公開にこぎつけたNSLSIIの軟X線非弾性散乱ビームライン(SIX)

ブルックヘブン国立研究所の放射光NSLSIIの軟X線非弾性散乱ビームライン(SIX)ビームラインは、2018年7月15日に公開後初となる実験を行った。 SIXは、165-2300eV領域の超高輝度X線を用いて0.3x2.5μスポットで固体の電子状態を測定するために設計された実験ステーションである。

 

軟X線非弾性散乱に特化したNSLSIIのSIX

SIXで実験を行う最初の研究チームは、マサチューセッツ工科大学である。この研究チームの目的は、クロム酸塩化合物の磁気、バッテリーおよび触媒作用の新しい応用研究にSIXを活用することであった。その電子構成を理解することで、超伝導エレクトロニクスにおける新規アプリケーションの可能性を評価するためにSIXの共鳴非弾性X線散乱(RIXS)実験装置(下図)が用いられた。

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Credit: NSLSII SIX

 

NSLS-IIのSIXビームラインは、隣接建物に収容された高分解能分光アームに特徴がある米国内で最新のRIXSビームラインの1つである。下図は測定例のマグノン分散曲線。

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Credit: researchgate

 

SIXの特徴

ESRFやSPring-8などの世界の放射光施設には同様の非弾性散乱測定システムが整備されているが、SIXビームラインの特徴は15mアームの分光系による14meV@1keVという高分解能が特徴である。光源はEPU57(9)(Apple-II)アンジュレーターとなる。NSLSIIのEPUは真空封止型を採用せず、アルミニウムで作られたチェンバーにNEG加工を施したものである。試料は下の写真の真空チェンバー中のゴニオメーターに取り付けられて測定される。

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Credit: SIX@NALSII

 

コミッション後の公開実験は今回が初めてという建前になっているが、建設立ち上げグループによる高分解能非弾性散乱実験の先行研究の成果はすでに報告されている。一例をあげれば

・RIXSによるLSCOのマグノン励起分散, Phys. Rev. Lett. 077002, 2010

・RIXSによるCoOナノ結晶の電子構造, J. Phys. Chem. C116, 15218,2012

・O2ガスの振動共鳴散乱, Phys. Rev. Lett. 106, 153004, 2011

 

世界のRIXSステーション

なお世界の放射光施設のRIXSステーションの中で、最も装置的に充実し人気が高いのはESRFのID20であるが、ここは軟X線ではなく拡張されたTenderX線領域(4-20keV)を対象としたもので、半径2mまでの分光系となる。測定系としてはSPring-8のBL35XUに近いが、ここでは100μスポットで14.4-25.7keVの硬X線領域の高分解能非弾性散乱を計測するためのもので、NSLSII SIXと対象とするエネルギーの重なりはない。

競合するRIXSステーションはESRFのID32軟X線分光ビームラインで、ここにはNSLSIIのSIXのお手本となった10mアームによる分解能10-5を有するステーションが設置されている。また最新鋭の放射光施設MAXIVで、300eVから1.5keVの領域で、100μスポットに対して10-4の分光が可能となっている。さらにSLSの硬X線領域のSuperXASビームラインにも簡易的な分光系を持つRIXSステーションが整備されて、オペランド実験に成果をあげている

 

現状を概観すると中性子非弾性散乱に対応した物質の動的構造因子計測を目標とした硬X線領域の非弾性散乱ステーションから、軟X線領域を用いて触媒やバッテリーなどエネルギー科学を対象とした電子状態研究に中心が移行した感がする。

この事実こそが何故、日本に3GeV放射光が必要なのか、という本来は正当な理由になるはずの理由だった。不幸なことに軟X線光源不在論や産業利用のための新たな運営形態の必要性といった別の視点に置き換えられてしまったことは残念である。

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