APSがアップグレードで狙う新3Dイメージング

世界の3GeVと>6GeV放射光施設が第4世代光源を目指してアップグレード計画を持っているが、単に光源性能を(代表的な性能指標である)輝度が100倍以上というアピールでは済まないほど、性能が接近する激戦時代になるため、」各施設とも独創的な実験手法との組み合わせで差別化を図ることになった。ここではAPS-Uが差別化のために推進する3Dイメージンングを紹介する。

 

イメージングの根幹的課題解決を計算機で

光学系における長年の課題は、結像の解像度が、焦点深度の損失によって相殺される(宿命的な)問題であった。そこでこの制限を回避するために、計算手法とX線イメージングを結合することが積極的に行われている。

アルゴンヌ国立研究所の中心のひとつであるAPS放射光はそのアップグレードAPS-Uプロジェクトで、この問題解決を優先してR&Dを推進している。今回のアップグレードにより、APSは現在よりも500倍明るくなり、生物学的および技術的な広範囲の原子および分子の構造研究の能力拡大を目指す。

APSのX線イメージング能力が計画のように改善されれば、脳の完全なシナプス接続ネットワークから集積回路全体の細部にいたるまでイメージング対象が格段に広がる。新しいX線イメージングの研究開発では、アルゴンヌの他にノースウエスタン大学、コーネル大学の研究チームが、APS-Uを光源としたタイコグラフイをシミュレートする計算手法を開発した(Gilles et al., Optica 5, 1078, 2018)。

 

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Credit: APS

 

X線断層撮影法は、30nm以上の空間分解能で材料の薄片を画像化する強力な走査技術である。この技術で探索された試料から画像を再構成するために使用される従来のアルゴリズムおよび計算手法は、2Dスライスに限定されていた。

3D脳画像診断におけるX線断層写真は重要な手法で、神経回路は、電気化学的手段による細胞間通信に使用されるシナプスと呼ばれる数千もの小さな接合でつながれている。国立衛生研究所資金提供するX線断層撮影法の深層浸透は、研究者が脊椎動物の脳全体の結合神経組織をマッピングする高速で非破壊的な新しい方法を創出する手法となると期待されている。

神経科学者は、今日、電子顕微鏡を用いてマウスの神経結合をマッピングしているが、電子顕微鏡測定では薄片化が必須でありこれが測定自身より難しい作業となっている。X線トモグラフィーでは、原理的には脳全体が物理的な切片なしで3Dイメージングできるので、大規模で高解像度の画像構築が簡単になる。

 

新3Dイメージングの鍵はMOORアルゴリズム

このために研究チームはMOORアルゴリズム(注1)の有効性を評価するために、焦点深度限界を超える実験手法を考案した。懸濁液中で凍結した細胞の顕微鏡研究で使用されている毛細管のような200nmのチタンナノスフェアを埋め込んだ先細りのガラス中空コーン(上図)を設計した。コーンにはマーカーが配置されていてその再現性で性能が評価される。

(注1)Multislice Optimized Object Recovery (MOOR)。Gilles et al., Optica 2018.

このチューブを使った評価実験結果がモデルと一致することが確認された。研究チームは現在、凍結した水和細胞などの小さな生物学的サンプルの3Dイメージングのために、APSのセクタ9(注2)で先行実験を開始している。

(注2)9-ID-B, Cは生体を対象としたナノイメージング(B)と超小角散乱実験(C)を目的とした挿入光源ビームライン。光学系は一般的だし、検出器ピラタス100-300kはやや水準からすると力不足の感があるが、ここで問題にしているMOORアルゴリズムにはピクセル数が大きすぎても、計算機負荷が大きくて都合が悪いのだろう。そのかわり計算機資源はエネルギー省のスパコンクラスタが与えられている。

 

MOORの運用には、スパコンクラスタの2,880コアにMOORアルゴリズムをインプリメントして、約1700万の複雑な変数を含む最適化を解決した。第4世代放射光では光源の能力を活用した機器に加えて、高度なアルゴリズムを使った画像再構築が不可欠となる。光源整備が終わったら実験を計画していたのでは間に合わない。光源のアップグレードのためのダークタイムを有効にR&Dに使うべきなのだろう。放射光施設内にスパコンが必要になった。いつのまにか光源の開発だけでは能力を発揮できない時代、すなわちネットワーク資源や次世代スパコンの有効な利用を考えるべき時代になったのかもしれない。

 

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