触媒研究におけるX線吸収分光の新展開

国際研究チームによるBESSY II放射光を光源としたX線吸収分光による触媒研究が新しい展開を見せている。研究チームは遷移金属の電子状態をX線吸収分光で調べ、触媒効果について新しい知見を得ることに成功した。これらの結果は、新しい遷移金属触媒の開発に役立つと期待されている(Kubin et al., Chem. Science online July 19, 2018)。

 

触媒反応プロセスは、反応を促進する原子または分子自体は変化しない。 1つの例は、植物の光合成であり、その中心に4つのマンガン原子サイトを含む蛋白質複合体のサイクリック反応による。酸化還元反応では、受け取った電子によって還元されるか、または放出によって酸化される。遷移金属が重要な機能を果たす触媒の触媒酸化還元プロセスは広く応用されている。

 

1 insightintoc copy

Credit: Chem. Science

 

これらの遷移金属、特にそれらの酸化還元状態または酸化状態は、X線吸収分光法を用いて電子状態を正確に評価することができる。結合電子を直接観測できて選択則で情報量の多い軟X線を用いたL吸収端は特に有用である。 L端吸収分光法では、遷移金属の2p準位からの電子が励起され、d軌道を占めるようになる。

電子軌道のエネルギー差は、既知の方法で分子または触媒の酸化状態を反映するX線吸収スペクトルから決定することができる。しかしながら、酸化還元反応の間に触媒によって電子が吸収または放出される正確な場所、すなわち触媒中の電荷密度が酸化状態によってどのように変化するかは、以前は調べることが困難であった。

これは主に、基底状態および励起状態の触媒分子の電荷密度の理論的記述、および信頼できる実験データを得ることが困難であるという理由によるものであった。遷移金属が錯体有機分子錯体中心に存在する場合、実験のプローブ光であるX線で損傷を引き起こすからである。

 

c8sc00550h f2 hi res

Credit: Chem. Science

 

X線吸収分光法の触媒研究の新展開を目指して、ヘルムホルツ研究所、ウプサラ大学、ローレンス・バークレー国立研究所、マンチェスター大学、SLACからの研究者で組織された国際研究チームは様々な酸化状態でマンガン原子を研究することに成功した。 BESSY IIでのオペラント測定を通じた様々な化合物における酸化の異なる状態のスペクトルが得られた。サンプルを溶媒に溶かしたジェット流にX線ビームを照射し、スペクトルを計算と比較した。 その結果、どのようにしてX線吸収スペクトルが酸化状態でどのようにシフトするのかを決定することに成功した。

 

量子化学計算と実験を組み合わせた新しいアプローチで、有機金属触媒の理解進むものと期待されている。 重要な知見は、金属上で局所的に起こるのではなく、分子全体で起こる酸化と還元の全貌が実験と計算を結合して可能になったことのインパクトはお大きい。光合成におけるマンガンクラスターのような、より複雑なシステムにおける将来の研究の基礎となるかも知れない。

 

c8sc00550h f7 hi res

Credit: Chem. Science

 

BESSYIIは最新の3GeV放射光より古いが、BESSYのアップグレードではなく挿入光源を主に考慮して設計された別の放射光である。BESSYの入射器の一部であったマイクロトロンはSESAMEに運ばれて再利用されている。今回の国際研究コラボレーションはSLACで先駆的なMn PSIIの研究をしていた日本人の矢野博士が参加しており、またヘルムホルツ研究所やSLAC(LCLS)で開発されたジェット流を観測する実験機材が使われている強力な研究チームである。計測法以外に計算と実験データを組み合わせて解釈の信頼性高めたことがポイントである。

L端X線吸収分光は情報量が多いが、計算を活用してそれらを引き出せるようになったことが大きい。BESSYIIは1.7GeV、周長240mの中型放射光だが、直線部16本を中心いユーザ1,800人のドイツの放射光拠点の一つである。7TウイグラーやIR-THz領域で1-2psecの短パルスバンチ運転など、個性的な施設となっている。BL50本(正確にはステーション)が所狭しと並んでいる。日本からリピーターとなるユーザーも多い。ALSを一回り小さくした印象だがステーション数は大型施設と引けを取らない。

 

floorplan 2017

Credit: BESSYII

 

 

You have no rights to post comments

スポンサーサイト

Copyright© 2013.   放射線ホライゾン rad-horizon.net   All Rights Reserved.