PET-CTとSPECTについて

 PETとCTの概要については入門編をかいたので、ここでは基本を復習するとともに両者を組み合わせたPET-CTと普及型のSPECTを中心に解説する。病院で聞き慣れない言葉を聞かされると焦るものだが、頭の片隅にあれば落ち着いて対応できるだろう。どちらも最先端の医療機器であるがそれぞれどのような特徴があるのか。

 

 PETはPositron Emission Tomographyの略で陽電子を使った3Dイメージング手法である。大学のアイソトープセンターには必ず1-2台あってガンマ線計測の教材として放射線計測の基本であるPET。病院にあるPETは分類上は、CT同様に細胞の形態イメージングになるが、実際には代謝という機能イメージングなので、CTとは異なる。

 

 CTでは被験者は検査時に造影剤を摂取する。(造影剤については別記事を予定。)PETでは人体に投与されたトレーサー起源の陽電子が電子と対生成で消滅し一対のガンマ線が放出される。CTではX線と検出器(アレイ)の中間に人体があり、人体を異なる吸収係数の有限要素で表現し、方向を変えて各方向に対して透過吸収の方程式をつくり、これらを連立して解くことにより、未知数である各要素の吸収係数を決めこれらを2Dあるいは3D表示したものである。下に簡単に原理を示す。同時計数報(コインシデンス)のお手本のような計測系である。

 

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陽電子消滅とガンマ線発生
 PETでは陽電子発生後対消滅で派生するガンマ線(511keV)の同時計測(上の原理図)により180度異なる2方向のつくる直線の上に発光点がある。今度は発光点の位置(直線上の座標)とこの直線状上の有限要素の密度を未知数として、複数の計測データから連立方程式が得られるので、計算機でこれらを解き発光点の分布を得る。CTは分解能が高いため頭部、胸部、腹部などに分けて3Dイメージを計測するが、PETでは一度の検査で全身の3Dイメージ(下の図の白い背景のイメージ)が得られる。

 

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 PET検査ではトレーサーを摂取する。これには同位体をブドウ糖類似物質に仕込んだものが使われる。代表的なフルオロデオキシグルコース(FDG)はブドウ糖類似物質であり、ブドウ糖同様に細胞に取り込まれFDG6リン酸に変化する。FDG6リン酸は解糖系で代謝されずに細胞内に蓄積される。FDGのF18を用いたPETをFDG-PETと呼ぶ。これは癌細胞が正常細胞に比べて代謝が激しいことを利用して差別化できることを利用して癌細胞のコントラストを強めるためである。

 

 最新のマルチスライスCTの10倍の分解能(4-5mm)なので分解能ではPETはCTに劣る(注1)がブドウ糖の代謝機能の強度の3D画像が得られる点が優れている。このためPET検査は、癌や炎症の病巣を調べたり、腫瘍の大きさや場所の特定、良性・悪性の区別、転移状況や治療効果の判定、再発の診断などに利用されている。全国のPET検診の施設(http://www.pet-net.jp/pet_html/search.html)は検索して調べることができる。PET検査は6時間前から絶食となり、18F-FDG(注2)を静脈注射して1-2時間後に測定となるが、寝たままで良いので負担は少ない。

 

(注1)PETの限界分解能はふたつの要因で決まる。陽電子が核種から放出されて、止まるまでの距離(飛程)と、陽電子が対生成するときに、軌道電子が持っていた運動エネルギーのために180度よりずれる(対消滅放射線の角度揺動)ことである。この分のゆらぎが点光源と理想的な飛び出し角度(180度)を仮定した幾何学的分解能にコンボルーションされる。

(注2)18Fの半減期は110分、11Cは20分である。実際にはオンサイトでサイクロトロンで核種をつくり、薬剤合成装置でベースとなる薬剤に同位体を組み込む。投与は静脈注射で行なう。被曝は1回のFDG投与による2DモードPET検査では2.2mSv(アイソトープ協会)程度とCTより少ない。ちなみに胸部のX線単純撮影が1回当たり0.05mSvである。PET周辺の放射線管理については資料を参照の事。

 

PETにおけるトレーサーの役割
 PET-CTの特徴は癌細胞に集まるブドウ糖によりコントラストを上げ、CDの高分解能イメージと重ね合わせることにより、正確な癌細胞マッピングが得られることである。特に代謝が激しい癌細胞は悪性であることが多く転移の率も高いので、PET強度が強い。素性の悪い癌細胞を特定できることで集中治療が精度よく行なえるし、処置後の再発モニタとしても力を発揮する。

