Xバンドマイクロ波利用技術〜気象レーダーから加速器まで

軍事利用と加速器技術は関連がなさそうだが、Xバンドマイクロ波技術においては意外と関連が深い。近年、Xバンドマイクロ波は気象レーダーから加速器まで幅広く使われるようになった。マイクロ波は周波数帯域が300MHzからテラヘルツ帯に及ぶが、IEEEの分類によれば我々の社会に関係するものはほぼ100GHzまでの領域である。

 

身近な存在のマイクロ波は移動体通信とテレビ放送電波である。これらはLバンドと呼ばれる0.5-1.5GHzの周波数帯(注1)を利用しており、それより高い周波数帯には固定無線のSバンド(2-4GHz)や通信衛星やレーダーなどのCバンド(4-8GHz)、Kバンド(18-26GHz)が知られている。最近では移動体通信の周波数が急速に増大し、LTE以降の次世代5G通信では10GHzに達する。

 

Satellite frequency bands large

 

Credit: esa.int

(注1)1.5-3.5GHz帯域は携帯キャリアがスマホ向けの高速通信事業で使用されるようになった。特に3.5GHz帯はキャリア各社がLTE通信に使っている。

 

Xバンドマイクロ波レーダー

最近のテレビの気象予報で刻々移動する降雨地域の表示に気がついているだろうか。これはXバンドマイクロ波レーダー雨量計の計測値から構築された雨量分布情報に基づいている。スマホサイトは自分のいる地域のピンンポイント降雨地域の将来予想ができて便利である。気象レーダーでは,Sバンド、Cバンド、Xバンド帯域が使用されるが、この順に空間分解能が向上する。

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Credit: bosal

 

国土交通省のレーダー雨量計は全国に65箇所設置されている。CバンドとXバンドの2種類がある。Xバンドレーダーは空間分解能に優れているが、空間分解能で劣るCバンドレーダーも遠方まで観測可能であり、両者は相補的に用いられる。国土交通省ではXRAIN(eXtended Radar Information Network)と呼ばれるシステムが250mメッシュでリアルタイム雨量分布を1分ごとに更新している。

 

マルチパラメータレーダー(MPレーダー)

従来の気象レーダーでは水平偏波のみを用いて観測を行っていたため、補正に時間を要していた。これに対してMPレーダー(2重偏波レーダー)は水平偏波と垂直偏波の2種類の電波を同時に用いる。MPレーダーは水平偏波と垂直偏波の遅れの差(偏波間位相差)として検出する。偏波間位相差は反射物体(雨滴)からの距離が遠くなるほど大きいので、偏波間位相差の距離に関する微分値が降雨地域を与える。下図はレーダー反射の生データ、位相差および位相差の距離微分を比較してある。

 

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Credit: Tobias Otto

 

CバンドからXバンドへ〜RF周波数帯域をあげる加速器

C バンド加速器は,周波数帯域が Sバンド(2-4GHz)の高周波技術による高加速電界を持つ電子ビーム加速器システムを指す。従来の電子ビーム加速器は,共振周波数がS バンドの2856MHzの加速管が用いられることが多い。

一方 C バンド加速管は,共振周波数が Cバンド周波数、5712MHz となる。C バンド加速管を用いれば、35MV/m 以上の高加速勾配が実現されルため、加速器部全長が短くできる。「波乗り原理」で荷電粒子の加速に用いる高周波の周波数が高くなると波長が短くなるため,コンパクト直線型加速噐に都合が良い。

 

さらにコンパクト化を進めるための高い周波数帯域を用いる研究開発も行われている。Xバンド(8-12GHz)の加速器技術が精力的に行われており、例えば

次世代の放射線治療用6MeV加速噐ポータブルX線発生装置から(ILCの先行計画とも言える)JLC用の大型直線加速器に至る加速器への応用がある。加速勾配を高くなることでトンネルを短くできる。下図はXバンド電子加速器の例(C. Vaccarezzaet al. arXiv:1801.09932)。

 

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Credit: inspirehep

 

Xバンドマイクロ波兵器〜ワインバーガーの批判

ここまで書くとXバンドマイクロ波技術が加速器利用に代表される平和利用の印象を与えるが、指向性の高いXバンドマイクロ波は軍事衛星や対空・射撃レーダーに使われてきた。マイクロ波を兵器としての利用を考えたのは、マルコーニやテスラなど電磁気学と通信技術の基礎を築いた科学者たちであった。

SFに登場することはあっても”Death Ray”とか”Death Beam”という物騒な名前のついたマイクロ波兵器が、本格的な研究開発が開始されたのは、冷戦時代の約50年前のことであった。下図はテスラが考案した”Death Ray”(注2)の構造で基本的にはバンデグラフ高圧発生源と電子線発生部からなる直線型加速器そのものである。

(注2)テスラ自身は殺人兵器ではなく人を傷つけないで戦争や暴動を終結させる目的を考えていた。そのため彼の表現は”Peace Ray”あるいは”Teleforce”だったらしい。

 

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Credit: tfcbooks

 

米国空軍はHPM(High Power Microwave)と呼ぶ高出力マイクロ波兵器を研究開発してきた。2012年にワインバーガーはHPM計画をエネルギーの無駄、と厳しく批判した(Weinberger, Nature online Sep. 12, 2012)。ワインバーガーの意見は主に膨大な予算にもかかわらず実戦に使えるマイクロ波兵器が一向に完成しないことに関する論文であった。

しかし2012年12月に空軍研究所は小型のマイクロ波兵器を巡航ミサイルに搭載したCHAMP(Counter-electronics High Power Microwave Advanced Missile Project)と呼ぶ新しいHPM兵器を完成させたという発表を行った。CHAMPはXバンドの指向性の高い発信機を備え、巡航ミサイルから目標をEMP攻撃して、人体に影響なく電子回路を破壊する能力がある。ワインバーガーもXバンドよりさらに高いWバンド(95GHz)でも人体表面の0.5mmが吸収するのみで生命に影響はないとしている。

 

Xバンドマイクロ波発展の背景にある固体増幅器

結局、マイクロ波の高周波数化、高出力化に寄与したのは移動通信、レーダー、加速器の分野に共通する因子、固体電力増幅器(SSPA, Solid State Power Amplifier)だろう。この3分野の先端的スペック要求を満足する驚くほどコンパクトなSSPAが、市販されるようになり本格的なXバンドマイクロ波技術に結びついた。

加速器も医療用X線源も、携帯・スマホもレーダーも小型化と高性能化を同時に実現することができたのはSSPAによるところが大きい。SSPAの鍵となるのがHEMTで最近はGaN HEMTが注目されている。わずか50年でマイクロ波技術は先端科学や現代社会を支えるほどの基礎技術になったと言える。マルコーニもテスラはこのような社会を予想していたのかもしれない。またテスラの”Peace Ray”は武器を無力化する技術だとすれば、50年後の朝鮮半島危機を救うことにつながるかもしれない。マイクロ波からテラヘルツへと続く新領域は果てしない可能性を秘めていると思えてならない。

 

ローマ大学の物理教室にはマルコーニの実験装置が展示されているが、現代の学生たちはスマホを片手にして素通りする。テスラは米国のEVメーカーが会社の名前に使って敬意を評している。彼らが現代を見たらどのような感慨に耽るのだろうか。

 

 

 

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