで、がんが増える?信じられない」という記事を書きました。

データを自分でチェックしたいので文献を教えて頂きたいという要望を出して、Toshihiroさんから、津田氏の文献を教えて頂きました。

「科学」という雑誌に載った、津田氏による三つの「解説」を読んだところ、津田氏の主張の根拠は、低線量率に関するデータはKendall et al.の論文のみでした。

そこで、Kendall et alの論文批判をすることになった。

 という経緯、です。

ーーーー

(参考文献)

 1.津田敏秀 2013, 医学情報の科学的条件 -100 mSvをめぐる言説の誤解を解く , 科学 11月号, 1248-1255

 2.津田敏秀, 山本英二, 2013, 多発と因果関係 -原発事故と甲状腺がん発生の事 例を用いて, 科学, 5月号, 0497-0503

 3.津田敏秀, 2013, 100mSv以下の発がんに関する誤読集, 科学, 12月号, 1353-1358

4.G. M. Kendall et al., "A record-based case-control study of natural background radiation and the incidence of childhood leukaemia and other cancers in Great Britain during 1980-2006" , Leukemia, 27, (2013) pp.3-9

5.文献4の補足資料http://www.nature.com/leu/journal/v27/n1/suppinfo/leu2012151s1.html

Supplementary Table S7 (doc 104K)

Supplementary Table S8 (doc 110K)

 


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コメント   

# Takatoshi 2014年04月04日 07:33
書店に並ぶ温暖化の本の多くは、一時騒がれましたが、現在は根拠がない、とされています。

低線量被爆に関する本は枚挙にいとまがありませんが、これらは同様にでっちあげ、ということなのでしょうか。
# Toshiさん 2014年04月04日 20:47
今騒いでいるstap細胞もそうですが、「捏造」とされる論文は、おそらく、ほとんどの場合に、意図的ではなく、不注意の結果、と考えます。

繰り返し、紹介している様に、低線量「率」被ばくで、健康に影響がないことは、動物実験では,確立されている、と理解しています。

低線量「率」で健康被害が出る、と主張する人は、ほぼ全員が、自分自身のデータ、解析を持っていません。

他人からの受け売りですが、自分の主張に会う、結論だけを紹介します。自分の主張を否定する1000の学術論文があっても、無視して、たった一つの、査読も受けていない怪しげな主張を、黄門の紋所の様に振りかざします。たった一つの情報の、真偽を確認しようなどとは思いません。

ここで紹介した、津田氏、は例外ではなく、極めてありふれた人、でしょう。
# Toshihiro 2014年04月05日 09:16
白血病caseと白血病controlを図で比較すると、caseが上に来ている(被ばく量が多い)発症年 齢が多いですね。Controlが上に来ているのがグラフで確認できる点は1点だけです。一年一年の差は有 意ではなくても全部プールすると有意になるということはありませんか。
# Toshi 2014年04月30日 21:16
コメントがあるのを完全に見逃していました。申し訳ありません。

この質問は、研究者としてのご自身の質問ではなく、「研究した経験がない人は、こういう疑問を持ちますよ」、という私への忠告での、身代わり質問と理解し、そういう人に向けて、回答します。

ーーーー
(研究経験のない人へ)
1. 統計誤差
データは、統計誤差から免れられません。N個のデータがあると、√Nの変動があります。これを統計誤差σ、と言います。統計誤差ではない、と言うためには、3σ程度、平均値から外れていることが求められます。100個のデータがあれば、σは10程度(10%)で、平均から30程度(30%)ずれないと、有意の差がある、とは言えません。

表を見て頂ければわかりますが、対象者は、各年齢ごとに、数百人です。900人の場合のσは30程度で、3σは90程度、つまり、統計誤差ではない、何らかの相関があるというためには、平均から10%以上離れている必要があります。

表の場合、平均から10%は、何ミリシーベルトか、見積もりが一寸ややこしいので、別の説明をします。

2.データのばらつき
データの数(100人のデータか、1億人のデータか)を知らなくても、データ分布を見れば、ばらつきが分かります。そして、データ数で決まる「統計誤差」よりも、測定対象の選定法、データの取得法、データ取得の順番、など様々な原因で、「実験ミス」のばらつきがはるかに大きいことがしばしばです。どれだけ小さな自らの「実験ミス」に直感で気づくかが、研究者の「質」を決めます。
# Toshi 2014年04月30日 21:19
(コメントの続き)
図を見ると、発症年齢が2歳以上だけを見ても、ばらつきは0.01以上あり、caseとcontrolの間に、違いがある、というためには、0.02の違いが必要です。

発症年齢が1歳の場合は、control(発症しなかったグループ)でも、他の年齢と、極めて大きな差があるので、「1歳のこの計算は間違っている」、と断言できます。

発症しなかったグループ(control)の変動の大きさが、データの精度です。

2-3歳と10数歳で0.02異なっていることから、0.02程度の違いは、単なるばらつきです。

これらから、上の図で、0.01以下の差異を議論してはいけません。

良く見ると、白血病のcaseと controlは上向きと下向きの三角印のデータで、上向きは下向きより、2、5、8、9、11歳で0.01程度、14歳で0.02程度大きく、4歳で0.01小さく、6,7,10,12歳でほぼ同じです。

しかし、上に説明したように、議論してはならない、小ささです。
# Toshihiro 2014年05月20日 23:49
私もこの返信を見落としていました。申し訳ありません。900人の場合のσが30であるのは、対象者のばら つきであって、被ばく線量のばらつきではありません。被ばく線量の平均のばらつきの程度(標準誤差)を求め るためには、被ばく線量の標本標準偏差を求め、それを√900=30で割る必要があります。その値から、平 均の差がとても有意とは言えないとして、それでも被ばく群のデータが多くなることがほとんどであるとしたら 、それはまたほとんどおこらないことが起こっているということなので、何か間違いがあるのではないかと疑わ なければならないと思います。そして、そのような差が積み重なることによってプールしたときに、計算上、有 意になることがあり得ます。
# Guest 2014年05月20日 23:45
このコメントは管理者によって削除されました。
# 福島主婦 2014年04月30日 10:24
記事をみて安心するのですが以下のブログでまたまた心配になりました。免疫への影響はやはりあるように思えてなりません。

木下黄太のブログ

西日本に非難しろといわれても¥できませんので。
# Toshi 2014年04月30日 21:29
不安を煽る非科学的なことを書く人、と言う噂を読んだことはありますが、実際に書いたものを読んだことはありません。

あなたが気になった、記事のURLをお知らせください。読んで見ます。

テレビで面白いコメントを聞きました。

科学者は、データを示すだけ。主張はしない。信用するかどうか、それをどのように活かすか、それは、あなたにお任せします。と言う、とても控えめな人々。

その通りです。
私は、心の病を治す技術は持っておりません。データの解釈の間違いを指摘できますが、信じたくない人に信じさせる能力はありません。怖がりたがりたい人を治すことはできません。
# ガイガー 2014年05月03日 18:07
超低線量被爆の振る舞いは4-5個あるいはもっと多くのモデルがあるようですが、それらの一見奇妙なふるまいも相関がない、ことによるのでしょうか。

またひとつの疑問はDNA損傷なしの放射線障害も現実に存在する、ということですが、免疫低下についてはどのようにお考えでしょうか。
# 恐怖体験者 2014年05月03日 18:14
怖がるのは知らないから。

この国には都合が悪いことを隠蔽する傾向があるので知らされていない、というべきか。

しかし本当のところは両方の(低線量被爆がなんともないという意見とそうでもないという意見)見解をききたいんじゃないかな。

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