WSe2単原子層バレートロニクスによる超高速光計算機

通常の電子機器のギガヘルツクロックでは毎秒10億回の操作が行われるが、ドイツとミシガン大学の研究チームは、これより100万倍高速異なる状態間の遷移を実証した(Langer et al., Nature 557, 76, 2018)。光で電子状態を制御すること(フォトニクス)で室温動作の量子計算機が実現できる可能性が出てきた。

 

研究チームが用いたバレートロニクスとはバンド構造でエネルギーの極小状態をもつ波数の位置が複数ある場合、電子はどこの「谷(バレー)」に入るかの自由度をスピンなどと同様に制御して(擬似的なスピン状態として)、新しい電子回路の制御に用いる概念である。

量子計算機は、従来のビット、単なる1または0ではない、これらの状態の重ね合わせも許容される量子ビット(キュービット)という概念にもとずいている。量子計算機は人工知能、天気予報、薬物設計などの分野で従来の計算機では膨大な計算時間を要する問題を短時間で解決することができる。

 

古典的なコンピュータでは、各ビット構成を1つずつ保存して処理する必要があるが、キュービットのセットは1回の実行ですべての構成を保存して処理することになる。これが量子計算機がより速く最適解を見つける原理となっている。

しかし量子状態は非常に脆弱であるため、量子ビットは実現が難しく、インテル、IBM、マイクロソフト、D-Waveなどの企業が主な商用ルートで使用している超伝導回路は、極低温に冷却されたワイヤのループで、コヒーレンス(位相)を介して量子状態を表現する。低温動作の固体素子に変わる新しいアプローチは、状態が崩壊する前に処理を行う方法を採用する。研究チームが用いたのは比較的簡単に作成でき、室温の空気中で動作するWSe2単原子層半導体超薄膜である

 

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Credit: webelements

 

この材料は、ハニカム格子内のタングステンとセレンの単一原子2D層で、擬似スピン状態を生成する。それは電子のスピンとは異なるが角運動量を持つ。これらの2つの擬似スピンで1と0を符号化することができる。研究チームは、赤外線の短パルスをに照射し、数フェムト秒の間量子状態を持続することに成功した。電子を1つの擬似スピン状態にする円偏光に続いて、スピンを持たない直線偏光パルスで一方の擬似スピンから他方の擬似スピンに状態をシフトさせることに成功した。

 

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Credit: Nature

 

上図は単層WSe2における高次(奇数)次側波帯生成を示したもの。aはWSe2単分子膜の結晶構造でタングステン原子は黄土色、灰色のセレン原子と2D面をつくる。 b、六角形ブリルアンゾーンでのスピン状態に対応した価電子帯と伝導帯端(KとK ')。密度汎関数理論から計算されたバンドをプロットしてある(緑色の黄色のスケールは虚数部の符号)。

aとbの赤(青)の矢印は、ジグザグ方向に対応している。cはバルクWSe2(黒)から測定した高次側波帯強度、偶数および奇数次の側波帯は同等

奇数次数はほぼ完全に抑圧されている。挿入図は、電気光学的にサンプリングされたマルチテラヘルツ場を示している。

 

これらの状態を通常の1と0として扱うことで、従来の100万倍の高速クロック速度を備えた光計算機が可能になる。この場合、電子は、2つの擬似スピンの間に重ね合わせ状態を形成することもできるので量子計算が可能になると期待されている。

ちなみに時計回りの円偏光は、一方の擬似スピン状態を示し、反時計回りに対応するもう一方の擬似スピン状態に対応させた本格的な量子計算には、2つの量子ビットを同時に実現することが必要だが、これには、半導体の2D層を積み重ねたり、ナノ構造技術によって対応できるとされる。

 

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