電子顕微鏡と放射光の連携で理解が進む光合成のサイクリック電子伝達メカニズム

クイーンズランド大学とミュンスター大学の研究チームは、すべての植物の光合成装置の重要な部分である「サイクリック電子伝達経路」の超分子集合体を精製し、次世代ソーラーバイオテクノロジーの開発で一歩前進した(Janina Steinbeck el al., "Structure of a PSI–LHCI–cyt b6f supercomplex in Chlamydomonas reinhardtii promoting cyclic electron flow under anaerobic conditions," PNAS (2018).

 

光合成では化学エネルギーは、膨大な数の細胞プロセスに不可欠な分子ATPおよびNADPHの形態をとる。ATPとNADPHは光合成生物の増殖を可能にし、成長するにつれ大気中の酸素や、地球上の生命を支える食品や燃料を生産する。その食品を食べて人類はエネルギー源としているから、ヒトは太陽エネルギーの恩恵を受けて生命を保てる。

研究チームによれば、地球上の人口が倍増する2050年までに、燃料を50%、食糧を70%、飲料水を50%増やす必要があり、光合成微細藻類に基づく技術は、これらのニーズを満たす上で重要な役割を果たす可能性があるという。 30億年を超える植物、藻類、青緑色の細菌は、太陽エネルギーが捕獲されて化学エネルギーの形で蓄えられる光合成を可能にする精巧な「ナノ分子機械」を進化させた。人類はこのもっともクリーンで(エネルギー変換効率は低いが)環境に優しい理想のエネルギー源を有効に利用すべきだ、というのである。

 

光合成は、線形電子伝達(LEF)と周期的電子伝達(CEF)の2つのモードで動作する。常に変化する光条件下で効率的に働くためには、光合成生物は、吸収する光と、必要とするエネルギーATPおよびNADPHとのバランスをとらなければならない。これは、これら2つのモードのレベルを互いに連続的に微調整することによって行われる。

 

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Credit: springer 

 

周期的電子伝達(CEF)には巨大分子集合体である「超分子集合体(超複合体)」が重要な役割を果たすことが報告されている。その動的性質のためにこの構造体を分離精製し構造決定することが必要になる。そのため研究チームは微細藻類からCEF超分子集合体を精製し電子顕微鏡を用いてその構造を調べた。なおこの研究に先立ち、岡山大学の研究グループは超複合体 LH1- RCの立体構造を、大型放射光施設 SPring-8を利用して高分解能での構造決定に成功している。(Long-Jiang Yu et al., Structure of photosynthetic LH1-RC super-complex at 1.9 Å resolution, Nature

 

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Credit: science

 

研究チームは、電子顕微鏡で超複合体を探索するために微細藻類から抽出された約50万個の蛋白質を念入りに観察した。これらの約1000個だけがCEFスーパーコンプレックスであることが判明した。構造解析により、光合成細菌光捕集複合体、PSIおよびチトクロムb6f成分がCEFスーパーコンプレックスにどのように組み立てられ、どのようにそれらを動的に接続および切断して様々な光条件およびエネルギー要件に適応する異なる機能を果たすことができるかが明らかになった。

CEF超複合体は、進化論的に高度に保存された構造の優れた例です。多くの植物や藻類に保存されており、何百万年も大きく変わっていない。研究チームは、世界のエネルギー、食糧、水需要の増大に対応する技術を生み出すために、緑藻類の光合成機構を最適化することを目指している。

 

この新しい情報は、食品、燃料、および飲料水の生産のために、マイクロ藻類および太陽光駆動バイオテクノロジーに役立てることができると期待されている。大気からのCO2の抽出と利用と貯蔵は、国際社会が気候変動に対処するソルーションである。また再生可能エネルギー転換の時間軸がEV化の急速なスピードについていけない中、老朽化する原子炉の更新の見込みがない。発展途上国のエネルギー不足を含めると予想されるエネルギー危機が前倒しでやってくる可能性が高くなった。

 

光合成に学ぶべきことは多い

人口光合成のエネルギー変換効率は実用化から程遠いと批判されるが、CO2キャプチャとエネルギー問題を同時に解決できるのは、光合成あるいはその模倣システムしかないのである。後者には光触媒や太陽エネルギーによる水分解など実用化に近づいているものもある。

エネルギー問題に関しては極端なエネルギー比率はありえない。フランスも原子力比率を下げていく方針だし、ドイツやスペインの行き過ぎた再生可能エネルギーも問題がある。それでも日本のような異常な火力依存は早期に解決を迫られる。

経産省は依然として原子力のエネルギー比率20-30%に固執する。その背景には異常な火力比率(84%)がエネルギー安全保障に与えるリスクがある。再生可能エネルギーの水素貯蔵とする水素社会に対して、一部には「水素社会は来ない」として、コストだけを根拠に批判する短絡した議論との無毛な論争が続いている。混乱するエネルギー戦略だが、光合成が地球環境と共存できる理想のソルーションであることに異論はないはずだ。

 

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