蛋白質結晶の熱力学に迫るX線構造解析

酵素はいわば蛋白質でできた生体触媒であり、生体内の反応やプロセスを触媒する非常に重要な分子である。したがって、それらの構造と反応メカニズムを理解することは、生命科学および医学の進歩に極めて重要である。

 

蛋白質結晶をX線ビームにあてて回折パターンを得るX線結晶解析は、そのために広く使用されている手法である。損傷を避けるためにX線回折データは通常、100Kの低温気体(窒素)を結晶に吹き付けながら行う。しかし低温条件では、一般的に蛋白質結晶の立体配座変化の熱力学的分析には程遠い条件である。

大阪大学を中心とする研究チームは、SPring-8で非低温環境のX線回折に、JASRIがSPring-8で開発した新しい冷却技術(注1)で銅アミンオキシダーゼの触媒反応中の構造変化の詳細を調べることに成功した(Murakawa et al., PNAS online Nov. 16, 2018)。

(注1)低温冷却の代わりに、未凍結蛋白質結晶を水溶性ポリマーでコーティングし、低温の窒素ガス中に置いてX線実験を行う手法で、"humid air and glue-coating (HAG)"と呼ばれる。 

 

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Credit: PNAS

上図はHAG法で測定された銅アミンオキシダーゼ結晶(A)および触媒中間体の温度依存平衡(B)。

研究チームはこの方法で、酸化還元補因子の異なる立体配座(触媒反応の必須成分)間の平衡調べることができた。結晶構造による熱力学的解析は、溶液研究から得られる熱力データよりも、直接的で信頼性が高い。

得られた熱力学的パラメータは、細胞内の細胞礎質と同様の挙動であったことから、温度制御HAG条件でのX線構造解析は生理学的環境下での蛋白質結晶の熱力学研究に有用であることが確かめられた。酵素を対象とする実験では「生きたまま」測定することが、理想であるが凍結試料は「干からびた」状態で、構造決定ができたとしても、生命活動と直接関連付けが困難である。新しいX線構造解析の進歩で生体機能の微視的構造研究が進展するものと期待されている。

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