流出の代償ー東アジアの電子産業

 東芝は2014.4.13日、「NAND型フラッシュメモリー」の技術に関する機密情報を不正に取得・使用したとして韓国半導体大手のSKハイニックスを相手取り、損害賠償を求める民事訴訟を東京地裁に起こした。一昔前、週末の空港ではお互い敵同士である半導体企業の中堅技術者が歓談しながら飛行機を待つという奇妙な光景があった。週末にゴルフをする本社幹部を尻目に彼らは高待遇で週末に接待されていたのだ。週末を利用した出張は「技術流出」に一役買ったが、企業がそのことに気づき後に空港まで監視の眼を光らせたのは遅すぎたようだ。しかし流出の実態は使い捨てであり、盗んだ技術で製品がラインを流れ始めれば用済みである。マフイアの用済み人間のようにEast Riverにセメント漬けで放り込まれるまでいかないでも、恩をあだで返されることは容易に予想できたであろうが、結果は大量の技術流出であった。


 日本が1980年代に世界シェアで50 %近くあった半導体産業は、米国がその脅威を認識しSEMATEC (semiconductor manufacturing technology)という官民連携プロジェクトを発足させ、日本の品質保証などを研究したキャッチアップや貿易摩擦を楯に巻き返しを図った。台湾や韓国もアメリカの技術戦略を導入しかつてない急進で追随してきた。1990年代の電子計算機市場は大型コンピューター(メーンフレーム)からパーソナルコンピュータ(PC)へ移行したが、メーンフレーム用のDRAMに執着し、PC用の低価格DRAM開発を怠ったなど、誤った経営判断が引き金になり韓国・台湾勢力に大差をつけられた。日本の企業は横並びを好むこともあり、国内他社の動向を見ながら決定することも敗因要素であった。一方、米国ではIntelなどDRAMから早々に撤退し付加価値の高いマイクロプロセッサーなど転換を図ったことで成功している。


 生産技術でも12インチウエファー対応の設備投資(クリーンルームを含めた建屋やプロセス装置など)は数千億円規模となり、競争で安値を強いられたとき採算が取れないリスクもあり、不況下の折り設備投資に消極的だったことから景気が回復してきても生産に対応できず負の連鎖につながった。そこで、エルピーダメモリ、ルネサステクノロジーなど業界再編で統廃合したメーカが出現した。これまでは企業理念・方針などの違いなどから統合しても内部分裂して解散することが多かったが、経営権を各社から切り離したことなどにより国内各社の協力体制が維持できている。以下にNAND型DRAMの構造の模式図を示す。詳しくは別稿を参照されたい。

 

Nand flash structureTRIM

 


 DRAMはPCの主要部品であるが、数世代前の中古生産設備を東南アジアに導入し生産を始めたことで、メモリ容量1GB未満の価格競争は一段落し、早々にDRAMをメインにするビジネスモデルから撤退した企業に有利な情勢になっている。しかし、PCもWindows7から64ビット版が標準になり搭載DRAMの制限が薄れ、今後もエルピーダメモリなど統合メーカーの勝機はある。しかし、この先どこまでウェハーは大型化するか、また微細化はどこまで進み、世界的な半導体産業の方向と日本の半導体産業のずれが解消され日本企業の復活があるのか不透明である。

 2007年下期の調査によると台湾のTSMCでは22nmの要素開発は終了し、16nmの開発に移行しているという。しかし、物理限界に近づいているチャネル間の障壁、絶縁膜の材料や膜厚などの微細化は難関であり、全てがコストダウンできるところまで検討されてきているかは確かでない。現在のArFでの解像限界は30nmと考えられているため、22nmの要素技術は、EB描画かEUVステッパーになるがEUVは開発段階のためEBということが推測できる。しかし、R&Dと量産では製造工程など異なるため、22nmの要素技術が終了したとしてもそのまま量産に適応できるか疑問も残る。

 日本の半導体産業衰退に伴い、東南アジアや台湾での半導体製造が躍進した原因の一端はファンドリー事業である。最近ではNEC(ルネサス)や富士通でもファンドリー事業を展開し、装置の稼働率を上げることで製造単価を下げることを試みてきている。半導体産業ではファブの建設から装置導入まで多額の経費が必要であった。しかしファンドリーを活用することで工場を作らないで済むため、半導体ビジネスへのハードルが低くなった。半導体ビジネスへの新規参入メーカが増えてきた理由である。今後、半導体ビジネス以外にもMEMSなど微細加工を必要とする製品などファンドリービジネスの活用は増えてくると推測できる。しかし、一方でTSMCはASEAN諸国でファンドリー事業が展開されたため台湾のファンドリー事業は終焉に向かっているしている。時期を逸した日本でのファンドリービジネスが成長事業にならない恐れもある。

フォローアップ(2014.3.14)
 コモデテイ化した電子機器は薄利多売とならざるを得ない。皮肉なことに盗んで一時的に販売を増やした企業に影がさしているという。本当の技術とは新しい試みを実現する能力のことだが、そうした人材を育成する気風、あるいは基礎から始める習慣、体質は流出不可能なのだろう。

 

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