放射線で癌を直す加速器治療-BNCTへの期待度

 BNCTとは何なのか。一般的には中性子捕捉療法(Neutron Capture Therapy)と呼ばれる核物理による医療のひとつである。照射された中性子と癌組織に取り込まれた中性子との反応断面積が大きい元素との核反応(注)によって発生する粒子放射線によって、局所的に癌細胞を殺すという原理に基づく癌治療法である。

 

 

1280px-Boron neutron capture therapy bnct illustration

 

(注)中性子捕捉とは原子核が中性子と衝突して合体し、より重い原子核に変わる原子核反応反応である。高速増殖炉においてウラン238に中性子を照射してプルトニウムを得(ようとす)るのもこの反応による。この核反応は照射元素を人工的に別の元素へ変えることができるため中性子練金術として知られる。On-line News(http://rad-horizon.net/news-topics-online/222-pd)に関連情報が有る。

 BNCT(Boron Neutron Capture Therapy)は簡単にいえば、中性子をいわば増感する元素としてホウ素(B)を用いる中性子捕捉療法のことだ。1932年の中性子の発見後まもなく米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)で原子炉(注)から得られる中性子線を用いた実証試験が行われた。

 

793px-Brookhaven HFBR and BGRR

 

(注)BNLはロングアイランドの端に位置しており、2.5GeVの第二世代放射光施設(NSLS)がある。筆者が訪れたときはすでに中心的に活躍して来た原子炉のシャットダウンが決まっていて、長年中性子散乱の物理研究で米国の中心であった白根博士は残念そうであった。BNLは古くは核開発にも関連しているため、研究所の警戒は厳重で、構内の警戒にあたる守衛が自動小銃を携帯していた。911で空港が閉鎖となったとき、このBNLとロスアラモス研究所も同時に閉鎖となったほどである。現在はNSLSの後継機NSLS IIが稼働直前にありキャンパスには再び活気が戻りつつある。写真がHigh Flux Beam Reactor (HFBR)と呼ばれる実験炉である。シャットダウン後も内部は放射線レベルが高く、撤去できないでいる。なおBNLは交通が超不便でJFKから一直線に伸びた単調なLong Island Expresswayを空港からレンタカーかシャトルで突っ走るしかない。高速道路の側に鹿注意のサインをみることようやくドライブの終点、Brookhavenである。

 

BNCT-kaaviokuva copy

 

 患者の側からすると原子炉の側に横たわり放射線照射を受けるのは精神的にダメージを受ける。上記のような治療台に乗るのは私ならごめんだ。同時に、原子炉を治療に使うにはコストがかかり、治療代に反映される。だいいち病院に原子炉を設置する事は不可能であるから、医療にはどうしても中性子線源として加速器が有利である。そこで日本の重工業企業やNEDOプロジェクトにおいて小型加速器の利用技術がさかんに研究されている。BNCTでは10B核種は中性子照射により以下のような核反応を起こす。


10B+n → 7Li + 4He


 ポイントは核反応により発生する高エネルギーの7Liや4Heは極めて近距離しか移動できないため、影響が局所的で周辺の組織への影響が低いことである。癌細胞が特異的に代謝する化合物に、10B原子を取り込ませた後に、中性子照射すれば癌細胞のみを選択的に破壊するというわけだ。放射線ビームによる癌治療は他にも色々な方法があるが、患者の側からすればターゲットを憎むべき癌細胞に合わせて照射を受けることは精神的に負担が少ない。

 

 線形加速器により陽子ビームを中性子発生源であるベリリウムに照射して得られる中性子のエネルギーを選別して10B原子を取り込ませた患部に照射する。原則30分1回の照射(注)で終わるため患者の負担が少ないとされる。
日本ではKEKと筑波大学連携によってBNCTを中心とするいばらき中性子医療研究センター(http://www.hosp.tsukuba.ac.jp/new/1209191417.html)が精力的な研究を行っている。この他にも京都大学チームや企業の積極的な取り組みが目立つ。BNCTでは高強度ビームである必要もないので小型加速器が便利で、病院内の部屋へ設置できるコンパクトな装置を目指している。また線形加速器以外に蓄積リングで中性子発生によるエネルギー損失をRF空洞で補う形式も研究の対象である。


 BNCTの将来に期待したいが、社会貢献に遠いと思われて来た加速器科学が医療分野で貢献する時代に入ったようだ。医療保険の問題や全国病院への配備については国の積極的な取り組みが必要である。短時間で患部のみを治療するということは患者の負担を軽減することになるだろうが、1回数100万円で保険が効かないということになれば、経済的負担は大きい。国の補助と施策を求める積極的な必要があるだろう。

 

UW Therapy room

 

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