「宇宙の粒子加速器」Abell 1033による放射光発生

数1000個もの銀河を含む小宇宙ともいえる「銀河団 」は、重力によって閉じ込められた宇宙の最大の構成要素である。そこでは数100万度のガスが個々の銀河の間の空間に充満している。高温ガスの質量は、すべての銀河の総質量の約6倍にもなる。この高温ガスは光学望遠鏡には見えないが、X線では明るく輝いて観測できるため、NASAのChandra X線望遠鏡などのX線観測施設の研究対象になっている。

 

電波などの他の電磁波とX線を組み合わせることによって、これらの重要な宇宙物体のより完全な画像を得ることができる。 例えばChandraX線観測衛星の画像とオランダの低周波アレイ(LOFAR)(注1)ネットワークからの電波放射を組み合わせて銀河団Abell 1033周辺の構造が明らかになった。SSDS(注2)からの可視光放射も利用され、この銀河団は地球から約16億光年離れていることがわかった(Gasperin et al., Scientific Advances 3, e1701634, 2018)。

 

(注1)低周波電波干渉計を意味するLow Frequency Arrayの略で、10~80 MHzを観測するLBAと呼ばれるアンテナと120~240 MHzを観測するHBAと呼ばれるアンテナとを用いた電波干渉計として機能する。

(注2)専用の光学望遠鏡によって全天の25%以上の範囲を観測し、その範囲内に含まれる銀河やクェーサーの位置と明るさ、距離を精密に測定することによって詳細な宇宙の地図を作りあげるというプロジェクト

 

銀河団の衝突〜Abell 1033

ライデン大学の研究チームはX線とRFデータを使って、Abell 1033が実際に衝突の過程で2つの銀河団であると判断した。画像の上から下に起こるこの高エネルギーイベントは、宇宙の粒子加速器(注3)といえるもので強大な衝撃波を発生させた。

(注3)地球上の粒子加速器は静電場加速によるが、宇宙の粒子加速原理は加速原理が異なり、フェルミ加速もしくは衝撃波加速と呼ばれる。フェルミ加速はフェルミ加速は、衝撃波面を何度も 往復することにより乱流場からエネルギーを得る機構で、衝撃波の上流 および下流の乱流場(散乱体)により、粒子が何度も衝撃 波を横切って散乱されるプロセスとみなせる(下図左)。最近ではフェルミ加速は効率が悪く加速に長時間を必要とするため、宇宙線と磁力線のつなぎかえプロセスの相互作用による効率的な「磁気リコネクション」メカニズム(下図右)も提唱されている。

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Credit: University of Tokyo

 

Abel1033のRF放射〜宇宙シンクロトロン

Abell 1033の衝突は超高速ブラックホールに螺旋状に巻き込まれた高速粒子のジェット生成と相互作用をしている。このジェットは、RF波を放射する。RF放射は、磁力線の回りを周回する電子によるシンクロトロン放射メカニズムで生成されると考えられている。Abell 1033(下図)の紫色の部分はChandra観測データ、青色の部分はLOFARの観測データである。

ジェット内の電子は、光の速度に非常に近い速度で移動する。銀河とそのブラックホールが下のChandra画像の下部に向かって移動する一方、ジェット(右)は他の銀河団の高温ガスに衝突して減速する。これに対してジェット(左)は、右側のジェットより高温ガス濃度が低いため減速しない。

 

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Credit:Chandra

 

RF放射を生み出すエネルギーの高い電子は、放射でエネルギーを失うとRF波は検出されなくなる。しかし、約50万光年以上に及ぶAbell 1033で観測された広範囲に及ぶRF波放射は、エネルギーの高い電子がより多く、より高いエネルギーで存在することを示唆している。

研究チームは宇宙の粒子加速機構の理解を深めるため、ChandraとLOFARの観測を組み合わせて、今後も電波の放射を伴う銀河団の衝突を探索する予定である。地球上の粒子加速器の大型化が進んで、財政的な限界に達しようとしている今日、ブレークスルーのためのレーザープラズマ加速器への期待が集まっている。宇宙の加速機構でプラズマ加速機構の理解が進めばコンパクト加速器の開発に役立つと同時に、宇宙の粒子加速の理解が進むことが期待されている。

 

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