光合成中間生成物の構造解明〜LCLS-XFELがコックモデルの全貌を明らかに

これまでの膨大な数の研究が行われてきたが、光合成のメカニズムは謎のままである。 SLACの科学チームは、水分を分離した酸素を生成する植物、藻類およびシアノバクテリアの主要な蛋白質複合体であるPhotosystem II(PSII)のこれまでの最高空間分解能イメージを得ることに成功した(Kern et al., Nature online Nov. 07, 2018)。

 

地球を変えた光合成

地球が約45億年前に形成されたとき、二酸化炭素が豊富な大気に襲われ、火山はマグマの海で表面を氾濫させた。次の25億年の間に、空気中に蓄積した水蒸気は雨が降り始め、最初の生命が単細胞生物の形で現れた海を形成した。しかし、太陽の光を利用してそれをエネルギーに変え、その過程で水から酸素分子を放出し、地球が今日の惑星に進化し始めたのは、生命体のひとつが突然変異して光合成機能を持つようになってからである。酸素の光合成は出現以来、エネルギー効率が良くないにも関わらず、実に20億年以上も本質的に変化していない。

PSIIは太陽光を利用して水を原子成分に分解し、水素と酸素を製造している。最近まで、非常に低い温度でしかできなかったが、SLAC研究チームは、この水分解サイクルの2つのステップを室温で観測する新しい方法を開発した。現在では、研究チームはクロックモデルの4つの中間状態をすべて室温で、最高空間分解能で測定することに成功している。さらに2つの状態間の過渡的な中間体を初めて捕らえ、プロセスの6つの状態の構造を全て解明した。

 

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Credit: Nature

 

クロックモデル

PSIIのクロックモデル(上図a)解明は、中心のMn金属と蛋白質がどのように連携し、どのように光がそのような反応を制御するかの理解が進み、太陽エネルギーと水から再生可能なエネルギーを作り出す人工光合成システム開発に役立つ。

LCLSでは超高速X線パルスをプローブとして、X線結晶学と分光データの両方を収集し、PSII中の電子移動過程を追跡した。結晶試料ではX線を散乱・回折像で構造解析を行う。分光法では、それらを励起して化学的(電子)状態について調べ、これらを連携してメカニズム(コックモデル)を絞り込んだ。

 

これまで2.25Åの分解能で2つの状態の室温構造を決定した。1Åは水素原子の直径にほぼ等しい。これにより重金属原子の位置は解明できたが、酸素のような軽い原子の正確な位置は未解決であった(精度が悪かった)。この論文では、分解能をさらに2Åまで向上し、より軽い原子の位置をより正確に決定できた(上図d)。

 

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Credit: Nature

 

酸素発生複合体の中心は、4つのMn原子と酸素原子で架橋された1つのカルシウム原子のクラスターである。太陽光に照射されると、4つの安定した酸化状態、S0-S3を循環する。S0がプロセスの開始点になる。 S1-S3は1番目、2番目、3番目の状態となる。複合体が太陽光の光子を吸収するたびに、これらは順送りに移動していき 4番目の光子吸収でPSIIは酸素を放出して元に戻る(クロックモデル)。水分解に相当するS2からS3への過程(上図)は複雑で、複数の中間体を経由するがそれらの詳細はよくわかっていなかった。この部分の解明は人工光合成すなわち水分解で水素を製造したり空気中のCO2を固定して(還元して)燃料アルコールを製造する技術につながる。

 

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Credit: Nature

 

この論文の最も重要な側面のひとつは、S2とS3の間にある2つの中間状態が解明できたことである(上図)。全サイクル完了までに2ミリ秒近くかかるので最終的には、プロセス全体の原子ムービーを作成するために、最高分解能でそれぞれ50マイクロ秒のステップを捉える予定である。

 

SLACとスタンフォード大学のPSIIの研究者層は厚い。それがLCLSのXFELとSPEARIIIの放射光施設と一体となって、光合成メカニズムに焦点を絞って研究を途切れることなく研究を継続してきた結果が、今回の成果に結びついた。施設だけつくって研究者を呼び込む方式はすでに時代遅れである。施設を建設する際に研究目的を明確にして、人的ネットワークを中心に置かなければ、成果に結びつかない。そのことを意識しない限りハードウエアの性能は生かされない時代になったのである。

 

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