遅すぎるイノベーションー自動車産業の異常さ

 未来の自動車は電池自動車も燃料電池自動車も普及しないという見方がある。太陽電池が一般家庭に普及しない、というのと同じような議論である。そもそも自動車産業はアナログTVと同じに完成された原理の技術を、メーカーの利益が損なわれないようにかつユーザーの購買意識をくすぐりつつ意識的なスローペースで販売台数をのばす事を優先して発展して来た。車専用貨物船にとぎれることなく列をつくって積み込まれる車は輸出産業の花形であった。

 米国での販売台数が増えた原因のひとつは、原油価格の急騰であった。OPECによって原油輸出に規制がかかり基軸通貨としてのPETRO DOLLARに危機感がでた。中東戦争が勃発(というよりは仕組まれ)、米国内の原油価格が急騰し購買者が燃費に目を向ける事となった。燃費の良い日本車が売れだすと通商交渉で圧力がかかり、現地生産の割合が増えた。米国メーカーも低燃費戦争に参入すると、必至に技術をキャッチアップしている。一方、ヨーロッパではデイーゼルやMTなど燃費への関心がもともと高く、燃費だけで日本車に飛びつく人はいなかった。燃費を気にする現実から離れるが、電気エネルギーを注入して空を飛ぶスーパーカー、映画Back to the Futureで時空を移動したデロリアン(下)は未来の車への想像を掻きたてた。

 

DeLorean DMC-12 with doors open

 

 しかしよく考えてみて欲しい。少年時代に雑誌でみたスーパーカーには車がついていただろうか。空を飛んでいたのだ。そこまでいかずとも交通手段としてみれば、生命にかかわる安全を自己責任とした原始的な乗り物にすぎないのだ。車ほど進化の遅い機器はない。現時点でのインフラと技術をもって未来を予想するのは愚かである。たとえばTVは一昔前のブラウン管は姿を消し、液晶画面のデジタル放送が主流になった。SONYはトリニトロンでブラウン管技術の粋を極めたが時既におそしで無用の長物になってしまった。こうした進化の激しい機器に比べるといまだに内燃機関中心の車はあえて進化を抑制して来たとしか考えられない。その答えは黙っていても売れるからだ。下に示す温室ガス要因としての車はそれほど多くもないのだが光化学ガスなど車の集中する都市部では非難の対象になった。

 

Greenhouse Gas by Sector

 

 自動車はどうか。プリウスに代表されるハイブリッド化は各メーカーがしのぎを削っており、販売面でもはや敵なしの状態である。電池自動車が次に来る、というのがメーカーの予定で、少し遅れて燃料電池がとって変わる。時間軸の各テクノロジーの交代は想定内なのである。インフラ普及とかコストとかの問題で世界的な規模のイノベーションを止める事は無意味である。都市部で電源のとれる場所が行き渡れば電気自動車も現実味がでてくる。

 

Electric car charging Amsterdam

 

 自動車産業はこれまで圧倒的なメーカー主導で普及と繁栄が堅持されて来た独特の産業である。これまで売れることが至上命令であったが、環境保護の立場で未来図が一変した。安く早く走ればよい、からコストはさておき環境に優しい移動手段でなくてはならない。そのためには個人から低公害公共交通機関への移り変わり、車から列車へ、バスからトラムへ、の大きな流れさえ視野に入る。一昔前の車では信号ストップでエンジンオフとなる装置は皆無で、唯一博多の市営バスが信号でエンジンを切るため急に静まり返る車内が珍しかった。いまでは燃費改善のひとつの手段として定着している。下は弾丸列車の構想図である。初期加速度が苦痛だが、快適な加減速は現実にリニアモーターカーで採用されている。上海の空港と市内はMagLevと呼ばれるリニアモーターカーで結ばれているがほかなりの時間が加減速で最高速区間はあっという間である。

 

Pneumatic Dispatch - Figure 7 copy copy copy copy

 

 電池自動車は構造が複雑、というのは偏見である。ミニ4駆のように車軸にモーターをつければ動く。車輪ごとにモーターをつければ独立制御電気モーターカーができる。モーター制御に高度なインテリジェンスソフトが必要な以外、機械的には簡単で新興メーカーがつくれるから中国のベンチャーが狙いやすい。ネックは電池そのものにあるが太陽電池同様にスローペースで普及していくだろう。最終的には燃料電池で車のイノベーションは落ち着くと思える。いま我々がやるべきなのはハイブリッド、電池、燃料電池、というマイクロイノベーションを個人が同調し、同じ方向に走らなければならない。不要論を唱えるのも良いが、そのかわりもっとましなもの、も考えてみてはどうだろう。公共交通機関としては真空チューブ内を高速に移動する弾丸列車やリニアーモーターカーはまさに子供のときにみた姿そのものである。車の場合、燃費の良さ、対話機能、自動操縦程度ではお話しにならない。

 読者の皆さんは空を飛ぶ未来の車を選ぶのだろうか。それともリニアなのか。

 

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