3GeV放射光のランドスケープ〜3つの立場でみた違い

第5世代蓄積リングは1.9〜6GeVまで様々であるが、おおまかにいえば建設しやすい3GeV放射光の競争力は6GeVリングの牙城を脅かすほどにもなった。電力コストを考慮すれば、3GeVを選択することが、コスパ的に最良の選択であることに異論はないのではないだろうか。3GeV放射光や第5世代蓄積リングについてはこれまでたびたび記事をかいているので、ここではそれらの説明は省く。

 

ただし中国は新規建設のHEPSを6GeVリングとしたのは別の理由(かつて日本も巻き込まれた高エネルギーリング・フロンテイア競争)、科学技術立国の威信をかける必要があった。

日本では3GeV放射光の評価と必要性を国内ユーザーと加速器設計者たちが認識しているのに、建設が進まないことには何らかの理由があるはずである。ここでは3GeV放射光の実現を目指す複数の立場を整理して、建設が進まない理由を考察したい。

 

SPring-8のダークタイムとの関連

3GeV放射光とSPring-8(現8GeV)との関連性は薄いと考える人が多いかもしれないが実はそうではない。(以下SPring-8/SACLA年報2016年度より抜粋)

「日本放射光学会等とも連携し、日本にもう一つ第3世代放射光を整備した上で、長期シャットダウンを伴うSPring-8全面改修計画を進める方針を固めた。もう一つの放射光施設は、利用者の地域分布や地震災害等によるリスクを考慮すると、SPring-8からは離れた東日本に置くことが適当と考えられ、それに向けての議論が進められている。」

つまりSPring-8からみた3GeV放射光はアップグレード期間(ダークタイム)中のユーザーの受け皿として、アップグレード開始までに整備しておきたい、ということになる。それならいっそ播磨地区に理研が3GeVを建設してはどうかと思うかもしれないが、東北地域にリスク分散するという上記条件と、SPring8アップグレードと予算化や人的資源の確保が重なることになるのは現実的ではない。

 

地域官民パートナーシップの立場

これに対してSLiT-J計画というのは地域光源であると同時に産業利用を主に考え、公募の枠組みで地域の大学、行政等公的機関とパートナー(注1)企業が資金を出し合い、国の援助を受けて専用の放射光施設を建設することが特徴である。したがって本質的にSPring-8代替えとしての共用光源とは区別されるべきものである。

(注1)SPring-8のパワーユーザーは最近、パートナーと呼ぶことになった。一般的にも国の資金が半分で残りを企業側が負担する資金確保が多くなっている。パートナーシップが国家的事業のキーワードとなっているようだ。

地方官民パートナーシップの公募はすでに締め切られ、宮城県仙台市の青葉山キャンパスに建設サイトが決定された。その後、国は国側の受け皿としてQSTが中心となって、パートナーシップの資金分担の展開次第で、SLiT-J計画案を「参考にして」3GeV放射光を建設するとしている。

 

建設資金は総額が350億円に増大したこともあり、分担計画はきびしいものがある。①ひとつは建設初期に集中する建設資金のパートナーの負担が大きいことがあるが、②計画に加速器維持コストが計上されていないことがある。おおざっぱな設備の年間維持コストは建設費の1/10であり、SLiT-J計画では年間約35億円となる。③第三に放射光の建設、維持とくれば最後に運用人員の雇用コストがある。QST職員や大学職員にパートナー企業からの出向で人員が確保された場合でも、120〜180名の雇用費をみなければ安定運用は難しい。

産業利用と割り切って新しい建設形態を目指す意義は理解できるのだが、予算的にも雇用的にも実効性のある計画にするには、さらなる努力が必要だろう。SLiT-J計画(QST放射光)を成功させるには、新しい建設形態に対応した資金確保と雇用を含めた維持費の捻出スキームを編み出すことが鍵となる。

(以下, 7月3日付けのQST理事長談話より抜粋)

「量研は、既に文部科学省より「官民地域パートナーシップによる次世代放射光施設の具体化等を進めるため、同施設の整備・運用の検討を進める国の主体」との位置付けを頂いておりますが、今回のパートナー決定により、両者(パートナーと量研)による協議を開始し、早急に次世代放射光施設の整備運用に関する詳細を具体化するための検討・調整を図って参りたいと考えております。」これでQSTがようやく動き出したとれるが、検討・調整の課題はいずれも協議によって解決できる範囲の問題ではない。

 

全国スケールでみた放射光整備の優先度

我が国の第3世代放射光としてSPring-8が唯一の存在であり、先端放射光施設として国際競争力の要であることは事実である。しかし放射光利用の実績は第3世代光源が全てではない。日本の放射光施設の特徴は(近頃流行りの言葉で言えば)「多様性」を認めた独特な文化にある。SPring-8稼働後20年を超えてもまだ共同利用施設(UVSOR、PF-AR)を中心に大学や地域が整備した中型小型光源が活躍している。それらの成熟した施設は、層の厚い日本の放射光科学と産業利用を支えているのである。

このような多様性が日本に許された背景には、バブル期の潤沢な財政がある。バブル崩壊から立ち直れない「失われた30年」になろうとする現在、この時に建設された多彩な施設を更新して維持していくことは困難だが、中心的な2施設(UVSOR、PF-AR)は共同利用体制の枠組みの中で、最低限のアップグレードもしくは次期光源につなげていくことも必要ではないだろうか。

 

またSPring-8/SACLAが西日本地区にあり「地震災害等のリスク」や「ユーザーの地域性」を考慮するのであれば、少なくともPF-ARを置き換える中型光源の性能向上を図り競争力を維持するための努力を惜しんではならない。そこで登場したのが3GeV光源KEK-LS計画である。

このように3つの異なる立場によって3GeV光源の性格は(運用面で見れば)様々である。その中でKEK-LSの利点はKEK敷地内ということで、人的資源でも場所的にも加速器建設に有利であることだ。特に入射器を建設しなくてすむメリットは大きい。SLiT-Jの加速器建設コストの中で(将来の自由電子レーザーまで見据えた)フルエネルギー入射器と建物は重荷だろう。しかし最大の利点は運用実績のある人員が確保されている点だ。一方、KEK-LSは共同利用の枠内では予算化が難しいことはすでに記事を書いた。

 

3GeV光源は多面体

ここでは3つの立場からみた3GeV放射光の意味がそれぞれ異なることを説明した。どれが正しい選択なのか決めるのは難しく、最終的には(不幸にして)財政的因子で決定されるかもしれない。しかし日本全国でみた場合の価値、すなわち「全体の利益」を考慮するべきである。秋に向けていよいよ3GeV計画が動き出すことになるだろうが、いずれの場合でも悔いのない実行計画であってほしい。筆者の個人的な提案は、別の機会に譲る。立場が異なるだけで見え方が違うことに惑わされてはならない。

解決策へのヒントは3つの異なる立場でみた3GeV光源は独立性の高いものでなく、ひとつの光源をいわば多面体とみることもあり得るということかもしれない。同一の光源であっても運用面で解決できることは、「多様性」として認めれば良いのではないだろうか。

どこに何をつくるべきなのかは、そうなると自明のように思えてならない。

 

 

 

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