火星での放射線被曝について

火星に移住できるのかどうかが話題となっている。このところのNASAの動きは惑星間移動を頭に置いた上で、火星を中継基地とすることを考えているようだ。もちろん火星表面に長期滞在や移住もあり得ないことではないが、過酷な環境であることは確かだ。

  

現実味を帯びた火星移住

多くの問題は地球の1%程度の極端に薄い大気にある。太陽輻射をもろに受けるため地表温度の変化が著しい。また磁気が弱いので地球のバンアレン帯のような放射線に対する防御ができない。大気による吸収も少ない。

気温の変化が著しいことと大気の組成については宇宙服を着用するか気密な建物に居住するとして、ではいったいどのくらい放射線を浴びることになるのだろう。

 

radiation-pressure-mars-graph copy copy

Source: space.com

 

火星地表での被曝量

火星探査機「キュオリシテイ」(注1)によれば、意外にもISSの中にいるのと同じであるということがわかっている。多くの人はもっと多い被曝量を考えていたのではないだろうか。ISSでの長期滞在は認めるなら火星に住めないとはいえないのである。

(注1)2011年11月に打ち上げられ2012年8月に火星表面に軟着陸した各種観測機器を積んだローバー。動力源はプルトニウムの原子力電池である。原子力電池は核反応を積極的に起こす原子炉とは異なりプルトニウム238の崩壊熱を熱源に利用したものである。プルトニウム238はα崩壊してウラン234になる。プルトニウム238ブロックは崩壊熱で赤熱しちょうど練炭のようなものだ。半減期87.7年なので、安全な電力源として有用である。α線のシールドはアルミフォイル1枚でお十分だが高熱のため耐熱性の容器に保管する必要がある。発生した熱は熱電素子で電力に変換される。実用化された原子力電池は正確には放射性同位体電池である。

 

大気圏を脱出して宇宙空間に飛び出すと様々な放射線や重粒子線にさらされるが、バンアレン帯の防御がないと死に至る被曝を受ける、というのが月表面に人類は到達していない、とする人たちの根拠であった。それならISSの長期滞在ではどのような被曝を受けるのだろうか。

 

185sz4qbgbpfcjpg

Source: io9.com

 

ISSでの被曝

放射線医学総合研究所の研究チームはロシアISSチームと共同で放射線防護の新しい方法を実証した。地球上の遮蔽体は鉛などの重金属が使われるが、宇宙に持っていける重量ではない。新しい遮蔽法は水を吸収体に用いるもので、取り扱いが容易なようにウットタオルに水を吸収させた遮蔽体を宇宙飛行士の側面に置くと、962μSv/日の被曝量が593μSvに減少した。

このような簡易遮蔽体のないISSでの被曝量は0.5-1mSv/日となり年間では182.5-365mSvとなるので、規制値1mSvの数100倍の被曝量となる。JAXAの被曝管理によれば、27-30歳の男性の生涯実効線量制限値は0.6Svとなっている。

ISSに167日滞在した古川宇宙飛行士の場合、滞在中の被曝量は100-150mSvであったので0.60-0.89mSvとなる。年間類推では218-327mSvとなるので、平均値にほぼ等しい。緊急時の原発作業員に許される被曝量は1mSv/年なので167日で規制値の3倍の被曝量ということになる。

 

火星までの飛行中の被曝

火星に到達するまでに受ける宇宙空間の被曝量はずっと大きいから、人類が火星に長期滞在するためにはまず火星に到達するのに要する1年近くの飛行での被曝を少なくすることが必要である。火星の1日はdayではなくSolと呼ばれる。

放医研の水を遮蔽体とするアイデアは宇宙船の居住区の周囲に火星に持っていく水タンクを配置すれば、効果が期待されるだろうが、恐ろしいのは太陽活動の影響である。太陽活動と放射線の関係についてはJAXA資料が詳しい。

それによると太陽フレアやコロナ質量放出により電子線、陽子線のほか様々な荷電粒子が放出される。陽子が80-90%、ヘリウムイオンが10-20%、重粒子は1%程度の比率となる。

 

PIA03479

Source: JPL

 

太陽フレアによる粒子放出は数時間程度なのに対してコロナ質量放出は数日続き、頻度も太陽活動の活発さに依存する。粒子束は宇宙船の外壁や内部の機器と衝突して2次放射線を発生させるのは地球上と同じである。この効果を含めて人体の放射線被曝を算出することは難しいがISSでの放射線計測データの蓄積や火星ミッションの火星に到達するまでの計測によって次第にデータが蓄積されつつある。

NASAや商用宇宙飛行企業の一部が火星へ人類を送り込む時期を2027年と設定している裏には、飛行中の放射線被曝が人体に致命的なレベルにない情報を持っているからなのだろう。

 

意外に多い火星移住希望者

すでにオランダの「マーズ・ワン」というNPOが火星への最初の100人を希望者2万人のなかから選んだ。重要な点は片道飛行つまり希望者は地球に戻らず火星に留まる、移住が前提となる点である。一方、スペースX社では50万ドルの料金で8万人を火星に送りこむ計画である。

飛行中の被曝が限度内であるとして、火星地表での放射線は建物で遮蔽するとして、食料は自給自足をしない限り長期滞在はできない。火星での植物栽培は現有の栽培技術でなんとかなるとして、居住区は快適な大気と環境が実現したとして、最後に残るのは火星に住みたい、と思う理由だろう。

マーズ・ワンに20万人も応募したということは、地球から逃げたいという人も多いようだ。実際、シリア難民で溢れかえる欧州をみると新天地に希望を託す人は増える一方かもしれない。人生をやり直したい人にはお勧めできない。地球より過酷なのだから。

 

You have no rights to post comments

hitachihightec

hitachihightec science

Copyright© 2013.   放射線ホライゾン rad-horizon.net   All Rights Reserved.