確度が高まるLHCの新粒子発見

素粒子の世界では加速器のエネルギーフロンテイアが新粒子発見の最先端である。エネルギーフロンテイアはすでに世界最大の円形加速器LHCを最後に2016年に破綻がはっきりしたムーアの法則と同じように、躍進の時代は過去のものとなった。現在のエネルギーフロンテイアにあるアップグレード後のLHCの13TeVに続く、次世代加速器は直線加速器(ILC)となるがエネルギーフロンテイアとは異なる次元の加速器となると考えられている。素粒子物理を支えてきた標準理論(モデル)根底から揺るがす新粒子の兆候がLHCからもたらされた。

 

ATLAS、CMSが750GeVに新素粒子の兆候

陽子同士を衝突させた後に崩壊で2個の等いエネルギー光子(γ線)が放出される。ATLAS、CMSの両方の実験グループが750GeVにバックグラウンドと異なるピーク(バンプ)を発見したのである。2015年末時点でのこ発見は新粒子と認定される統計を下回っていたため、ブログなどでネット上に広まり、大きな注目を浴びた。

しかし慎重な研究者の中にはたとえ独立な計測系で同時に観測されたと言っても膨大なイベントの中では、偶然の一致に過ぎないとする人も多かった。最新の記事によれば、統計的な確度は昨年末の時点より高くなりいよいよ新粒子発見の可能性が高まった。LHCは現在メンテナンスのためシャットダウン中なので再実験はできない。この3か月で一体どのようなことが起こったのであろうか。

 

CMSデータの補強で確度が高まる

2015年12月に750GeVのγ線収量に異常なピークが出ることは知られており、本コラムでも報告してある。CMS実験に比べて当時はATLAS実験の方がデータが多かったが、新しい解析によりCMS実験データが22%増えて確度が上昇した。一方ATLAS実験のデータは慎重に解析し直した結果、当初より確度が減った結果ATLAS、CMS実験の確度はほぼ同じになり、同じ条件で独立した二つの実験グループが750GeVピークを新素粒子と解釈している。

データの増強によってCMSは1.2σから1.6σに改善されたが、新粒子認定には5σでなくてはならないので、まだ認定はできない。また750GeVのピークが膨大な崩壊事象による可能性も否定できないとする意見もある。

仮に750GeVγ線が新しい素粒子であるとすると、それはボソンファミリー(ゲージ粒子)に属するもので、質量が2012年にLHCが発見したヒッグス粒子より大きくなる。標準理論によりヒッグス粒子自体の存在は予言されていたため、2012年のLHCの発見はある意味で、「理論の確認」であった。

 

標準理論(モデル)の終焉

しかし今回の事象は標準理論の枠内においては「最後の粒子」であったはずのヒッグス粒子以外に素粒子があることを意味する。すでにスーパーカミオカンデ実験でニュートリノに質量があることで揺らぎ始めていた標準理論(標準モデル)が足元から完全に破綻することを意味する。加速器を望遠鏡に例えればエネルギーは望遠鏡の倍率すなわち観察距離に相当する。したがって我々が集めた実験データもそれらを矛盾なく説明出来る理論(モデル)と言っても、限定された対象についてのものなので、それを越える領域には新しい粒子が見つかっても不思議ではない。

標準モデルの核となるのは電磁相互作用、強い相互作用、弱い相互作用の3つの相互作用である。2016年は標準モデルに大きな書き換えが必要になりそうであるが、今の所実験はエネルギーフロンテイアにあるLHCの独壇場となりつつある。なおILCはLHCと異なりヒッグス粒子に焦点を当てたより精度の高いデータを得るために高品位の電子―陽電子衝突型加速器である。ILCのエネルギーが750GeVになるのはアップグレード後になる。

 

再燃するエネルギーフロンテイアの意義

一方、中国が狙う周長50kmの円形加速器(CEPC)では陽子衝突エネルギー70TeV(電子―陽電子衝突エネルギー240GeV)と、LHC後に再びエネルギーフロンテイアに立つ。ILC計画は日本が主体的に誘致を目指し2016年からKEKを中心に計画を推進することになっているが、LHC「エネルギーフロンテイアに立つ加速器の特権」を駆使して新粒子発見が相次げば標準モデル同様に見直しが迫られるかもしれない。LHCは今後10年間はルミノシテイ(ビーム輝度)を上げてより精度の良いエネルギーフロンテイア加速器として活躍が期待されている。

2008年から稼動したLHCでのトンネルは先の電子―陽電子衝突リング(注1)LEPのものであった。LEPはヒッグス粒子発見を目指したが、その兆候をつかんだだけで統計的には認められなかった。その後、LEPの加速空洞は超伝導空洞に置き換えられ同じトンネルに全く新しい加速器LHCが誕生して、ヒッグス粒子の発見に至った。LHCはその後、アップグレードして新粒子の発見につながる「兆候」(注2)をつかんだ。発見とは言えないものの「兆候」が一歩、発見に近づいた。LHCはこの他にも多くの実験が予定されていて目が離せない。同時に日本(KEK)が主導して誘致しているILCの戦略を見直して将来展開を明確にすべきであろう。

 

(注1)日本では1980年代にKEKがLEPと同じ30GeVの電子―陽電子衝突リング「トリスタン」でトップクオークの発見に挑んだ。トップクオーク発見はテバトロンに譲ったが、テバトロンの実験にはKEKグループの寄与があり、そのトンネルはその後、KEKBとそのルミノシテイを上げたSuperKEKBに転用された。

(注2)フェルミ国立加速器研究所(フェルミラボ)のテバトロンはLHCができるまで当時のエネルギーフロンテイア(1TeV)にあった円形加速器。陽子―反陽子衝突実験を行いトップクオークの発見で知られる。そのテバトロンが引退する2011年間までの実験データを整理して、新たな素粒子発見の兆候を見つけた。これまでの分類にない新粒子の可能性が高い。「兆候」は確度を上げて「発見」につながる。膨大な衝突実験データを閉鎖された後に解析して新発見につなげた例である。

 

参考記事

 LHCが新しいヒッグスボソンの兆候を発見

 

 

You have no rights to post comments

hitachihightec

hitachihightec science

Copyright© 2013.   放射線ホライゾン rad-horizon.net   All Rights Reserved.