3GeV放射光の動向について2018.9.28

3GeV放射光はいったいどうなっているのだろうか、という疑問を持つ放射光関係者は多いのではないだろうか。2018年7月3日、文部科学省は次世代型放射光施設を、東北大学青葉山新キャンパス(宮城県仙台市)に建設する方針を決定した。国と共同で施設の整備や運用を担う地域・産業界パートナーを文科省が公募し、東北の産官学団体を中心とするSLiT-Jチームの提案が採択された。同時に主体的な施設建設と運営の受け皿としてQSTがあたることになった。

 

一方でSLiT-J計画は独自に加速器設計を進めCDRが国際評価委員会に認められる中で、母体となる運営組織が光科学イノベーションセンター が発足し、形式的にはQSTの公募に唯一応募し採択された。これに対応して建設を前提とした利用計画も進展があり、部分的には動きが活発化した。

しかし加速器の建設主体や資金調達の目処については情報が少なく、放射光学界で加速器の設計案について発表があるくらいで、目だった動きがなかった。

QSTは光科学イノベーションセンター、 宮城県、仙台市、国立大学法人東北大学、東北経済連合会(パートナー)を代表する光科学イノベーションセンターとの間に、平成30年9月12日付で「次世代放射光施設(軟X線向け高輝度3GeV級放射光源)の整備・運用等に係る詳細の具体化に関する連携協力協定」を締結した。これを基盤としてQSTとパートナーとの連携・協力関係が構築され、3GeV施設の整備・運用に関する検討・調整を開始するとしている。

 

この3GeV施設がSLiT-J計画のスペックをそのまま引き継ぐのか、名称や細部が変更されるのかは明確にされていない中で、11月25日に仙台市で次世代放射光施設シンポジウムが開催される。そのプログラムの施設に直接関連する講演を見ると以下のようになる。

「加速器について」 田中均 量子科学技術研究開発機構/理化学研究所

「建屋について」 鈴木一広 光科学イノベーションセンター

「光源について」 高橋正光 量子科学技術研究開発機構

「ビームラインの検討状況」 有馬孝尚 東京大学

このプログラムを見るかぎり、SLiT-J計画がそのまま生きており、加速器は理研が中心となり、光科学イノベーションセンターとQSTが加わった共同チームが主体的な建設者だと考えられる。

 

2023年度に次世代放射光施設が仙台に誕生するというメデイアの報道がある。2023年度コミッショニングを想定するのであれば、5カ年の建設は2019年度から開始されるだろう。

しかし最終的な資金調達がパートナーと国が分担する大前提が、成立するのかどうか、すなわちパートナーの資金調達能力と国の予算確保の確証が明確になっていない。文科省も公式にパートナーの資金調達能力にリスクがあることを認めているが、もし資金調達が困難になった場合には地方行政や国が補填してでも実行する用意があるのだろうか。

 

新しい放射光施設が日本に誕生することは願ってもないことではあるが、どう考えても未知の部分、不確定の部分が多く不安な気持ちになる。本コラムでは資金調達能力のリスクを指摘していたが、最近になってこの問題をとりあげるメデイアも出てきた。

以下、仙台放送NEWSより抜粋

総工費360億円のうち、約半分の170億円は県や仙台市など地元負担となりますが、これまでに集まっている資金は仙台市分の23億円。

企業からの寄付金も総額72億円を見込んでいますが、現時点ではまだ25億円です。
宮城県は「議会提案前」として負担金額を公表していませんが、最終的に170億円に届くかどうか不透明なのが現状です。

パートナー資金調達が実現するのか、資金調達リスクを抱えながら、建設が前倒しになった場合、どこが補填するのか、現時点で明確ではない。文科省のいうリスクの処理について具体的な方策が検討されないまま、建設の前倒しになる前に、責任の所在を明確にするべきではないだろうか。

 

もちろん2019年度から建設が始まり、早く次のフェーズであるSPring-8IIやKEK-LSの検討に移行することがコミュニテイの願いであるので、ここでつまずけば全てが共倒れになるリスクがある。もちろんパートナーが資金調達に失敗した時に備えるセーフテイネットを準備するにこしたことはないが、加速器施設の場合に民間資金の比率が高すぎるのであれば、ハードルを下げるなどの工夫も考えるべきなのではないだろうか。かといって地方財政が厳しい折に負担金を増額することも望ましくない。宮城県の予算規模は1兆2,000億円で、そのうち投資的予算は約1/10であるが、2018-2019年度にかけて減少傾向にあり、100億円を超える負担はきびしい。

 

本来なら予算に合った施設をつくるのが筋なのに、では何故3GeV光源にそこまでこだわるのだろうか。

(1) パートナーシップという新しい形式の運営が放射光利用の活性化につながるという考え

(2) SPring-8IIのためのシャットダウンのダークタイムの代替え光源の役割

(3) 背景にあるアカデミアを巻き込んだ3GeV光源への期待

これらがが渾然一体となって大きな力が働いているからであろう。2012年に第二次安倍内閣が誕生する直前、SliT-J計画推進者は、自民党の選挙圧勝の暁には、300億円の予算が「アベノミクス」の一環として、供出される約束をとりつけている、と豪語していた。しかし実際には選挙で自民党は圧勝したがこの公約は実行されなかった。アベノミクスにとってこの金額は大きな支出ではないはずだから、問題はそう簡単な話ではなかったようだ。

 

不安定で不透明な状況を次世代の発展につながる試練として受け止めるべきなのだろうか。次世代型原子炉同様に、先進性の代償はコストであり老朽化原子炉更新が遅々として進まない状況と似ている。筆者は放射光も原子炉もどちらのジレンマも永続するものではなく、次次世代(40年後)には(レーザー加速器やHHGなど)新光源や(人工光合成など)新エネルギー源が選択肢が広がると期待している。バブル期に放射光の多様性を容認した日本は独特の文化をつくりだし人口当たりの放射光限数では群を抜いている。しかし時が経ち長らく経済停滞で緊縮財政に陥った今、選択と集中の時代を迎えようとしている。

 

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