ペロブスカイト薄膜のテラヘルツ帯巨大磁気抵抗効果〜テラヘルツデバイス

メモリの高密度化と並んで計算機やサーバーの高速動作には書き込み、読み出しの速度の向上が求められる。そこでテラヘルツ(THz)帯の書き込みと読み出しが可能な高速アクセスメモリの実用化が期待されている。巨大磁気抵抗子効果(CMR)はそのような目的に、適した動作原理であり薄膜材料での動作は実用デバイスに適している。

 

しかしこれまでの薄膜材料ではテラヘルツ帯の書き込みは実現していなかった。英国の集積ナノテクセンター(CINT)の研究チームは世界で初めてペロブスカイト(La0.7Sr0.3MnO3)薄膜でテラヘルツ帯での高速書き込みを可能にした(Loyd-Hughes et al., Nano Lett. 17, 2506, 2018)。

研究チームはLa0.7Sr0.3MnO3薄膜および垂直配向ナノコンポジットのTHz時間分解分光で、キュリー温度(室温)では、後者のTHz伝導度が磁場中で2桁以上劇的に向上し、非ドルーデ型となることを見出した。またLa0.7Sr0.3MnO3薄膜においても同様のTHz-CMRが観測された。(下図)

 

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Credit: Nano Lett.

 

CMRについてはこれまで多くの研究があるが、作成されたLa0.7Sr0.3MnO3薄膜の磁気抵抗がDC伝導度に反映される巨視的な長さスケールでは無視できる場合でも、ナノメートルスケールではAC的な電流変化に対して磁気抵抗が大きく周波数に依存して増大することがわかった。例えば2THzで室温の伝導度は2桁増大する。

THz光を用いることによってCMRを増幅してスイッチングメモリを作ることができる。この研究によりTHz周波数のCMRを原理とする高速スイッチングのデバイスやTHz光デバイスが実現可能であることが示された。

 

CINTについて

Center for Integrated Nanotechnologies は英国がエネルギー予算で運営するナノテク関連のデバイスを中心とする研究センター。国際的にオープンななの科学の境界領域研究組織で、主に英語圏の研究者が参加したオープンラボである。スペインにもサンセバスチャンに設置されたNanoG UNEも同様な性格のナノテクを基盤とする電子技術研究所である。

研究テーマをProposalとして一般公募で受け付ける点で、運用形態が放射光施設と似ている点もある。また参加する研究者をユーザーと呼ぶことでも、共同利用から一歩踏み込んだオープンラボの概念はナノ科学の研究推進に欠かせない研究資源の統合と境界領域研究という二つの要素を実現するために役立っている。

 

オープンラボの特徴である公募と自由な研究チーム体制のうち、前者は放射光施設で一般的なものだが、これを取り入れたオープンラボは世界的な傾向のようだ。そう考えると伸び悩んでいる感が強い日本の放射光も、オープンラボ化をさらに進めて、基礎科学の推進母体となるポテンシャルを持っているのではないだろうか。

 

 CINTは自身を"Big Science at the Nanoscale"と表現している。このことからすればCINTがエネルギー科学の一環で予算化されていることが自然に理解できる。

 

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