 ただし脳にはブドウ糖が集まっているためトレーサーとしてブドウ糖は使うことができない。脳のPET計測にはアミノ酸の一種、メチオニンに放射能を放出する物質、11Cを仕込んだ11Cメチオニン、あるいはコリン(注3)という物質に11Cを含ませた11Cコリンが用いられる。これらは正常の脳にほとんど集まらないが、脳腫瘍にだけ集まり、腫瘍の輪郭がはっきり見える。

(注3)メチオニンは必須アミノ酸のひとつ。比較的単純な構造、C5H11NO2Sである。コリンはアンモニウムイオンで化学式は[(CH3)3NCH2CH2OH]+、神経伝達、やメチル基原料として重要な物質である。トレーサーはシールド付きのシリンジが使われる。

 

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 一昔前は悪性リンパ種で全身に転移すれば手術も放射線治療も使えず手遅れというイメージが強かったが、現在は抗がん剤が進歩していて、癌細胞を詳しく検査して細胞の型を診断し、それにより最適な抗がん剤の種類や治療法が処方される。薬の順番も標準が決まっているが、薬がよく効いているかどうかの判断には、PET-CTで得られる全身の代謝3D画像が有効である。

 

PET計測系
当初はシンチレーション検出器でガンマ線を光に変換した上で光電子贈倍管(PMT)で計測していたが、2x2から4x4の受光面を持つマルチPMTに進化、現在はFlat-panel PS(position-sensitive) PMT、あるいはMPPC(Multi Pixel Photon Counter)やその4x4アレイなどが用いられる。計測系の特徴はPETでは輪切りを移動して計測するため検出器を円周上に敷き詰め対抗する1組の同時計測が有効なデータとなる。CTでは有限要素の未知数が吸収係数のみであったが、PETでは発光点(対生成)密度が加わる。下図はPMTを使った一般的な検出器システム。ここでもPKTは固体素子に置き換わられつつあい、APDを使う高感度型が市販されている。

 

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SPECTとの違い
 昔はPMTを使う診断計測ではガンマカメラが知られていたが、現在はSPECT(Single Photon Emission CT)が注目されている。ガンマカメラもSPECTもPETとの違いはPETが陽電子対生成で生成するガンマ線ペアを同時計測するのに対して、放射性同位体から生成したガンマ線を直接計測する点である。

 

 円周内に検出器を並べるPETに対してコリメータをおいた検出器が人体の周りを回転して異なる配置で複数回計測する。SPECT画像処理は複数の角度から撮影された、複数の2D画像(投影画像)を元に3D発光強度分布を作成する。検出器は2−3台であるので数度ごとにそれぞれ360度の1/2-1/3の角度のスキャンデータを計測する。

 

 生体の特定細胞と化学的に結合するリガンドの一部を同位体置換した放射性リガンドの体内分布を調べる装置で、例えば脳の断面の血流状態の情報が得られる。血液が流れていない虚血領域を特定したり癌細胞を発見に役立っている。

 

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 PETでは短寿命の同位体を薬剤(ブドウ糖)に含ませるためにオンサイトでサイクロトロンで放射性薬剤をつくらねばならないので、サイクロトロンの設置が必要で、大規模となる一方、SPECTはPETよりも取扱が楽で治療費の負担も少ない。体内のガンマ線吸収、散乱で感度が劣るが計測系の改良で性能は向上しつつある。PET同様にSPECT-CTというCTと一体化した測定システムもある。

 

応用として心電図同期マルチゲート法をSPECTに使えば心拍同期心筋SPECTが測定できるので、動きのある振動の鼓動に合わせた3D像が得られる。また心臓ストレス検査として心筋血流イメージングや、脳機能イメージングでは特定機能の薬剤をガンマ線放射トレーサーとして用いる。

PET設備は全国に約300カ所あるが検査費用は一回10-12万円と割高である。一方SPECTは長寿命の扱いやすい放射性物質からトレーサーを作れること、コストや撮影装置の価格も安価であるためPETよりも広く使われている。なお長寿命の放射性物質を体内に取り込むといっても、体内から排出されるので被曝量は少ない。下の写真はSPECT。PETとの違いは2D検出器(四角の部分)。リングならPET。これで一目で区別できる。

 

SPECT CT

 

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