高エネルギー電子とコーラス波の相互作用

金沢大学の研究チームは科学衛星「あらせ」と地上の全球観測ネットワークによる過渡的なオーロラ閃光観測で、高エネルギー電子とコーラス波の波動粒子相互作用を調べ、コーラス波と粒子の相互作用を可視化した(Ozaki et al., Nature Comm. 10, 257, 2019)。これにより宇宙の電磁環境のハザードマップを作成し、宇宙探査の安全性が担保されると期待されてい)。

 

地球を取り囲む静止軌道高度までの空間(ジオスペース)には、ヴァンアレン帯と呼ばれる荷電粒子領域があり、宇宙飛行でジオスペースを出入りする際に、これらの荷電粒子にさらされる。地球のヴァンアレン帯の高エネルギー電子は、磁気圏で発生する電磁気コーラス波(注1)と高エネルギー電子との共鳴相互作用(コーラス波-粒子相互作用)によって生成される。

(注1)周波数上昇を伴いながら成長し励起されるプラズマ波動。磁気嵐(地球磁場)の乱れに乗って地球磁気圏尾部領域から内部磁気圏に高エネルギー電子(1keV-100keV)が注入されると、電子サイクロトロン波動の不安定性によりホイッスラーモード波が発生する。磁気赤道付近で高エネルギー電子のサイクロトロン共鳴で非線形共鳴電流が形成される。

 

ヴァンアレン帯とコーラス波動の発生(下図)。a)地球のヴァンアレン帯。 (b)赤道付近でのコーラス波動の発生。 (c)双極子磁場中のホイッスラーモード波のベクトル幾何学と共鳴電子の速度成分。(d)赤道付近で働く相対論的旋回加速度(RTA)と超相対論的加速度(URA)のメカニズム。

 

a Earths radiation belts b Chorus wave generation near the equator c Vector

Credit: researchgate

 

相対論的電子の加速メカニズム〜宇宙加速器

相対論的電子の加速メカニズムとして、ふたつのモデルがある。ひとつは断熱加速(ベータトロ ン加速)で、地球から遠く磁場の弱い場所にあった電子が,ジオスペース中の電磁流体(MHD)波動との共鳴相互作用等によって,地球に近い磁場の強い場所に運ばれてくることによって加速され,ヴァンアレン帯を形成するメカニズム。もうひとつは上図(c)のホイッスラーモード波によるサイ クロトロン共鳴によって,電子の第一断熱不変量が破れる ことによる非断熱的な加速である。

 

コーラス波-粒子相互作用は、電子を相対論的エネルギーに加速させ、地磁気線に沿って磁気圏から高エネルギーの電子を地球の大気中に注入し、特有のオーロラを引き起こす。さらに、高エネルギー電子が地球の磁力線に沿って地球の大気中に注入されると、オーロラを生成するだけでなく、大気の組成が変化する。

このためコーラス波と粒子の相互作用が発生する磁気圏の調査は、磁気圏の電磁環境と地球の大気へのその影響への手がかりを与える。この分野は50年以上にわたって国際的な注目を集めているが、コーラス波のパケットが1秒未満しか持続しないので、科学衛星の調査に限界があり、磁気圏の空間的発達はよくわかっていない。

 

科学衛星あらせによる過度的オーロラ閃光の観測

ヴァン・アレン帯のダイナミクスとジオスペースを調べる科学衛星あらせを使って、磁気圏のコーラス波束だけでなく、約30,000km離れた数百ミリ秒の過度的オーロラ閃光(相対論的電子のマイクロバースト降り込み)も観測された。コーラス波と粒子の相互作用とオーロラとコーラス波-粒子相互作用を同時に捉えるためには、科学衛星と地上観測ネットワークの連携が必要になる。

研究チームは、あらせ衛星に搭載された電磁波測定システムを開発し、地球全体をカバーするPWING(地上ベースのネットワーク観測を用いた粒子と波の動的変動の研究網)を確立した。研究チームは、新しい高感度カメラやその他の機器を世界各地に設置した。コーラス波の観測と関連するオーロラの観測が任意の経度と時間で時間分解能10msecで行うことが可能になった。

s41467 018 07996 z 1

Credit: Nature Comm.

 

上図はPWING観測ステーションとあらせの連携観測システムの概念図。 aの地球はNASAの画像を使ってマッピングしたもの。 bアラスカのガコナで、2017年3月30日13時01分28秒に観測された全天のEMCCDスナップショット。点線は、1°と2°の間隔での地理的緯度と経度の間隔を示している。 黄色の枠は、注目するオーロラ領域。 緑色の菱形のプロットは、観察時のあらせの経路。 c-e はあらせが磁気赤道付近で観測した動的スペクトル、地磁気線に対する波の法線角度、および大振幅コーラス要素の波形。

研究チームは地上で捕獲されたオーロラの強度と空間的変化は波動粒子相互作用領域の詳細を視覚化で、初めて地磁気の南北非対称性が確認された。観測された変動は、電磁波と電子の有効共鳴による地磁気線に沿った空間進化だけでなく、地磁気線を横切る進化も示している。この結果は高エネルギー電子が大気中に数百ミリ秒単位で降り注ぐこと(マイクロバースト)を示唆しており、それが大気組成の変化を引き起こす可能性を示唆している。下図はあらせ衛星の観測機器。

 

20170123 20

Credit: JAXA

 

数100ミリ秒の持続時間を有するオーロラ閃光の大容量データセットを人工知能(AI)で解析したことで、磁気圏の電磁環境のハザードマップを作成することが可能になると期待されている。宇宙加速器といえる脈動オーロラやオーロラ閃光の発生機構でプラズマの理解が進むものと期待されている。地球物理と加速器科学はプラズマ物理を介して密接な関係にある。

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