磁気ブラッグ反射による反強磁性ドメインイメージング

ルトガー大学が率いる研究チームは、磁性材料を用いた "スピントロニクス"またはスピンエレクトロニクスの新たな研究分野に役立つX線イメージング技術を開発した(Kim et al., Nature Comm. 9, 5013, 2018)。

 

スピントロニクスと磁気ドメイン

磁性材料には、電子スピンが規則的に配列された明確な領域(磁区)が存在する。反強磁性物質では、隣接する原子上のスピンは互いに反対向きである。各ドメイン内のスピンは整列しているが、隣接ドメインの「逆位相」ドメインおよびそれらの間に存在するドメイン壁の画像化は、磁気状態を制御してスピントロニクスデバイス(注1)の開発に不可欠である。

(注1)スピンントロニクスではドメインの数、形状、サイズ、位置制御が目標となるが、磁壁の電子特性は材料のバルクの電子特性とは異なる可能性があるため、ドメインとドメイン壁を制御する方法を見つけることが鍵となる。電子スピンが電荷移動よりもはるかに速く、反転することができるため、スピントロニクスデバイスは今日のエレクトロニクスよりも本質的に高速化が可能でしかも発熱がない。

 

反強磁性物質のドメイン観察

反強磁性物質のスピンは相殺されるので、これらの材料は大きな磁力を持たない。したがって、それらのスピン配向は、より速く反転させることができ、他の磁化源と干渉しうる浮遊磁場を生成しない。それらを制御するためには、ドメイン壁が、温度変化、電場、光パルスなどの外乱に応答してどのように動くかを知る必要がある。

この研究で研究チームは鉄系反強磁性物質の磁気秩序を調べるために、NSLSIIのCSXビームラインのコヒーレントなX線ビームを円形のピンホールから取り出して、材料中のスピンのエネルギーと近く共鳴するエネルギーに設定して、試料から磁気ブラッグ反射されたX線の強度を計測した(下図)。

 

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Credit: CSX@NSLSII

 

反強磁性ドメインのX線回折

NSLSIICSXビームラインの入射ビームはコヒーレントであるため、ドメイン間の干渉を可視化することができる。今回の研究で磁気回折は反強磁性物質の逆位相ドメインイメージングに初めて成功した。

1秒の数分の一で、数100ミクロン領域にわたって反強磁性ドメインの境界画像が得られるが、個別の画像をつなぎあわせて、より大きなミリメートルサイズの領域の画像も得ることができる。

 

この研究では高温で磁場で反強磁性秩序を壊し、それを冷却しながら磁区がリアルタイムでどのように変化し、磁区配置を観察した結果、ドメインが熱サイクルごとに自由に動くことができるが、特定のドメインは動かないことを発見した。

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Credit: Nature Comm.

 

研究チームはこの技術の現在の解像度を100ナノメートル以下に改改良する計画で、その分解能が実現すれば磁壁の厚さを決定することができるようになると期待されている。

CSX(Coherent Soft X-ray)は23-ID-1を光源としたビームライン(下図)で、真空チェンバー中に回折計が設置されている。

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CSX@NSLSII

 

放射光の能力を最大に発揮するNSLSII

このコラムで何度も書いているように、NSLSIIは放射光源としては決して最新の設計ではない。ダンピングウイグラーという「力づく」で低エミッタンスをつくりだしているが、光源利用技術に関わる多くの技術者と経験を積んだ研究者層が厚く、利用研究では世界の先端光源とひけをとらない。実際この研究グループのリーダーであるイアン・ロビンソンは表面X線回折のパイオニア的存在で、古くから放射光X線回折研究をリードしてきた。

NSLSIIには利用技術の開発者が多く関連企業が密集していることを考慮すると、3GeVリングとしては突出した規模(周長)と相まって、今後も世界の放射光をリードしていくことは間違いない。3GeV光源の建設で出遅れた日本だが、NSLSIIの行き方は「光源の性能だけを追求することが全て」ではないことを再認識させるかのようである。

 

下の写真はNSLSIIのCSXビームラインの実験を制御卓の周りに集まったこのステーションの関係者たちの顔ぶれである。真剣な表情の関係者はビームラインサイエンテイスト、テクニシャン、アカデミアからの研究者に混じって周囲にある関連企業からのユーザーと幅広い。CSXを含むNSLSIIのビームラインはそれぞれが、個性豊かであると同時に利用技術的にはいずれも最先端である。各ビームラインは(施設がつくってユーザーに開放する旧来のスタイルではなく)このような一団の熱心な働きかけで実現した。

光源をどうつくるか、どこに誰がつくるか、よりも誰が何に使うのか、それで何が得られるのかが問われているように思えてならない。NSLSやNSLSIIを訪れるとどこにこんなに人がいたのか、と思うほど熱心な「関係者」で溢れかえっていることに驚かされる。それも世界の放射光施設の中でも交通の不便さでは上位にランクされるにも関わらず、である。先端産業のR&Dでは放射光の最先端利用技術をアカデミアと共有することが重要なのかもしれない。

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Credit: CSX@NSLSII

 

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