放射光のパラドックス-その1

 放射光サイエンスの発展とは何かを考えるときに、我々が直面しているのは自然科学の今後の方針に関わる問題で、ひとつの放射光施設の問題ではないように思える。Cutting-edge研究(一握りの最先端研究、国際競争が激しく、最新の放射光施設が必要不可欠)に焦点を合わせるべきか、裾野を含めた最大多数のユーザーが満足する汎用マシンで、性能よりむしろ周辺設備の充実とスループットを高め全体のOutputで勝負するか、のバランスである。


 先端的光源として先陣を切るXFEL施設のサイエンス戦略を眺めれば、ビーム性能重視の戦略が前者に対しては圧倒的なエンジンとなり欧米にひけをとらないCutting-edgeサイエンスを牽引していくであろうことは容易に想像できる。過去のサイエンスの歴史をみればいつの時代にも、Cutting-edgeが先陣を切って進歩があり社会はその恩恵を遅れて受けて来たことは事実である。

 一方、統計的には利用研究のカテゴリは分散している点が素粒子物理と異なる点だ。例えばX線分光の締める割合は22%、蛋白構造解析は41%でありこれらが過半数を占める。2003年に高エネルギー第三世代放射光のひとつAPSの論文数が世界中の放射光以外の光源による構造解析論文の総数を越えた。ひとつの放射光施設でも(スループットに重点をおけば)圧倒的なOutputで世界と勝負できることを示している。つまりふたつの方向性のどちらの方向性も有りなのである。

 

 ところで下の写真は米国の7GeVマシンAPSである。遠く遠方にみえる摩天楼はミシガン湖に面したザ ループと呼ばれるダウンタウンである。シカゴ市内に住む人がAPSへ通うのはに通勤方向の逆なので苦にならない、とはいうものの、交通不便な郊外にあるのは事実である。ニューヨーク郊外のNSLSも交通不便さではひけをとらない。JFKから車で向かうと延々と続くLong Island Expresswayに飽きて一休みしたくなるのがSTONY BROOKでまだ手前だ。NSLSは我慢の限界に近い距離だ。JFKからDoor-to-doorのリムジンサービスがあるのだが、待ち合わせして誰かと一緒に行く事を勧める。乗ってしまえばいいのだが待ち時間が苦痛である。


 

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 たいてい放射光施設は郊外の田舎にあって周囲は畑か牧草地である。実際、APSの敷地内には有名なWhite deerがいるし、NSLSでも鹿を車ではねないように気を使う。同じくSSRL(パロアルト)のトイレには蛇がいて騒ぎになった。日本でも放射光施設で 狸や狐の目撃が話題になった。筆者の経験では一番、便利なのはたぶん上海のSSRFだろう。国際空港から近くて飛行機が着いてから直行できるのはここぐら いだろう。大通りかに面した門をはいってすぐ施設に入れるのも他ではみられないことである。

 

 だいぶ脱線したがいいたいことは病院同様に客商売であるはずの放射光は不便さを犠牲にしてまで設置場所で制約されるビーム性能を重視して来た。しかしこれからは少し異なる判断基準が適用されるであろう。

 サイエンス的な優位性、国際競争の目的で大型施設に惜しみなく予算をつぎ込めた時代は過ぎ去って、現実には破綻している国の財政上無理な計画は許されない。米国も我が国もほとんどの先進国は債務過多で刷りすぎた紙幣を全部使っても返済できない。破綻は都合が悪いので示し合わせて先送りしているにすぎないのだ。(刷りすぎた紙幣の問題については別稿でとりあげる。)

 結局、加速器の先端性=Cutting-edgeサイエンスという図式か、汎用で全体のOutputに焦点をあてるか、選択しなければならないが、それらが両立するというなら耳を傾けたいが、震災復興に整合するシナリオを考えたとしても財政的なファクターが強く関わらざるを得ない。いずれにしても持続性のあるベストな選択でなくてはならない。それが決まれば一致団結して突き進むことができるのではないか。不幸なことに日本では一握りの人が放射光の建設を主導しユーザー数1000人に影響を与える時代になってしまった。気がつけば強いリーダーシップ(独裁)を正当化する社会のトレンドと同じである。賢明な選択をできるか問われている。

 

 放射光のパラドックス-その2

 

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