重力波観測で明らかになる宇宙膨張(ハッブル定数)

20年前、天文学や素粒子物理など宇宙の起源に関心のある研究者たちは、宇宙が膨張速度を加速していることに衝撃を受けた。しかしハッブル定数と呼ばれる正確な膨張率を決めることは困難であった。宇宙の膨張とその起源(下図)は宇宙論だけでなく素粒子物理の究極のテーマであり、大げさに言えば人類に残された課題のひとつといえるだろう。

 

450px CMB Timeline300 no WMAP

Credit: Wiki

 

それ以来、科学者はハッブル定数(注1)を計算するために2つの方法を使ったが成功とは程遠い結果だった。しかし、昨年の中性子星の衝突から放射される重力波の観測は、ハッブル定数を計算する第3の方法となる可能性が高い。シカゴ大学の研究グループは、中性子星の衝突を発見できたならば、に正確なハッブル定数が5年から10年以内に決定できるとする論文を発表した(Chen et al., Nature online Oct. 17, 2018)。

(注1)1929年、エドウィン・ハッブルは、天の川を超えた銀河の観測に基づいて、彼らは私たちから遠ざかっているように見え、銀河が遠ければ遠いほど後退していたと速く発表しまた。これはビッグバンの理論の基礎であり、膨張の速度を決めるためほぼ100年にわたり探索が続けられることになった。

 

研究チームは宇宙の大きさと年齢を示すハッブル定数は、宇宙論が誕生して以来の歴史を秘めた数値であり、これを重力波で計算することで、宇宙について全く新しい視点を得ることができると考えている。

宇宙が拡大している速度を計算するためには2つの数値が必要になる。 ひとつは、離れた距離にある対象への距離。もうひとつは、宇宙の膨張で対象がどれだけ速く離れていくかである。望遠鏡で見ることができれば、遠くの星を見るときに見る光は、後退するにつれて赤色にシフトするので、第2の量は比較的簡単に決定できる。

Measurements of the Hubble constant

Credit: daviddarling.info

 

しかし、対象までの距離の正確な決定ははるかに困難な仕事である。従来このために、天体物理学者は、「宇宙距離梯子」(Cosmic distance ladder)と呼ばれる技術(上図)を使用していた。この技術では、特定の変光星や超新星の明るさを使って、徐々に対象に至る距離スケールを確立していくことで、距離を推定する。しかし、マーカーとして使われた超新星はスケールを決めるほどの信頼性がないため誤差が大きく、宇宙膨張の定量解析は不可能であった(下図)。

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Credit: esa.int

 

ハッブル定数を計算するもう1つの主要な方法は、宇宙のマイクロ波のバックグラウンド、つまり宇宙の起源と同時につくられた光のパルスを観測することである。この方法も誤差が大きくハッブル定数の絶対値には1桁ものばらつきがみられる。これが現在の宇宙論の最大の問題となっている。

その後、LIGOの検出器は、昨年の2つの星の衝突から、時空間の歪(リップル)を観測した。重力波は、ハッブル定数を計算する異なる方法となる。 2つの巨大星がお互いに衝突すると、彼らは地球上で検出可能な時空に波紋を送り出す。その信号を測定することにより、科学者は衝突する星の質量とエネルギーを得ることが可能になり、重力波の強さと比較すると、どれくらい離れているかが推測できる。

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Credit: Nature

 

今回の論文の結果(上図)では、中性子星の衝突事象を25回検出すると、3%の精度で宇宙の膨張を測定できると予測している。 200回の測定では、その精度は1%にまで減少する。これまでの2つの方法における不一致の理由の1つは、重力自体の性質が時間とともに変化した可能性による。

LIGOは、2019年2月に新たな観測を開始する予定で、VIRGOもこれに参加する予定である。日本のKAGRAには追加予算がつき、建設が急ピッチで進んでいる。近い将来これらの施設が連携してハッブル定数の精度は著しく高められるだろう。その先に何があるのか。幸い暗黒物質やダークエネルギーなど素粒子論と宇宙論の焦点となる未解決の問題が待ち受ける。

そこでは宇宙と極微の世界が同じメカニズムでつながる世界が広がる。次世代加速器建設のトンネルは貴重な財産となることは間違いない。ILCもCLICも建設するならば、トンネルは人類の資産として有効に使ってもらいたい。

 

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