Liイオンバッテリーの不良原因を解明〜放射光施設の連携で

過去30年間、Liイオンバッテリーはより長く持続するエネルギー密度で圧倒的な強みとなり多くの小型のデバイスを可能にした。放射光を光源とする分光、散乱実験は研究開発に欠かせない存在となっているが、複数の放射光施設でそれぞれ得意とする手法を組み合わせることで、ブレークスルーが可能になった。

 

硬X線、軟X線光源として米国西海岸の放射光施設拠点となるSSRLとALS両方の施設を使ったX線実験で、Liイオンが電極間を移動する経路は、これまで考えられていたよりも複雑であることが明らかになった。この結果は、材料に関する20年以上の誤った理解を是正し、設計を改善し、潜在的に新世代のLiイオンバッテリー開発につながる可能性がある。

マサチューセッツ工科大学の研究チームは、以前は充放電プロセスでLiイオンの位置や状態が正確にはわかっていなかった。放射光を光源とする計測手法の進歩により、実際にどのように機能するかをより厳密に科学的に理解することが可能になっている。

 

Liイオンバッテリーの弱点〜ホットスポット

Liイオンバッテリーが充電および放電すると、Liイオンは液体溶液から固体リザバーに移動する。しかし、いったん固体になると、Liはそれ自体を再構成し、時には2相に分離する。こその際にLiイオンはホットスポットに凝縮するとバッテリーの寿命が短くなる。 

この研究では、研究チームはLiイオンバッテリーの内部動作を調べるために2つの放射光施設を使用した。 SSRLでは、Liイオンが材料中をどのように動き回っているかを観察するために、リン酸鉄リチウム試料の散乱X線を使った。 ALSでは、X線顕微鏡を使用して、時間の経過とともにLiの濃度マップを得た(下図)。

 

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Credit: Nature Materials

 

これまで、研究チームは、リン酸鉄リチウムは1次元的導電体であると考えていた。しかし詳細にみると、リチウムがそのようなモデルに基づいて予想されるよりも、物質の表面上で全く異なる方向に動いていることを見出した(Li et al., Nature Materials online Sep. 17, 2018)。

X線実験で、Liイオンがバッテリーの固体電極(下図の六角形のスライス)に流れ込むと、再配置され、イオンがホットスポットに集まってバッテリー寿命が短くなる。

 

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Credit: Nature Materials

 

リチウム鉄リン酸塩の挙動が明らかに 

研究チームは、英国バース大学と協力して計算機モデルのシミュレーションを行った結果、Liイオンが材料の表面上で2つの方向に移動し、リン酸鉄リチウムが3次元導体となることを明らかにした。リチウム鉄リン酸塩の挙動はナノスケールで研究する能力がないため、過去20年間にわたり謎であった。

SSRLとALSは湾を隔てて、地理的に有利な連携環境にある。また両方の施設は散乱・回折と光電子分光、イメージングを得意としている。そのため相補的な2施設の利用でこの仕事が成功したのだろう。

 

放射光の連携について

筆者がSSRL滞在時に感じた印象は、研究手法や研究態度にも両者の個性が大きくことなることである。SSRLはすべての実験を受け入れ、各々は仮住まい、のためハッチ内への一時的持ち込みのビームラインが多かったが、ALSは実験の前に実に良く、考えた末に実験するので、装置はビームラインに専用で設置されることが多いように思えた。

何かデータがでるとSSRLもALSでも、あっという間に専門家が集まって白熱した議論が展開する。SSRLでは突飛なアイデアが許された。「なんでもやってみよう精神」である。一方、ALSでは理論に強い研究者や計算ができる研究者が多いためか、伝統的なのかすべてが論理的に運ぶ。そのため突飛なアイデアより理論に対応する実験を好む印象を持った。

いずれにしてもこんな個性的な放射光施設が目と鼻の先にあるのだから幸運な環境に違いない。これから建設される放射光ではここで取り上げた実験が同じ施設でできることが望ましい。研究態度にかんしてはなんでもやってみよう精神は損ねないようにしたい。なぜなら放射光実験ではすべてが予定通り運ぶわけでhないので、「よそ見」をしたり偶然の発見を掘り下げることが不可欠だと筆者は感じているからだ。

 

 

 

 

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