ESRFが解き明かしたレンブラント絵画の技法(インパスト)の秘密

「光の画家」と呼ばれるレンブラントは、光と影を操り数々の傑作を残しているが、得意とした技法、インパスト(Mpasto)とはキャンバスに厚塗りされた絵具の盛上がりや,絵筆またはパレットナイフの跡がはっきりわかるほどの画面上の絵具の凹凸をさす。これによって光の反射と散乱を自在に操ることで「光の魔術師」と表現される微妙な陰影を作り出していた。

 

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Credit: Gandalf's Gallery

 

インパストはキャンバスの上に立つようにキャンバスの上に置かれた厚い油絵の具の層で、インパストが軽減されると、光を反射する質感が増し、対象が強調される。オランダの黄金時代の象徴であるレンブラントは、17世紀のオランダの市場で伝統的に入手可能な材料、すなわち鉛白顔料(ヒドロセルサイトPb3(CO3)2(OH)2セルサイトとPbCO3の混合物および有機媒体(主にアマニ油))を使用することによってインパスト効果を実現したが、詳細は今日まで知られていなかった。

オランダとフランスの研究チームはESRF放射光を使って、新たにプラムボナクリット、Pb5(CO3)3O(OH)2が、インパスト効果に寄与していることを発見した(Gonzalez et al., Angewandte online Jan. 07, 2019

。この化合物はゴッホの絵画の劣化の原因である赤鉛顔料で検出されている。研究チームはESRFの走査型X線顕微鏡ビームラインID21を使用して、レンブラントのインパスト(下図a-c)の結晶相を定量化し、顔料微結晶の形態とサイズをモデル化し、マイクロスケールで結晶相分布図を得た。

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Credit: ESRF

 

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Credit: Angewandte

試料の大きさは0.1mm以下で、研究チームは次に高角度分解能X線回折(HR-XRD)とマイクロX線回折(µ-XRD)によりESRFビームライン、ID 22(下図a)とID 13(下図b)で分析した。 ESRFは欧州の美術館と協力してこれまでにも多くの美術品の研究で成果を上げている。ID13はタイコグラフイーと走査型ナノ回折実験に特化したビームライン。

 

Experimental setup used at ESRF ID22 beamline a Scheme of the optic hutch where the

a Credit: ESRF

 

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b Credit: ESRF

 

データの分析で、レンブラントはインパストのために酸化鉛(litharge)を油に添加し、混合物をペースト状の塗料に変えたことも確認されている。

 

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Credit: Angewandte

 

研究チームは、鉛白インパストがすべてプラムボナクリットを含むかどうかを評価するために、レンブラントと他の17人のオランダ人画家、フェルメール、ハルスの絵画の分析を予定している。

ESRF自身、美術品や骨董品の研究に力をいれていて、ビームラインサイエンテイストも経験豊富である。貴重な美術品を貸し出すことになる美術館側も心得ていて、信用度が高いESRFはこの分野で他の放射光施設の追従を許さない。厳しい美術館の評価を得るには大変な努力が必要だったろうが、ESRFにはお膝元のフランスの美術館のほか、オランダやスペインの美術館から、研究者(美術館員)が貴重な美術品を持ち込んでくる。受け入れる施設側の理解と協力体制が重要なことを教えてくれる。

 

日本でもレンブラントやフェルメールは人気があるようで、書店に解説本が並んでいるし企画展は混雑していてじっくり鑑賞することは不可能なほどである。なおレンブラントに繋がるベラスケスやグレコから、レンブラントまでの絵画をじっくり鑑賞するのには、マドリードのプラド美術館がおすすめである。ここでは採光が十分取られていて、長蛇の列が有名な絵画にできることもなく、静かにデッサンする画学生と一緒に心いくまで堪能できる。

 

 

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