加速器治療の最前線−Part2 陽子線治療

 水素原子から電子をたたき出して得られる1価イオンが陽子(プロトン)である。陽子線とは陽子を加速したビームで、これを癌治療に用いると、ビームエネルギーで決まる特定の深さで放射線量が最大となり、それ以上先に到達しないため、X線治療に比べ、癌細胞へ放射線を集中させることが可能となり、通常細胞へのダメージが少ないといわれる。

 加速器治療の最前線−Part1 リニアック

 下に示す治療例では線量がビーム経路は少なく、癌患部に集中している様子が示されている。

Proton beam therapy 1

 

陽子加速器
 陽子ビームを得るには円形加速器(シンクロトロン、サイクロトロン)を用いる。シンクロトロンは陽子ビームを磁場で曲げ円形の真空中を周回させながら高周波加速(電場の波乗り原理)により、加速して取り出す。ビームの大きさは直径10mm、精度2mmというやや粗いビームプロファイルである。医療で用いられる陽子加速器は中エネルギー(250MeV以下)の円形加速器で、線量率2Gy/min程度の照射能力である。下の写真は小型化されている医学治療用のサイクロトロン。

 

Cyclotron

 

陽子線の特徴
 陽子線は正電荷を持つためにクーロン相互作用を通じて物質との相互作用の大きいビームである。陽子線ビームがエネルギーを失って体内で患部付近で停止する直前に「ブラッグピーク」(下図のproton beam #1)と呼ばれる大きな線量を生体に与える。

 X線ビームでは体内に入ると吸収される線量は経路に沿って徐々に減少するので、患部に達する前に通常細胞も放射線ダメージを受ける。通常の細胞と癌細胞を 比べたときに、後者がよりダメージを受ける「肉を切らせて骨を切る」ことで、癌患部を破壊する。陽子ビームの停止部を患部に選べば、正常細胞のダメージは X線ビームより少ないのが特徴である。

 

Comparison of dose profiles for proton v. x-ray radiotherapy copy

 

陽子線治療の問題点
 陽子ビームをつくりだすのに加速器が必要となるため、設置コストと運営コストの高さが治療費に反映される。このため設備の導入は国の支援を受けた特定の場所に限られる。また治療は照射を分割して複数回行うために効率が悪く、これも治療費に跳ね返る。治療費は保険が適用されない288万円である。

 通院期間で最大600万円保証の大手のがん保険でも、先端医療特約を付けないと陽子線治療を含む先端医療は対象外である。今後、陽子線治療拠点が各地でフル稼働しても治療費は200万円を切ることは難しいとされる。一般の患者が治療を受けられるためには円形加速器には限界があるので、小型リニアックの開発が期待される。

 

超伝導加速空洞リニアック
 高エネルギー物理の世界では直線加速器を超伝導空洞(下の写真)で小型化する技術が精力的に開発されている。超伝導空洞の場合には高エネルギー領域(数100MeV以上)においては10〜20MeV/m程度が実現できるので、250MeVシンクロトロン(周長7m、三菱電機製)を13mの超伝導リニアックで置き換えることでもかなりのコンパクト化、省エネ化になる。

 

820 1

 

 中エネルギー領域(数10MeV〜200MeV 程度)用の超伝導空洞は、各国の研究機関で開発が進められており、日本のJ-PARCでは、2 期工事に超伝導陽子リニアックの建設が予定されている。超伝導リニアックはまた省電力であるので維持コスト(電気代)の低減化が治療費に反映される。LHCで活躍した超伝導加速空洞技術は、最先端の加速器技術でまたILCやERLなどでも中心的課題となっている。

 

 「切らずに治せる癌」という謳い文句で汎用リニアック治療が見直されている。確かに日本の手術による癌治療率は飛び抜けて高い。何故、他の先進国と比べて手術による治療が多いのか、外国では最後の手段である手術が日本だけの特殊事情であるかは議論が絶えない。

 

 放射線、粒子線治療で(全てとはいえないが)手術に頼らない治療と治癒が可能であれば、多くの患者の精神的負担は軽減される。もちろん(他の治療法と同様に)癌の種類と場所、ステージによっては、先端医療といえども完全な治療が保証されるわけではない。現在の現実的でない治療費や整備コストをもって、「粒子線治療の整備必要なし」、という意見も極論である。確かに現時点では陽子線治療(広義の粒子線治療)は汎用の治療機器とは言い難いが、潜在能力を育てていく努力は継続すべきと思われる。

 被曝によって癌が発生し、それを治療するのにも使える、「諸刃の刃」放射線の潜在能力はまだまだ未知の部分が多いし、それを制御する技術も完全ではない。

 

加速器治療の最前線−Part3 重粒子線

You have no rights to post comments

hitachihightec

hitachihightec science

Copyright© 2013.   放射線ホライゾン rad-horizon.net   All Rights Reserved.