アップグレードに向けてダークタイムを迎えたESRF

世界の6GeV光源の先駆けであったESRFは現在、20ヶ月のシャットダウンに入り、2020年にユーザーに公開されるESRF-EBSに向けて蓄積リングの改修(実質的には新たなリングへの置き換え)が始まった。

 

30年前、フランスのグルノーブルでESRFは、世界で初めて第3世代の6GeVシンクロトロン光源として稼働開始、論文32,000以上、年間5,000人のユーザー、4人のノーベル賞受賞者という華々しい成果を上げた。ESRF-EBSは、ESRFに参画する22カ国から資金提供を受けた、1億5000万ユーロのプロジェクト(下図)である。 ESRF-EBSは、世界初の高エネルギー第4世代蓄積リングとなる。

 

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Credit: ESRF

 

既存のDBAラテイスをHMBA(上図)とすることで、第3世代に比べて輝度とコヒーレンスが100倍向上する。ESRF-EBS蓄積リング全体では、1000個の磁石が挿入されるが、128箇所の偏向磁石に永久磁石技術を使用して、電力消費を大幅に削減している(下図)。MBA以降のリングは「おもちゃのような」磁石の小型化が目立つ。大電力を要する第3世代までのリングは省エネの観点からも、第4世代光源に「衣替え」すべきなのである。

 

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Credit: ESRF

 

ESRF-EBSは、4つの新しいビームラインの建設と既存のビームラインの改造が予定されているほか、高性能検出器と大容量データ解析に対応した計測プログラムで実験の効率化が期待される。ESRF-EBSに続いて米国APSのアップグレード、日本のSPring-8のアップグレードが計画されており、北京に建設される6GeV光源を含めて世界の第4世代6GeV光源の4極時代を迎える。

 

ESRFのリーダーシップ〜フランチェスカ

ESRF-EBSの責任者はかつてベル研にいた、フランチェスカこと、イタリア系米国人のセッテ氏が引き継ぐことで、ESRFの運営もシームレスにESRF-EBSに移行するだろう。フランチェスカはSSRFやNSLSの軟X線ビームラインで活躍していたが、明るい性格と対照的な明晰な頭脳で同僚の人気が高かった。(チームの研究者が実験で彼の手腕をあてにしていたようだ。)セッテ氏は頭脳明晰だが時にクールで、(人事に関して)冷徹な決断力を発揮するので好き嫌いがわかれるかもしれない。加速器部門の責任者であるレイモンデイ氏もまたイタリア人の典型でこのふたりのコンビネーションの良さもESRF-EBSが順調に展開している原動力なのかもしれない。(筆者にはイタリア人の性格と加速器研究者のイメージがどうしても一致しない。)

SPring-8のダークタイムの影響をなくすとして建設が急がれるSLiT-Jはまだ建設開始に至っていないが、このままだとESRF-EBSの登場する2020年代に間に合わないばかりか、関東の中心であるPF/ARが老朽化して、日本に第4世代光源がない「ダークタイム」時代が訪れることになるだろう。

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Credit: ESRF

 

第4世代光源を支えるイタリア系加速器研究者

そういえばイタリアはフラスカテイに加速器施設があるが、優秀な加速器研究者はダイアモンドやESRFに頭脳流出して、活躍している。ダイアモンドの加速器研究者バトリーニ氏はDBAにこだわり、DDBAやTDBAといったラテイスでアップグレードに挑んでいる。(ちなみにSLiT-JもDDBAラテイスである。)イタリア系加速器研究者は「社交的」で世界の加速器研究者コミュニテイにおいても、際立った存在の印象を受ける。

日本の加速器研究者は優秀なのだから3GeV光源建設が順調にいかないのはおかしい。ひょっとしたらセッテ氏のようなリーダー役とそれを補佐する「社交的な」加速器設計者の組み合わせが機能し、潜在ユーザーも含めた全ユーザーの支援が必要なのかもしれない。

とはいってもESRF-EBSやCERNで圧倒的な成功を収めた感のある欧州だが、政治組織(EU)は英国の離脱、フランスの反政府デモ、移民問題でつまづいたドイツ、実質的に財政破綻しているイタリアと将来性は問題累積で、基礎科学予算が日本のように減少基調になってもおかしくない。イタリアの加速器研究者たちも自国で予算をとる見込みがないことから頭脳流出したともとれる。結局、ESRF-EBSもLHC以降の加速器もEUの財政問題を避けることはできない

 

加速器科学の宿命といえる「建設コストの高騰」を解決するのはテーブルトップ光源しかない。ESRF-EBSもそのための準備のひとつであり、縁遠いと思われていたプラズマ物理、コミュニテイが異なるレーザー科学が救世主になるだろう。

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