高エネルギー勾配ミニチュア加速器の将来性

LHCのヒッグスボソン発見の偉業にも関わらず、その後継機となる次世代加速器計画始動が遅れている。その理由は2つある。ひとつは急ぐ必要がないこと。高ルミノシテイ化を達成したLHCは今後も世界の加速器研究の頂点に位置付けられるからである。より深刻な問題は経済的な理由である。周長27kmのLHCより大型の加速器の建設が、世界経済の鈍化と先進国共通の債務超過対策の緊縮財政で、予算化が困難になったことである。

 

一方、最近注目されているミニチュア加速器は大型加速器の危機を救うかもしれない。英国インペリアルカレッジの研究チームは、現在の加速器よりも1000分の1スケールで反物質を加速し、エキゾチックな粒子を研究する方法を見出した(Sahai, Rev. Accel. Beams 21, 081301, 2018)。

この新しい方法(レーザーウエークフイールド加速)は、ヒッグスボゾンの性質や暗黒物質とダークエネルギーの性質などの素粒子物理の探求のほか、自由電子レーザーや放射光にも応用できる。既存のレーザーを用いたミニスケール加速器のアイデアが実証されれば、世界中の多くの研究所で粒子加速・衝突実験を行うことができようになり、LHC以降の大型加速器の果てしない建設から解放されるかもしれない。

現在の加速勾配からするとLHCクラスの加速器は少なくとも2キロメートル以上とする必要がある。研究チームは、長さ1メートルのミニチュア加速器を使用して同じエネルギーまで電子を加速するシステムを提案している。

 

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Credit: Rev. Accel. Beams

 

陽電子を加速する加速器は現在、約25平方メートルを占めるレーザーシステムを必要とするが、それはすでに多くの研究所で使われているものと同じで、粒子加速器のサイズとコストを大幅に削減できる。研究チームは2年以内に実用的なプロトタイプ建設を予定している。

この方法では、レーザーとプラズマ(荷電粒子のガス)を使用して、陽電子を生成し、集中させ、加速してビームを生成する。このセンチメートルスケールの加速器は、SLACで陽電子ビームを加速するのと同等の能力を有している。

電子ビームと陽電子ビームの衝突実験は、標準モデルを超える「超対称性」理論で仮定する新しい粒子を探索する以外に放射光や自由電子レーザーを実験室に持ち込めるようになる可能性がある。

 

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Credit: Rev. Accel. Beams

 

加速器のミニチュア化は経済的な困難を背景として大強度レーザーの驚異的な発達で可能になった。危機を好機に変えるという表現がぴったりだが、大強度レーザーの製造メーカーが欧州に限定される現実がある。加速器科学では世界の先端にあっても、レーザーやフォトニクス産業が強いとは言えない日本の将来に不安を感じる。

また衝突実験で使われる3D粒子検出器も同時に微小化を行う必要があることを考慮すれば、加速器のダウンサイズだけで済む話でもない。しかし時間が経てばミニチュア加速器と従来型の加速器の関係は、最新のマルチコアプロセッサと一昔前の大型計算機のような関係にならないとは言い切れない。少なくともミニチュア加速器で放射光や自由電子レーザーが実験室で実現できるようになればX線管と同じようなインパクトがあるだろう。未来の予測は困難だが、限界に近い大型加速器は転換点にさしかかっていることは事実である。

 

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