テスラの夢は復活するか-早すぎたワイアレス送電

 ニコラ・テスラの名前は磁場の単位でもあり、物理系の研究者にとっては日常関わりが深い、というかTeraと紛らわしいテスラ(T)は電磁気学では欠かせない単位である(注)。しかし時代に先行しすぎた芸術家同様、彼の提案は当時は世の中に受け入れられるはずもなく、異端者あるいは気違い科学者のレッテルを免れない不幸な天才であった。テスラに関するネットの記事には怪しげなものが多く、このコラムで取り上げるのは少々ためらいがある。しかしテスラがワイアレス送電により情報・エネルギーの世界グリッドという先見性を持っていた事は事実である。

 

(注)1Tの定義は、磁束の方向に垂直な面の1m2につき1ウェーバ(Wb)の磁束密度である。1 Wbは1秒あたり1Vの起電力を与える磁束密度であるが、ちなみに超伝導磁石の最強磁場は24Tである。リニアモーターカーのマグネットや常伝導磁石の上限が1Tで、物性物理の大半も10T以下の世界で、それ以上では想像できない磁場効果が現れる別世界である。

 

Tesla colorado

 

 上はテスラの実験風景。耳をつんざく空中放電の凄まじい音の中で平然と実験ノートをかく彼の姿は印象的だ。

 

 交流システムの実現に卓越した才能を発揮し、一足先に発明王として世の中に受け入れられていたエジソンと因縁の競争を制したことは有名である。また地震兵器として非難されることの多い、HAARP(High Frequency Active Auroral Research Program)の発想は後述するように、テスラのアイデアに刺激されてのものだ。HAARPは「電離層に向けて強力な高周波ビームを送信し、摂動を意識的に導入し、そのレスポンスを調べる事で、電離層と地球近傍の宇宙環境で発生する自然現象を調査する」とされている。

 直流送電(注)の推進者エジソンとの熾烈な実用化競争に勝利して、交流システムを確立すると、テスラは研究テーマを高周波の分野に移行させる。彼は高周波の潜在的な特性、ワイアレス送電に着目した。つまり、送電線ではなく、電波によって世界中に情報とエネルギーを供給する世界グリッドをつくるという壮大な構想である。

 

(注)日本の列車には直流と交流があり、同じ路線でも区間によって直流と交流が混在する場合もある。これは歴史的にはモーターに直結できる直流からスタートしたが電力消費とともに、効率の良い交流に変化したためであるが、最近再び損失のない回路の発達で制御しやすい直流送電が見直されているという。低速で回転数を制御しやすいメリットは、最近の超低速で回転可能な直流扇風機にも生かされている。技術も進めば直流送電(方式)にも分があるようだ。

 

 自然科学者の多くは基礎研究だけやればよくて、後は応用の研究者と技術者の役目だと割り切るが、余有る才能で実用化研究ももくろんだ天才も多い。もちろん実用化研究には資金がいる。しかしウエステイングハウスと組んで交流発電を確立したテスラは思うように予算が使えた。テスラは高周波による情報通信と交流送電という、壮大な計画をテスラは「世界システム」と呼んだ。21世紀の経済を垣根の無いグローバリゼーションと表現するならば、テスラは19世紀に電気と情報のグローバリゼーションを提唱していた。しかしその目的が富(情報・エネルギー)の公平な分割にあったのか、独占だったのかは明らかでないが、モルガンファミリーが後ろ盾であったことを考えると、前者のみであったとも考えにくい。

 前者はインターネットで現実化している。情報の持つ本質はエネルギーと同じで、高いポテンシャル(知識の集積)から低いところ(知識の欠如)へ流れて拡散が止まらない、という本質を見抜いていた。現代のRFタグ、電子マネーなどの非接触情報交換システムはまさに近距離の情報送受信であり、IHクッカー(写真)や携帯電話機の「置くだけ充電」は電磁誘導であるが、広義の近距離非接触送電の例である。

 

Ceranfeld

 

 テスラは後に地球のエネルギー危機をいち早く見抜いたモルガンファミリーに莫大な資金援助を受け、「地球システム」の開発に乗り出す。アイデアは地球の固有振動(注)に共鳴させることにより、電力損失をおさえて電力を送るシステムであった。コロラド州の研究所に立てられたそのための送電装置はテスラタワーとして知られている。きっとHAARPのように当時の周囲の住民には謎に包まれた怪しい研究に見えただろう。

(注)ELF(極超長波)帯の地球固有周波数との共鳴によって、ワイアレス長距離伝送で損失がケーブル以下になるとされるが、実証されていないのでここでは立ち入らない。

 

 テスラタワーは資金難により「バベルの塔」となり「世界システム」は実行されずに終わった。しかし最近、ロシアの科学者が理論的根拠を得たとして、テスラタワーの復活を提唱している。またエネルギー危機の救世主として宇宙空間で太陽光発電を行い、その電力を高周波送電で地球に送る計画も浮上している。宇宙太陽光発電は、宇宙空間にある太陽電池パネルを設置しその電力をマイクロ波またはレーザー光に変換して地上の受信局に送り、地上で再び電力に変換するものだ。しかしマイクロ波受診設備や損失を考慮すると地球外の発電効率が10倍という数値も相当目減りするだろう。

 

 高周波送電にマイクロ波を使うと熱エネルギーに変換され損失が大きいことから、MITの研究チームはマイクロ波を使わない方式を提案している。IH家電以外にも近距離の送電技術もこれから進歩を遂げて、少なくとも電池式家電はコードレス時代となるだろう。米海軍の研究所(NRL)やNASAで宇宙発電とワイアレス送電の見直しがされているという。また日本でも宇宙太陽光発電研究開発を推進し今後10年をめどに実用化を目指すとしている。

 

WirelessPowerTransmissionThroughSPS

 

 人類はどのように「バベルの塔」に挑戦するのだろうか。案外テスラはワイアレス送電や彼の名前がついた電気自動車の活躍に、また少なくとも「世界システム」が悪用につながらなかったことに満足しているのかも知れない。下はテスラモータースのModel Sで、電気自動車であるがその美しいシルエットで人気の的だ。

 

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