ERL用永久電磁石をCBETAチームが開発

磁石は粒子加速器の中心をなす要素技術のひとつである。強力な磁場は、粒子ビームを高いエネルギーに加速したり、衝突実験の制御、重粒子線治療で腫瘍を破壊する際に、粒子ビームを「設計軌道に乗せる」役割を持つ。革新的な加速器技術は新型磁石の開発にかかっているといえる。

 

コーネル大のERL〜CBETA

ニューヨーク州エネルギー研究開発局(NYSERDA)が資金を出してコーネルブルックヘイブンERL(CBETAの目的の一部)をコーネル大学が建設中である。CBETAでは、ブルックヘブン国立研究所によって設計された最先端の磁石で作られた同時に4つのビームを異なるエネルギー運用することができる。

CBETA用にブルックヘブン加速器チームによって開発された新しい磁石アレイは、各円形磁石の開口内の異なる点で強度が変化する固定磁場を持つことが特徴である。異なるエネルギーのビームに対応するために磁場を上げる代わりに、異なるエネルギーを持つビームは開口内にそれ自身の「スイートスポット」を見つける点が新しい。これを利用してCBETAでは、4つの異なるエネルギーのビームが単一のビームラインで同時に運用できる。

 

CBETA Layout3

Credit: CBETA 

 

CBETAでは、これらの磁石列は、線形加速器(リニアック)に電子の束を繰り返し送るリターンループを形成する。リニアックの超伝導RFキャビティを4回通過させ電子のエネルギーを上げ、次の4周は、ビームに蓄えられたエネルギーを回収して次の加速に再利用するERLは、理想的な粒子加速器だが技術的難易度が高く、維持コストが高いため現実的でないとしてコーネル大もKEK-PFも次期マシン計画を見送った経緯がある。

 

新技術でERLに復活の兆しか

ビームを実験に使用した場合でも、エネルギー回収率は99.9%近くになると予想され、効率の面でこの「超伝導エネルギー回収リニアック(ERL)」が秘めているポテンシャルは今でも先端性を失っていない。光速に近い速度まで加速された電子の新しいバンチがマイクロ秒ごとに最大エネルギーに達するので、新しいビームが実験に常に利用可能である。いわば使い回しでない新鮮なビームを使えるので実験の質が向上する。

そのためには永久磁石を使うことが好ましい。磁場の強さを変えるために電力を必要とする電磁石は電力消費の他に、制御性にも問題がある。電気を必要としない永久磁石を使用すると、その問題が回避され、加速器の運転に必要なエネルギー(コスト)が削減できる。下図はPMA(Permanent Magnet Array)概要。

 

PermanentMagnetsDistancedneedstobeidenticalforeachpole

Credit: CBETA

 

CBETA-ERLの運転は2019年3月

CBETA用の磁石を準備するために、高品質の永久磁石アセンブリがCBETAチームと企業(KYMA)が共同で取り組んだ。ブルックヘブンの加速器グループは磁場強度を正確に測定し、磁場補正システムで磁場を微調整し、CBETAに必要な精度を達成した。そのほか完成した磁石の組み立て、専用のガーダー、ビーム位置モニター用の電子回路の製作と評価が行われた。

CBETAチームは、長期間にわたって気の遠くなるような回数の磁気測定と調を経て組み立てられたPMAは、最終的なアクセラレータアセンブリのためにコーネル大に送られている。CBETAチームは2019年3月にアクセラレータの試運転を開始予定である。設計エネルギー42MeVで測定した永久磁石アレイ(PMA)のガーダーNo. 1におけるビームスポット。

 

igp 30daffea61002c60f0dcebc6bd22705c First PMA Beam 42MeV

Credit: Cornel Univ.

 

CBETAのために開発された技術であるが、新型永久磁石技術は加速器科学に革命を起こす可能性がある期待されている。米国に限っても原子核物理研究所が検討中の電子 - イオン衝突器(EIC)において電子のビームを加速し再利用して重イオンのビームを冷却するための効率的な方法となる。

 

ERLの火を消してはならない

磁石の技術はかつて日本のお家芸であったはずだ。今後、関連企業とKEKの連携で新技術が国内に普及すれば、衝突実験から放射光までの大型加速器や、医療用の重イオン加速器、病院に不可欠の医療イメージングや一般のオンコロジーで使われるコンパクト加速器に応用が開ける可能性が高い。そうした未来技術に投資することに税金が使われることに異論はないだろう。

とはいってもERLの技術課題は山積みで、高エネルギーの汎用マシンとして成立するにはまだまだ時間がかかることも事実である。しかし重要なことは「火を絶やさない」ことである。CBETAにしても地方予算で支出できる質素な設計であるが、それでもPMAなどの技術開発に経験を積んだ加速器グループがR&Dを継続できたことで、ERLの再チャレンジを可能にした。

 

既存技術だけで我武者羅にERLを実現しようとしたなら無謀だっただろう。PMAやCs-K-Sbフォトカソードのような新技術で、ERLの復活は現実味を帯びてきた。CBETAは潤沢な予算がついているわけではない。重要なことはユーザー数の少ないコーネル大放射光の次期計画としてのERLを見送っても、加速器グループに再チャレンジの機会が与えられていることと、一部の加速器研究者はLCLS2に参画して経験とスキルが生かされる人事の流動性に学ぶべきことがあると筆者は考えている。既存技術で未来を判断せず、新技術で欠点をカバーしながら理想を目指す「高い志」を忘れないで欲しいと思う。

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