マイクロデバイスの電離放射線の影響を評価する新モデル

ファーウエイの端末が話題になっているが、実際に最先端スマートフォンプロセッサはiPhoneのA12とファーウエイの子会社のハイシリコンが送り出したKirinシリーズである。一般的にデジタルおよびアナログ電子機器用のハードウェアコンポーネントの開発の最近の傾向は、ダイオードおよびトランジスタ構造の活性領域のサイズを縮小することである。

 

トランジスタ微細化

これはマイクロおよびナノエレクトロニクスデバイスの性能(速度およびメモリの増加、動作周波数および電力の増加、ノイズ低減など)を改善することによって達成できる。汎用機器だけでなく宇宙システム用に設計された特殊なハードウェア要素の開発においても、同様のプロセスが必要になる。

 

スケールダウンで厳しくなる電離放射線効果

しかし宇宙空間の電離放射線(地球上も例外ではない)は、電子機器に悪影響を及ぼし、寿命が短くなり、突然の故障や誤動作の原因となる。もしかすると貴方のPCが作業中に不意に動かなくなるのも宇宙線によるのかもしれない。このような応答を外界からの電離放射線の影響に数学的にモデル化することで、検査の量が減り、最終的にマイクロおよびナノエレクトロニクスデバイスを開発する時間および全体的なコストが削減される。

しかし、物理的プロセスのダイナミクスが複雑で非線形であるサブミクロンの活性領域を持つ最新のマイクロ波半導体デバイスの場合、放射線効果の線形重ね合わせに基づく解析的で単純な数値モデルはしばしば成り立たない。

数100nmルールの古い半導体デバイスの電荷キャリア(電子および正孔)の動き(現代のプロセッサの基準は10nm)は、拡散ドリフトプロセス、すなわち様々な不均質性におけるカオス散乱に対する電場の作用下でのゆっくりとした変位を前提にしている。この場合、システムは局所的に平衡状態にあり、古典的統計物理学と熱力学の観点からその記述が可能である(下図)。

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Credit: silvaco.com

対照的に、サブミクロン半導体デバイスにおける粒子輸送は準準則的であり、すなわちそれらの動きは方向性が強く、電界中の粒子速度の増加は疎散乱によって中断される。この場合、システムは深い非平衡状態にあり、その熱力学的パラメータ(電子正孔プラズマの温度など)は不確定性が高い。

電荷キャリア輸送の従来のモデルは、半世紀以上前に定式化された局所平衡拡散ドリフトまたは準流体力学的近似に基づいている。しかし、現代の半導体構造の活性領域のサイズが、電子正孔プラズマのエネルギーおよび運動量緩和長さ(SiおよびGaAsの20〜50nm)および活性層を通過する時間は、電子正孔プラズマのエネルギーおよび運動量緩和時間のオーダー(SiおよびGaAsに対して0.1〜0.2ps)まで減少すると、局所性の条件が破られ、これにより、要素の特性を計算する際の誤差が増大して平衡状態では記述できなくなる。

 

電離放射線に対するサブミクロン構造の応答

 宇宙からの電離放射線の影響に対するサブミクロン構造の応答の分析は、電離と欠陥形成と放射線と粒子と物質の相互作用を考慮に入れる必要が生じる。そのときには、従来の半導体の巨視的特性劣化のモデルは適用できなくなる。したがって、サブミクロン構造では、急激な放射線障害の確率モデルを構築する必要がある。下図はMOSデバイスへのX線照射効果。

 

Effects of X ray radiation on MOS transistor characteristics78 MOS copy

Credit: researchgate

ロバチェフスキー大学の研究チームはこの拡散漂流モデルを提案し、外部空間からの重い荷電粒子またはそれらを模したレーザ照射下での電子 - 正孔プラズマにおける励起緩和を分析するための平衡近似を評価する手法を開発した(Puzanov et al., Semiconductors 52, 1407, 2018)。

開発された局所非平衡モデルは、高速緩和プロセスを記述できる適用範囲が広く、特に暴露時に半導体構造に流れる電流を計算するのに必要な電荷キャリアの弾道速度を正確に考慮している。宇宙からの重い荷電粒子に適用でき、マイクロ・ナノエレクトロニクスデバイスの故障や誤動作の可能性を判断するのに最適である。

 

基礎科学は産業の糧

ロシアの核物理、高エネルギー物理は歴史が古く、数学や物理の理論研究者の層も厚い。電離放射線の影響は地味だが、マイクロデバイスの製造コストを下げるという経済的理由だけでなく、有人・無人の長期宇宙飛行計画が現実化すると必要不可欠になる。先端技術の発展(デバイスの微細化)で必然的に基礎科学(物理)の意義が高まりつつあるのであって、先端技術に基礎科学は不要と考えるのは間違いだ。先端技術は先端科学が切り開くと考えなくてはならない。近年の日本の基礎科学予算の減少傾向に警鐘をならさなくてはならない。古臭い表現であるが基礎科学は産業の糧なのである。

 

 

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