CTとPETの知識−病院で慌てないために

 21世紀はナノテクノロジーの発達と並行するようにイメージング技術が際立った発展を遂げた。医療現場では通常はミクロンスケールのイメージングが多いが、最先端の放射光では100nmのナノビームの空間分解能も実現されている。ところで断面像といえば2Dイメージだが、断面をすこしづつずらして撮像していき最後につなげることで3D(立体)イメージが構築できる。米国では死体を(凍結し)1mmずつスライスして、実物の人体輪切り標本を作製したという。ぞっとする話であるが、そこまでせずに人体内部の立体像が得られる。具体的にはどのような手法があるのだろうか。

 

 

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 医療イメージングには、写真のように色々な手法がある。(a) で示す頭部CTスキャンは頭部の断面が得られる。現在では診断用の高性能の装置の他、小型の装置は手術室や緊急治療には欠かせない。(b) のMRIは核磁気共鳴で生体活動のイメージング装置でCTと並んで病院では毎日活躍している。CTはすぐ撮影してもらえるが、MRIは緊急でなければ予約が必要で、予約から撮影までの待ち時間で急変する場合も有るので、患者にとってはさらなる普及が望まれる機器である。(c) に示すPETは、生体器官の血流や生理学的活動のイメージングに使われる装置で、放射性医薬品を摂取する必要がある。(d) の超音波イメージングは電磁放射を使用しないので、胎児モニターに使用される。

 

 これらの中で(a)、(c)が放射線を利用する医療放射線機器で、ここではそれぞれの原理と特徴について簡単に説明する。CTはComputed Tomography、PETはPositron Emission Tomographyの略で、ポジトロン断層法とも呼ばれる。計算機を利用しないX線フイルムを使った原型はイタリアの放射線科医師によって発明されたが、計算機によって複数のデータから断層イメージを再構築する装置はEMI中央研究所のGodfrey Hounsfieldと米国タフツ大学のAllan Cormackによって開発され、彼らは1979年にノーベル医学生理学賞を受賞した。

 

Ct-internals

 

 原理はX線の透過吸収である。放射線の強度をI0で表すと透過したX線の強度IはI=I0exp(-ρx)で表される。ここでxは吸収体の長さ(空気の吸収は無視できる)、ρは質量吸収係数である。このρをメッシュの和として未知数で表現すると方程式が得られる。その方程式に含まれるパラメータの数だけ異なる配置で計測して連立方程式がつくれる。ポイントは計算機でこの大規模連立方程式を解くところにある。ご存知のように連立方程式の解は行列の計算になる。

 

 検査対象(ここでは人体)の周囲を放射線源と検出器が回転して透過X線の強度をひとつの幾何学配置毎に測定する。照射されたX線は透過し、対象に吸で計数されるに到達し記録される。それぞれの方向の透過強度を記録して計算機により画像をフーリエ変換し再構築するのである。人体を構成するのは水素、酸素、炭素、窒素と微量の金属原子であるが、ここではマクロ量(全吸収率)として扱い、1断面を格子状に分割し、各部位の吸収率をパラメーターとし、その合計が実際の吸収量と等しくなるように、透過吸収の連立方程式を立て、これを力づくで解くのである。実際には大型計算機の得意とする巨大な行列演算計算であるが、簡単化するため次元に制限がつき、1断面を512ピクセル格子に分割することが多い。512x512の行列演算は現在の計算機能力ではそれほど重荷ではない。もちろん統計誤差と計算量との引き換えで空間分解能は格子を細かくすればある程度は高くなるが、検出器の面積と放射線源の大きさで決まる幾何学的分解能を越えることはできない。

 

 CTとPETの違いを簡単に説明する。CTでは外部に置かれた放射線源からX線をを照射して、核部位の吸収を仮想的なメッシュに振り分け、それを再構築することで、3D像を観察する。一方、PETは核医学医療(検査)のひとつで、線源は人体内にある。実際には検査に先立って放射性トレーサーを摂取し、それらの分布を同様な原理で観察する。特徴としてはCT像は生体器官の詳細な「その場」イメージングであるのに対して、PETはトレーサーが特定器官に集まるので「局所的な」生理学的情報が得られる。場合によっては観察に並行して下図のように局部を認識することで治療にも使える。

 

MolecularImagingTherapy

 

 放射線トレーサーを摂取するということは体内に放射線核種を持ち込む事になる。実際には生体内の元素、酸素、窒素などで陽電子β崩壊する核種が用いられる。被曝を最小限にするためには核種の半減期は短いことが要求され、実際には数分から数10分の照射と同等に選ばれる事が多い。半減期の短い核種は一般につくりおきができないため、投与の直前に加速器で製造される。これにはサイクロトロンなどの加速器が使えるが、大病院といえども加速器を設置できるところは多くないし、建設費用も多額で負担が増える。なので委託業者を使うのが現実的だ。

 

 下に示すPET画像でわかることであるが、市販されているPETの空間分解能は、3〜4mm前後でCTに比べると悪い。ぼうっとしたイメージのために、空間分解能が0.3mm程度のX線CTあるいはMRIを組み合わせることになる。MRI/PET装置やCT/PET装置はそとために開発された。一方、PETの分解能は幾何学的因子でなく検出器によって決まるので、半導体検出器を用いて1mm分解能が得られるということが東北大グループによって報告されている(http://www.jrias.or.jp/report/pdf/2006_2007_j1.4.1.pdf#search=%27PET%E5%88%86%E8%A7%A3%E8%83%BD%27)。PETの空間分解能を上げてMRIと組み合わせる試み(https://www.hitachi-metals.co.jp/rad/pdf/2011/vol27_r04.pdf#search=%27PET%E5%88%86%E8%A7%A3%E8%83%BD%27)もあり、今後はマルチプローブ高分解能の装置が市販化されていくと思われる。

 

PET-MIPS-anim copy

 

 ここで気になるのはCTやPET観察(上の写真)でどのくらい被曝するのかという点である。詳しい資料は大学病院の放射線科のサイト(例えばhttp://www.hosp.med.osaka-u.ac.jp/home/hp-radio/info.html)を参考にしていただきたい。人体内部でトレーサー核種は、体内でβ崩壊して陽電子を放出するが、放出された陽電子は近傍の電子と対消滅して511keVのγ線を発生する。PETは、人体の周囲を取り巻くように配列された多数のガンマ線検出器(シンチレーション検出器、別記事参照)とコインシデンス計数回路からなる。検出器のうちいずれか2つが同時にガンマ線を検出したとき、その2つの検出器を結ぶ直線上のどこかで対消滅が起きたのである。その情報を集めてCTと同様の処理を施すことにより、トレーサーの分布を示す3D元画像が構築される。

 PETとCTを一体化した装置を用いた検査の場合、1回の検査における放射線被曝は23~26 mSvとされる(J. Nucl. Med. 46 (4): 608,13)。これに対し、放射線診療における代表的なX線検査での被曝量は、胸部 0.04mSv、腹部1.2mSv、上部消化管 8.7mSv、胸部CT 7.8mSv、腹部CT 7.6mSvである(http://www.marianna-u.ac.jp/Radiology/patient/007792.html)。バックグラウンドが年間1.4mSv前後の被曝(http://rcwww.kek.jp/kurasi/page-41.pdf)であることを考慮すると、放射線診療(観察)における被曝量は少ないと思われる。しかし複数回の検査や治療(照射)、機器を日常的に扱う技師はその限りではない。検査により直接健康に影響するレベルには及ばないが、低線量被曝は生じているのだ。検査を受ける時にこのことは頭におくべきだろう。

 

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