ペーパークリップ作戦が残した遺産

第二次世界対戦でドイツの亜音速無人ジェット爆弾V1(巡行ミサイル)、それに続くロケットV2(ICBM)が、戦況の挽回とイギリス制覇を狙ってロンドンの無差別攻撃に使用されたのは1944年以降のことであった。中心となったのは若き日のフォン・ブラウンである。フォン・ブラウンはこれらの兵器を開発したかったのではなく、宇宙ロケット開発が夢であったため、最終的には1945年に数100名の技術者とともに米国に亡命した。

 

ペーパークリップ作戦とは

終戦とともに米国はペーパークリップ作戦のもとドイツからフォン・ブラウンを含む多くの科学者を連行、V2ロケットとその部品も持ち帰った。特に力をいれたのはロケット工学と原子核物理学で、フォン・ブラウンは前者の中心的科学者である。

フォン・ブラウンのチームはペーパークリップ作戦(注1)によりテキサス州のフォートブリス陸軍基地とニューメキシコ州ホワイトロサンズ試験場で、 V2ロケットを精密誘導ミサイルに発展させる計画に従事した。下の写真はフォートブリス陸軍基地で撮影されたペーパークリップされた科学者たち。フォン・ブラウンは最前列でポケットに手を突っ込んでいる。彼は貴族の生まれでヒットラーの命令より自分の夢に興味があった。彼なしではナチスも米国もロケット開発は不可能だった。

(注1)米国は原爆、水爆実験や多くの軍事計画にないようにそぐわない名前をつける。ペーパークリップの意味は優秀で合衆国に忠誠を誓う選ばれた科学者をペーパークリップで区別したことに由来する。米国人は重要な本のページやメモなどにペーパークリップを使う。いまでは日本でも蛍光ペンやペーパークリップが日常的にオフイスで使われている。

 

640Project Paperclip Team at Fort Bliss

Source: Atlantean Gardens

 

フォン・ブラウンのリーダーシップ

最初に開発したのは1950年代のレッドストーンロケット、その後、これを改良したジュピターCロケットで念願の宇宙開発に乗り出す。1958年いNASAが設立されるとチームと一緒に、参加して1960年代にアポロのためのサターンロケットの開発責任者となった。

フォン・ブラウンの開発したジュピターCロケットによって1958年1月31日に打ち上げられたエクスプローラー1号は米国発の人工衛星。ソ連のスプートニクに先を越されたが、重要な役割を果たした。ここで計測機器の担当者であったジェームズ・ヴァン・アレンが計測に宇宙船観測用のガイガーカウンターを採用したことが、ヴァン・アレン帯の発見に結びついた。

 

ヴァン・アレン帯の発見

ヴァン・アレン帯は地球を2重にドーナッツ状に取り巻く(陽子、電子を中心とする)荷電粒子の集まりで、太陽風の影響で非対称になっている。太陽風や宇宙線からの荷電粒子が地球磁場にトラップされてできたと考えられている。オーロラは地球磁場の磁力線の出入口である極地で観測される。磁場が弱いため荷電粒子が大気にふれるために生じるオーロラはこのため太陽活動に敏感となる。

 

Van Allen radiation belt.svg

Source: Wiki

 

内側のヴァン・アレン帯は地球上3,000-4,000km、外側のヴァン・アレン帯は20,000km付近にある。地球磁場の影響で電子と陽子は逆向きに地球の周りを移動し強力な放射線帯となっている。ヴァン・アレン帯は放射線帯であると同時に地球を宇宙線や太陽風から守ってもいる。もしヴァン・アレン帯がなかったら地球上の自然放射線レベルは高く、生命活動に致命的な影響を与える。このため宇宙船がヴァン・アレン帯を通過する際に宇宙飛行士が被曝し危険にさらされると考えられた時期があった。

 

地磁気逆転に向かう地球

荷電粒子と大気ガスの相互作用で酸素原子の発光(赤、緑)、窒素原子の発光(青)でオーロラの発色が起こる。太陽活動の周期(11年)に対応してオーロラもよくみえるようになる。これまではしかし地球磁場との関係で極地に限定されてきたが、最近話題になるのはオーロラのみえる限界が南下してきていることだ(低緯度オーロラ)。

1989年には北海道でオーロラが観測されたことは、太陽活動の活発さで説明できるとして、最近の低緯度オーロラに関連してきになるのは地球磁場の変化である。

地球の歴史を調べると数100万年から1000万年の周期で地磁気逆転(磁極の逆転)が起きている。現在、観測されている地磁気の弱まりは加速されていて磁場逆転に近ずいていることが、NASAの欧州版であるESAの地磁気観測衛星のデータで明らかとなった。地磁気の弱まりは10年間で5%(2000年後に地磁気逆転)となり、低緯度オーロラがみえやすい環境になっている。

 

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Source: ESA/DTU

 

上の図で赤は磁場が強くなった場所、青は弱くなった場所を示す。地球磁場は厳密には極点から一定の角度でずれているがその角度が毎年変化している。

地球温暖化を温室効果ガスと結びつけることではすまない。長期的には地球はミニ氷河期を迎える。また地磁気の弱まりで起こる気象の異常も考慮して、地球環境の変化を多面的に分析しなければならないだろう。ペーパークリップ作戦は米国が科学技術で圧倒的な優位性を得るために計画された科学者リクルート作戦であったが、その結果としてロケット技術や原子力工学の急速な発展があある。軍事目的ではあるものの潤沢な資金で恵まれた環境での開発が発展を支えたことからすれば、近道だったのだろう。

 

もちろんミサイルや核兵器開発という負の遺産も残したことも忘れてはならないが、ペーパークリップ作戦によって米国民として働いたユダヤ系ドイツ人の果たした役割は大きかった。

 

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