骨粗鬆症の薬が乳癌の進行を阻止する?

女優のアンジェリーナ・ジョリーが遺伝子検査の結果、癌リスクを取り除くために、乳房切除手術を受けたニュースが記憶に新しい。その遺伝子がBRCA遺伝子(BRCA1、BRCA2)である。切除で乳癌リスクが87%(すなわちほぼ確実)から、5%(ほぼゼロリスク)になる。現在は乳房再生技術も発達しているとはいえ、若い女優としては勇気のいる決断だったであろう。

 

実は曖昧な乳癌判定

乳癌の診断は簡単ではない。悪性の場合、放っておけば生命に関わるし、良性と悪性の区別をクラス1-5で判断することにも曖昧さが残り、良性でも摘出手術に回されるケースも少なくない。ちなみに生検のクラス1、2は良性。4、5は悪性(癌)、3は不確定となる。クラスの中でもa、b、...というようにさらに細かく分けられる。

超音波画像診断やマンモグラフイーからは(このコラムとしては残念であるが)良性か悪性かは決められない。これらの医療機器では腫瘍の形状や密度は計測できても、初期ステージにおいては良性であるか悪性であるかは全くわからないのである。生検にしても100%の診断は難しい。サンプリングした場所が正確でなければ意味がないからである。サンプリングは麻酔をして行うがそれでも出血や苦痛をさけられないため、回数を重ねることもできない。

 

BRCAとは何か

BRCA(BRCA1とBRCA2)は男女共に人によっては保有している突然変異(BRCA突然変異)を受けた遺伝子(1863アミノ酸蛋白)である。BRCA1はもともと癌細胞の成長を阻止する機能を持つ遺伝子である。図に示すようにRINGとリン酸化エプチドに結合するBRCTというドメインを有して転写(複製)を担う。BRCA1は損傷を受けたDNAを修復する役割を持つが、突然変異を受けるとその機能が低下するために、癌細胞の成長を阻止できなくなる。

最近のDeep Mutational ScanningNature Methods 2014 Aug;11(8) 801.)によって、BRCAの機能について詳細な知見が得られた。

 

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Image: The Fields Lab Home Page

 

突然変異BRCAと癌発現リスク

BRCA1の突然変異がある女性では70歳までに癌発症リスクは50%以上となるが、アンジェリーナ・ジョリーの場合には87%となった。これは癌を持つ近親者がいることで、リスクが増大したことによる。

 

骨阻喪症の薬が乳癌細胞の成長を阻害

ここで本題である乳癌細胞成長の阻止効果のある薬の話題に入る。最近、オーストラリアの研究グループが乳癌発生に意外な効果が市販薬の中にあることを発見した(Nature Medicine 22(8), August 2016, 933)。乳癌細胞の成長を阻むのは骨粗鬆症の薬であった。

BRCA突然変異を持つ女性はアンジェリーナ・ジョリーのようにリスクを避ける為に予防的乳房切除手術を受けるケースが増えている。しかし再生技術が発達したとはいえ若い女性にとっては肉体的・精神的なダメージは少なくない。乳癌細胞の成長を食い止める薬があれば、それに越したことはない。しかし化学療法も放射線療法も副作用や放射線障害が明確に存在する。

 

研究グループは突然変異を受けたBRCA1遺伝子を持つ女性の乳癌の前駆体となる細胞を抽出し、それらの表面に存在するRANKと呼ばれる標的蛋白(リガンド)が骨阻喪症の抗体(デノスマブ)(注1)の標的でもあることを発見した。マウスを用いた実験室での細胞実験で、市販の薬が乳癌細胞の増殖を阻害することが明らかとなった。

(注1)Denosumab(抗RANKL抗体)は破骨細胞の活性化シグナルであるRANKL(RANK受容体、receptor activator of nuclear factor κβ ligand)に結合して機能を阻害するモノクロナール抗体である。プラリア(Prolia)などの市販薬が知られている。

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Image: Nature Clinical Practice Rheumatology

 

乳癌細胞の成長阻止に骨阻喪症の市販薬が使えるならば、画期的な「切らずに済む」乳癌治療となる。超音波やマンモグラフイーなどのイメージングは骨阻喪症の薬を投与中の成長阻止のモニタリングとして使われる時代も近い。

 

 

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