電顕の振動分光による同位体標識のサイト特定

同位体は分子および蛋白質を標識するために広く使用されている。分子の振動スペクトルの変動を測定することによって、電子顕微鏡で空間分解能で同位体を追跡(注1)することができる。オークリッジ国立研究所(ORNL)の研究チームは試料を傷つけず、ナノスケールでアミノ酸中の同位体を同定する新しい電子顕微鏡技術を開発した(Hachtel et al., Science 363, 525)。

 

同位体標識とは

(注1)同位体標識とはある化合物を構成する一種類、または複数種の元素を同位体に置き換えて標識としたもの。γ線などの放射線を放出する放射性同位体、あるいは別の安定同位体で置換したものがある。

ORNLの開発した技術はアミノ酸を破壊することなく、動的化学の実空間観察を可能にし、生物科学に強力なツールとなると期待されている。

 

 研究チームの開発した収差補正走査透過型電子顕微鏡(MAC-STEM)はアミノ酸においてナノスケールの損傷のない同位体追跡を可能にした。研究チームの実験では、走査透過型電子顕微鏡(STEM)と単色電子エネルギー損失分光法(EELS)を使用した。EELSは、アミノ酸の分子構造の分子振動の指紋領域を用い安定同位体を同定した(下図)。

 

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Credit: Science

 

同位体標識は通常、質量分析、試料の原子量および同位体組成を明らかにすることができる。質量分析は高分解能である反面、ナノメートルの空間分解能を持たないし破壊的な分析になる。

一方、新しい電子顕微鏡技術は電子ビームは試料を破壊することなく、振動を励起および検出することができ、長期間にわたって室温で生物学的試料を観察することが可能である。分子振動の周波数は原子量に依存し、そしてこれらの振動周波数の正確な測定で、これまでNMRなどの非破壊手法に依存してきた同位体追跡にナノメートル空間分解能が加わった(下図)。

 

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Credit: Science

 

75周年を迎えるオークリッジ国立研究所はインハウスで機器開発を地道に行ってきた。手作り感が微笑ましい装置(下図)には研究チームの苦労がにじみ出ている。かつて核兵器開発の目的で設立されたが、時が流れて現在はエネルギー科学の拠点となっている。

日本でも日立やNIMS(無機材研)の超高分解能電顕の研究開発が知られているが、高圧電子銃による正攻法に加えて、EELSなど電子状態情報が得られる付加的分光技術の併用で、応用分野が広がっている。またTitanに代表されるソフトマター専用の低圧電顕と優れたソフトウエアの組み合わせも、生物科学の強力なツールとなっている。電顕の進歩は止まらないようだが、この例のようなハイブリッド電顕の裾野は今後ますます広がるだろう。

 

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Credit: ORNL

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