LHCのデータ解析に導入される機械学習データ解析

ILCの実現に向けて国内の加速器科学研究者の動きが活発になってきたが、緊縮財政を背景として、当初の経済効果の精度が低いことと学術会議が時期尚早(注1)としていることを理由に、政府のILC予算化への動きは遅い。

 

(注1)筆者はヒッグスボゾンの先にある標準理論を置き換える超対称性理論の検証に必要なエネルギーフロンテイアでの衝突実験をLHCで継続する必要があること、すなわち新粒子発見の可能性がまだLHCに残されていることが、学術会議の「時期尚早」の意味だと考えている。LHCが今後も(ヒッグスボゾンの精密実験でなく)新素粒子探索の実験を少なくとも20年以上継続することが決まっている。

ニューヨーク大学の研究チームは、世界で最もパワフルな粒子加速器であるLHCが蓄積しつつある膨大なデータ解析を大幅に改善する手段として機械学習を導入する新しい技術を開発した(Brehmer et al., Phys. Rev. Lett. 121, 111801, 2018)。

 

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Credit: Phys. Rev. Lett.

 

2012年7月、LHCによって収集されたデータは、宇宙の理解に重要な役割を果たす粒子(場)であるヒッグスボゾンの存在を裏付けた。翌年、ヒッグスとエンゲラートはノーベル物理学賞を受賞した。研究チームは先に、LHCによって収集されたデータを用いて、ヒッグスボゾンの証拠を検索し、その発見を裏ずける統計的方法論を開発した。

研究チームが新たに開発した機械学習手法で効率的なデータ解析が可能になる。データ解析に際して、正確なシミュレーションと統計的解析手法の間をつなぐ役割を持っている。特徴となる機械学習はデータのパターンを収集することに優れており、この機能を使用してシミュレーションされたデータを要約し、等価式を見つけることができる。

 

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Credit: Phys. Rev. Lett.

 

LHCが蓄積しつつあるデータの解析が進めば新粒子発見に結びつく可能性は高められる、となれば後継機としてFCCあるいはCLICの選択と仕様の決定にまだ時間的余裕があるので、急ぐ必要もないのである。

また成果をあげたATLAS、CMS検出器以外の検出器、例えばLHbも新粒子発見の能力がある。LHbはLHC-beautyの略。実験グループは2013年に「B0s」として知られる粒子の崩壊における「物質-反物質非対称性」を初めて観測した。

CP対称性の破れが確認された四番目の素粒子の発見はCP対称性の破れは現在の宇宙において物質が反物質よりもはるかに多いことを説明する上で非常に重要となる。なおCP対称性の破れは1960年当時、世界の先端にあったアメリカのブルックヘブン国立研究所で観測されている。それから40年、加速器の最先端はCERNに移りATLAS、CMS検出器が大役を果たしたが、LHCbは世界中の研究者が関わる国際コラボレーションで新粒子発見を狙っている。

 

エネルギーフロンテイアにある加速器本体と4箇所の検出器システムの組み合わせで、今後もしばらくは加速器科学最前線の位置を譲らないだろう。さらに実験データを効率よく解析する機械学習解析手法により、LHCのデータの解析効率が上がれば鬼に金棒となる。

LHCがアップグレードしてエネルギーを倍増させた理由は、残されたヒッグスボゾンをはじめ、ヒッグスボゾンの先にある超対称性粒子の発見のためである。エネルギーフロンテイアにいることは、リスクを背負うことであるが、うまくいけばそのリターンも大きい。

ILCが相補的な加速器として具体化するためには、その持続性と発展性が求められるのではないだろうか。LHCの今後20年は下に示すように高輝度化アップグレードのHL-LHCで2035年までは、実験予定が詰まっている。FCCのCDR作業は前倒しとなったとはいえ、加速器設計が軌道に乗るのはHL-LHCが完成してからだろう。一方、直線型加速器の勢力はLCCでILCとCLIC建設を目論むが、CLICの第一フェーズの30km加速器はILCと重なる部分が多い。ILCが予算化されなかったときの保険ととれなくもない。 

 

LHC 2018 09 16 18.46.15

Credit: M. Benedikt & F. Gianotti

 

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